ほとんどのがんに高発現のWT1ペプチドを用いた新たながん攻略法 WT1ワクチンの注目すべき最新臨床効果と今後の課題

監修:杉山治夫 大阪大学大学院医学系研究科教授
取材・文:増山育子
発行:2007年8月
更新:2019年7月

白血病ばかりかあらゆる固形がんも対象に

現在進められている第1/2相臨床試験では、急性白血病やさまざまな固形がん(下表参照)の患者に対して、より有効な投与方法とその安全性が調べられている。

今回は投与スケジュールを毎週1回、計12回に変え、ワクチン3ミリグラムをモンタナイドアジュバントとともに投与する。

急性白血病を再発した患者では、骨髄に見えていた白血病細胞の増え方が、週1回のワクチン投与で6カ月間抑えられた。また、多発性骨髄腫の患者でも、毎週3ミリグラムの投与で骨髄腫細胞の減少がみられた。

効果のあった例では、肝臓に1.5センチの転移があったある末期の乳がん患者。ワクチンの投与によって肝臓のがん細胞の縮小がみられ、9回投与した後にはがん細胞がほとんど見えなくなり、16回投与後に消失した。

この患者の腋の下には腫瘤があり、穿刺するとその液から腫瘍細胞が出てきていたが、9回投与後あたりから腫瘍細胞も見えなくなっていったという。

[ほとんどのがんに高発現するWT1ペプチド]
図:ほとんどのがんに高発現するWT1ペプチド

免疫系が維持されている脳腫瘍にあらわれる効果

とくに効果が顕著なのは、脳腫瘍である。

手術後2年を経過して再発、腫瘍が急に大きくなった患者の例では、寝たきりになり、言葉も「あーうー」程度にしか発することができなくなっていた。その状態でワクチンを打ったところ、腫瘍の増殖が少し緩やかになった。

1回目の投与後4、5日で呂律が回るようになった。4回投与後には椅子に座れるようになり、車椅子で散歩したり、新聞を読んだり、会話もできるようになった。そして15回目の投与後には脳腫瘍の手術を受けた。

脳腫瘍のもう1例では、2回目の投与後に昏睡状態になった。脳圧も亢進し、ときどき脈が止まった。4回投与後から回復の兆しがみえ、8回目の投与後にはテレビを見たり、子どもと歌を歌ったりするまでになった。そして迎えた9回目の投与で脈が正常に戻った。

「脳腫瘍は少し効けば、症状の改善が著明です」と��山さん。

悪性の脳腫瘍の再発例19例のなかでは、部分寛解2例、不変9例、進行8例。

不変の9例のなかで2例はその後に腫瘍の縮小がみられ、進行の8例のうち3例は不変に移っていった。

「脳腫瘍はほかの固形がんの患者さんより比較的免疫機能が維持されていると思われます。そのため高い効果が確認されているといえます。これは私の実感ですが、これまでがんの患者さんは免疫が低下していると考えられていたのですが、末期に至るまでむしろ高まっているのでは、とさえ思うのです」

注射部位が赤く腫れたり、水疱ができたりする患者もいる。なかには1年以上前の注射跡が赤く残る人もいるほど。これは体のなかで強い免疫反応が起こっていることを示している。この患者は注射痕を人に見せて「こんな治療をしてるよ」と話していたという。

効果を高めるため強力なアジュバントを用いる

[WT1ワクチンの効果を増強する方法]

WT1ワクチンの投与法の最適化
(現在、最適化されていない)
・投与量と投与間隔}

アジュバンドの最適化
(現在、最適化されていない)
・GM-CSF,インターフェロン,CpG
・BCG-CWS, ピシバニール

WT1ヘルパーペプチドの併用
KRYFKLSHLQMHSRLH
(HLA-DRB1*0405&HLA-DRB1*1502)

抗がん剤との併用
・TREG(調節性T細胞)抑制

WT1ペプチドワクチンの効果をアップさせていくための方法が模索されている。

そのひとつは「アジュバントを何にするかで効果が10倍も違う」といわれるほど、効果の鍵を握るアジュバント、免疫増強剤の最適化だ。

強力なアジュバントを用いて免疫を刺激し、その機能を活性化させることで、ワクチンの効果を高めていこうというわけだ。

これまで使われていたのはモンタナイドなど弱いもの。アジュバントとしてよりインパクトのあるGM-CSF(HLAのタイプがA-0201で、固形がん、急性白血病などに用いる)、BCG-CWS(HLAのタイプがA-2402で、固形がんの場合)を併用する臨床試験がスタートしている。

そのほかにも効果を増強させるために、「WT1ヘルパーペプチド」をワクチンと併用する考えもある。ヘルパーペプチドによってキラーT細胞を誘導し、がん細胞を標的にして攻撃するキラーT細胞を増やすわけだ。

そして今後の課題としてあげられるものに、免疫療法と抗がん剤治療との併用がある。抗がん剤はリンパ球を殺してしまうので、免疫系を壊してしまう。それでは免疫療法の効果が出なくなってしまう。

しかし、それほど強くない抗がん剤、たとえばジェムザール(一般名ゲムシタビン)などであれば併用が可能であり、将来的にはいろいろな抗がん剤が使えるようになるのではと考えられている。

「ワクチンの反応は1人ひとり違っています。よく反応する人と、しない人。またすぐに効果が出る人と、ゆっくり効く人。臨床試験では末期の人に投与していますが、手術直後、再発直後ならどうだろうか、とか、まだ研究課題があります」と杉山さん。

現在行われている「がんワクチンプラス免疫増強剤」という治療を発展させて、より強力な免疫増強剤との併用、抗がん剤との併用による治療が開始されようとしている。

大阪大学以外でも、高知大病院、愛媛大病院、広島赤十字原爆病院、大阪府立母子保健総合医療センターなど、全国20を超える医療機関で臨床試験が行われようとしており、がんワクチンの臨床研究は拡大している。この臨床研究に関する情報は こちらで紹介されている。

[大阪大学病院で臨床研究の対象となっているがん]

<消化器系>
大腸がん・小腸がん・胃がん・膵臓がん・肝がん・胆管がん
・消化器内分泌腫瘍・消化管カルチノイド
<尿路生殖器系>
腎がん・尿路上皮がん・胚細胞腫・ウイルムス腫瘍・前立腺がん
・子宮体がん・子宮頸がん・子宮肉腫・卵巣悪性腫瘍
<胸部>
乳がん・肺がん・胸腺がん
<血液系>
急性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫
・慢性骨髄性白血病・骨髄異形成症候群・同種造血幹細胞移植後再発
<固形がん>
舌がん・歯肉がん・口腔底がん・咽頭がん・喉頭がん・唾液腺がん ・甲状腺がん
<筋・骨格系>
骨原発性悪性腫瘍(骨肉種、ユーイング肉腫など)・軟部肉腫
<そのほか>
皮膚がん・神経芽細胞腫・悪性神経膠腫(グリオブラストーマ)
・中枢神経原発悪性リンパ腫・髄芽腫・PNET(原始神経外胚葉性腫瘍)
(原発巣不明のものは対象とならない)


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