抗がん剤や放射線が無効の卵巣がんや子宮がんで、がんの増殖が長期間止まった 婦人科がんでも有望視されるWT1ワクチン療法

監修:宮武崇 大阪府立成人病センター婦人科診療主任
取材・文:繁原稔弘
発行:2010年9月
更新:2013年4月

無増悪生存期間は最長320日

大阪大学で宮武さんたちの研究グループは、抗がん剤や放射線が効かなくなった婦人科がんの患者さんたちに協力してもらい、WT1ワクチン療法の臨床試験を行った。

「対象となったのは卵巣がんや子宮頸がんなどの患者さん27人。いずれも検査でWT1による免疫反応増強が期待でき、6カ月以上の生命予後が見込める人たちです。WT1ペプチドを毎週1回、12週間投与し、がんへの効果を調べました」

その結果、約30パーセントの患者さん(7人)は、がんの増殖が抑えられた。これらの患者さんの無増悪生存期間()は最長320日だった。

「全体での無増悪生存期間の中央値は55日でした。DTH(免疫反応検査)との関係を調べたところ、陽性の人は陰性の人に比べ、全生存期間が長かったこともわかりました」

無増悪生存期間=治療後、がんが進行せず、安定した状態である期間

[婦人科がんに対するWT1ワクチン療法の効果]

症例 前治療結果 WT1 治療までの
進行継続期間(日)
WT1治療 後の
無増悪生存期間(日)
1 進行 405 175
2 進行 434 196
3 手術後がんが残存 81 320
4 進行 655 196
5 進行 155 92
6 再発 178 273
7 進行 1198 180
中央値   405 196
大阪大学の臨床試験。婦人科がんの患者さん27人のうち、がんが進行しなかった(不変)7人のデータ

[WT1ワクチン療法の効果を示す症例]
図:72歳女性 卵巣がん(ステージ3C)
CT画像

臨床試験なので金銭的負担はない

「WT1をモンタナイドという、ごく弱��免疫を活性化させる働きのあるものと混合させて、1週間に1回ずつ、計12回(慢性骨髄性白血病などは2週間に1回ずつ、計6回)、皮内注射します」と宮武さんは説明する。WT1による治療中には、DTHによって、WT1への免疫応答の有無を調べたり、定期的に画像検査を受けて、腫瘍への効果を調べていったりすることが必要になる。また、がんの進行により、全身の状態が悪化すれば、投与の中止となる場合もある。

その後は、原則として外来に週1回通院して注射を受けることになる。なお、WT1ワクチン療法を受けるに当たっての費用に関しては、「入院や検査費といった一般的な費用は、通常の入院や外来と同じく必要ですが、WT1ワクチン療法は臨床試験の段階ですから、投与とそれに伴う特殊検査については、今のところは患者さんの負担はありません」(宮武さん)。

がんの治療で注目すべき効果をあげているWT1ワクチン療法だが、過大な期待を寄せるのはまだ早いと宮武さんは警鐘を鳴らす。

「私がこれまで患者さんに行ったWT1ワクチン療法の結果では、残念ながら、がん細胞が縮小したり、無くなったりした症例はありませんでした。中には、がん細胞の増殖が止まって、その状態が維持された症例もありましたが、個体差がありますから、それがWT1ワクチン療法の効果によるものかどうかはわかりません。
現時点では、少なくとも婦人科系のがんに関しては、まだ研究段階であるとしかいえません。ただし、その他の治療実績などを見ると、今後の研究に期待しています」

受けるにはさまざまな条件が必要

いずれにしても、WT1ワクチン療法は、まだ臨床試験の段階であることは間違いない。それでもWT1ワクチン療法を受けたいという場合には、次のような基準をクリアしなければならない。

16歳以上80歳未満であること。悪性固形腫瘍、または血液悪性疾患(白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫)であること。がん細胞にWT1が出ていること。HLAの型がHLA-A2402であること。ほかの重い病気にかかっていなくて、全身状態が安定していること。今まで受けてきた治療(手術、抗がん剤、放射線治療など)で、十分な効果が得られなかったこと。自ら、この治療を希望していること――など。

そして、これらの基準に適合しているならば現在、治療を受けている主治医に相談し、その主治医を通して臨床試験への参加を希望すれば、大阪大学をはじめ、WT1の臨床試験に参加している医療機関で治療を受けることが可能となる。

ただし、臨床試験であるため、安全性が完全には証明されていない面があることを承知しておく必要がある。また、WT1の臨床試験として行う場合を除いて、抗がん剤や放射線などほかの治療は受けることができない。

さらに、病状に関して心機能、肝機能、腎機能に関する検査値や身体の状態が基準を満たしていない場合は、臨床試験の対象とならない場合もあるので、必ず医師に確認をしてほしい。

[WT1ワクチン療法の臨床試験(2010年7月15日現在)]
臨床試験の対象となるがん

血液悪性疾患 急性骨髄性白血病
急性リンパ性白血病
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫
慢性骨髄性白血病
骨髄異形成症候群
同種造血幹細胞移植後再発
同種造血幹細胞移植後再発予防
頭頸部のがん 舌がん
歯肉がん
口腔底がん
咽頭がん
喉頭がん(頭頸部扁平上皮がんのエントリーを休止)
唾液腺がん(病理組織が扁平上皮がん以外の唾液腺がんが対象)
甲状腺がん
胸部のがん 乳がん
肺がん
胸腺がん・胸腺腫
中枢神経系の
悪性腫瘍
悪性神経膠腫(グリオブラストーマ)
中枢神経原発悪性リンパ腫
髄芽腫・原始神経外胚葉腫瘍(PNET)
消化器のがん 膵臓がん (対象条件があり)
肝がん
胆管がん
泌尿器・
生殖器系のがん
腎がん
胚細胞腫
ウイルムス腫瘍
前立腺がん
子宮体がん
卵巣悪性腫瘍
筋・骨格系の
悪性腫瘍
骨原発性悪性腫瘍(骨肉腫、ユーイング肉腫など)
軟部肉腫
その他のがん 神経芽細胞腫
原発巣不明のがんは対象外
グリオブラストーマ以外はHLA-A2402のある人のみが対象
小児がん・小児血液疾患は条件つきで対象

連絡先
大阪大学WT1ワクチン臨床試験事務局
Eメール
小児がん・小児血液疾患のEメール)


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