がんに放射線を照射するのは、免疫の司令塔・樹状細胞の働きを高めるため 免疫療法の最先端を走る放射線免疫療法
口腔がんの温存療法から生まれた治療法

免疫療法を施した後のDTH反応
「口腔がんは手術するのが一般的です。ところが、私の上司の佐藤教授は、手術すると顔が変形するので、できれば手術せずに治したいと、治療法を模索していました。そうした中から、放射線と抗がん剤に免疫賦活剤のピシバニールを併用する治療法を考案したのです」
この治療法の治療成績は非常に優れていて、がんが完全に消失する割合が57パーセントというものだった。ピシバニールを使わなかった場合、がんの完全消失率はわずか15パーセント。この違いから、免疫がかなり影響していると推測できた。
「ただ、がんが再発してきた場合には困りました。すでに放射線も抗がん剤も使っているし、その攻撃をかいくぐって増殖してきたがんなので、たちの悪いがんである可能性があります。このような、放射線も抗がん剤も太刀打ちできなくなったがんに対して、何か対抗する方法がないかと探して、樹状細胞療法にたどり着いたわけです」
樹状細胞は、皮内に打つ方法と腫瘍内に打つ方法がある。両方行ってみると、腫瘍内に打ったほうがよく効いているようだった。調べてみると、腫瘍内に樹状細胞がたくさん浸潤しているほうが、予後がいいことがわかったのだ。これまでに放射線免疫療法を受けた患者は、すでに70人にもなるという。そのなかから、代表的な症例を紹介してもらった。
唾液腺のがんは消え肺転移は増殖停止
放射線免疫療法が誕生したのは、口腔がんの治療がきっかけだったという。
症例1 50歳代後半・男性
唾液腺がんの中で、最も悪性度の高い腺様のう胞がんの患者さん。放射線治療も化学療法も効かないのが特徴で、すぐに手術を受けた。ところが、その後再発。リンパ節転移も見つかったため、もう1度手術を受けている。頸部郭清術でリンパ腺も切除し、術後に60グレイの放射線治療を受けた。
ところが、それでも再発。5-FU、シスプラチン���ど、数々の抗がん剤治療を受けたが、まったく効果はなかった。肺にも転移が見つかっていた。
「来院したときには局所の痛みがひどく、モルヒネを使って痛みを抑えている状態でした。構音障害や発語障害があって、うまくしゃべることができませんでした。嚥下障害もあり、QOL(生活の質)はかなり低下していましたね」
放射線のピンポイント照射と樹状細胞の局所注射を行ったところ、唾液腺のがんは消え、痛みもすっかりなくなった。モルヒネはもちろん、ほかの鎮痛薬も必要なくなっている。
顎関節を使わなかったことにより、関節が固まってしまい、開口障害が現れていた。これに関しては、専門の医療機関で治療を受けている。
「肺転移に関しては、治療してもほとんど変わりませんでした。7~8カ月間という長期にわたって進行が止まっていることから、全身的にもある程度の効果は期待できるようです」

局所やその近辺への効果は高いが遠隔転移への効果はそれほどない
症例2 70歳代前半・女性
直腸がんが再発した患者で、骨盤内のリンパ節に転移が見られ、肺にも転移していた。そこで、再発部に30グレイの放射線をピンポイントで照射し、そこに樹状細胞を局所注射した。
再発部は完全に消え、リンパ節転移のほうは、わずかに残っている状態だった。腫瘍マーカーのCEAは、18.4から2.6に下がり、完全に正常値となっている。ただ、肺の転移巣は縮小せず、新たな転移巣も出てきている。
「樹状細胞療法は、理論的には全身的に効果があるはずです。ところが、局所注射した部位や、近い領域のリンパ節転移などには比較的よく効きますが、遠い部位の転移巣への効果は、それほどでもありません。ただ、進行が止まるなど、ある程度の効果が認められるケースもあります」

症例3 40歳代後半・女性
肺がんの患者で、右肺のがんは直径5センチほどの大きさになっていた。脳と骨に転移があり、脳は別の医療機関で放射線治療を受けていた。
「肺の樹状細胞療法は、局所注射する際のリスクが大きいので、あまりやっていません。ただ、深刻な状況でしたので、患者さんにはリスクが伴うことを十分説明したうえで、治療に踏み切りました」
放射線照射と樹状細胞の局所注射を行ったところ、右肺のがんは完全に消失した。ただ、骨の転移巣には効果が現れなかった。

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