最低のコストで最大の効果を目指した札幌医大発がんワクチン 「ワクチンでがんを治す日」に向けて実用化進む

監修:鳥越俊彦 札幌医科大学第1病理学教室准教授
取材:がんサポート編集部
発行:2007年8月
更新:2013年4月

インターフェロンとの併用

次に、ワクチン単独でこれだけの効果があったのだから、がん細胞を攻撃するように指令を出し、T細胞の教育係である樹状細胞を活性化させれば、T細胞の攻撃性はより高まり、効果も大きいに違いないというので、ペプチドにインターフェロンを併用する治療が行われた。海外でよく使われているサイトカインであるGM-CSFとの併用療法と比較したところ、インターフェロンとの併用のほうが、GM-CSFよりも副作用が少なく、効果が大きいことが分かった。

これまでインターフェロンというと、直接がん細胞に働きかけてがん細胞の増殖を抑えるために用いられてきた。しかし、インターフェロンには樹状細胞を活性化させる働きもある。このメカニズムに着眼して臨床試験で使う例はあまりなく、新しい試みとして注目されている。

ワクチンとインターフェロンの併用療法は、ワクチンを2週間間隔で投与し、週に2回インターフェロンを皮下注射で投与する方法で行われた。その結果、免疫効果は上がったが、重篤な副作用はみられなかった。

膵臓がんの患者の例では、手術後に再発し、抗がん剤治療を行ったが副作用がひどくて中断。ワクチンを投与したところ、腫瘍マーカーが正常化、再発の徴候はみられない。

「予防効果が高いのも大きな特徴の1つです。ほとんどのがん細胞はサバイビンを発現し、サバイビンを持って出てくるので、ワクチンは再発予防にも効果があると思います。今後は、手術したけどリンパ節転移とか遠隔転移の危険が非常に高い進行がんの患者さんにも有効ではないかと、試験のスケジュールを立てているところです」

世界初の試薬で個別化医療に貢献

写真:サバイビンペプチド
サバイビンペプチド

ただし、劇的に効いた患者がいる一方、効かない患者がいるのも事実。その違いはどこからくるのだろうか。 この点について研究した結果、ワクチンが個々の患者に有効かどうかを事前に判定する試薬を、世界で初めて開発。昨年1月から研究者向けに販売されるまでになっている。

「がん細胞の中には、HLAが細胞表面にあらわれないものがあり、この場合、ワクチンの効果はありません。調べてみると、大腸がんの約3割でHLAがすっぽり抜け落ちている。ワクチンが効いた患者は、だいたいみんなHLAが発現していたのに対して、HLAが陰性だったり、低下していると、効果が少ないことがわかりました」

研究グループによって開発された試薬は、ホルマリン固定したがん組織を染色することによって、HLAが発現しているかどうかをチェックするもの。陽性ならワクチンが効く可能性があるが、陰性の場合は効きづらいことが事前に予測できる。

さらに、この試薬を使うと、がんが再発する危険を予測することもできるという。HLAを発現しないタイプのがんは再発危険率が高いことがわかっている。試薬で染めることによって、再発危険度がわかるというのだ。

「HLAが発現しないがんは、3年ちょっとで全例が再発していました。これに対して、HLA陽性では10年たっても再発しません。HLAが目印を出していて、その目印さえ陽性なら、体の中の免疫監視機構がしっかりと働いて、再発が抑制されるからです。患者さんのがんを調べて、たとえばHLA陰性のがんなら、再発危険度が高く、免疫力が効かない可能性があります。こういう患者さんは、抗がん剤を早くから使って、しっかりしたケアが必要となります。一方、HLA陽性のがんは再発危険度が低く、しかもワクチンが効くので、こういう患者さんにはワクチンを投与します。不要な抗がん剤を使わなくてもよく、個別化医療にもつながる大きなメリットといえます」

がんワクチン、新時代の到来

このようなHLAが発現しないがんは、乳がんや前立腺がんに非常に多く、8割に達することがわかった。このため研究グループでは、発現しないHLAを回復させることができないか、という研究も行っている。

抗てんかん剤として使われている「デパケン(一般名バルプロ酸ナトリウム)」という経口薬がある。実はこれが、乳がん患者のHLAの発現を回復させることがわかってきた。現在、研究グループが計画しているのは、デパケンとワクチンを併用して投与する臨床試験だ。デパケンは数10年も前からてんかんの治療薬として広く使われており、安全で、しかも安い薬。すでにマウスを使った動物実験では、乳がんに対する効果が確かめられているという。

鳥越さんは次のように話している。

「がん免疫の研究はここ数年の間に大きな変化があり、欧米ではすでに第3相試験を終え、去年から今年にかけて製剤化されたものも登場しています。日本はまだ先ですが、これから脚光を浴びるのは間違いありません。とくにがんワクチンは非常に副作用が少ないし、微小転移を抑制する力が強い特徴があります。治療費の面でも安価で、1グラム数百円の世界。特別な機械とか、特殊な能力を持った人が必要ないのも、この治療法の優れている点であり、同じ免疫療法でも、膨大な設備と費用がかかり、施設も限られている免疫細胞療法などとは大きく違うところです。だれもが受けられて、最低のコストで最大の効果が得られる――それが、私たちが開発したがんワクチンの一番の特徴といえるでしょう」


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