ASCOレポート 「免疫」の仕組みを利用したがん治療薬の時代へ より良いがん治療を受けるための最新知見!続々
乳がん治療を変える?
乳がん領域で出色だったのは、HER2陽性の進行した乳がん患者に対してのT-DM1(一般名)と呼ばれる新しい分子標的薬の第3相試験の結果発表だ。
T-DM1はハーセプチン(*)の有効成分であるトラスツズマブと抗がん剤であるDM1を結合させた薬剤。ハーセプチンは、今やファーストラインで使われているゴールド・スタンダードの薬だ。ただし、単独では使われず、必ずタキサン系の抗がん剤と併用される。ところが、ハーセプチンには副作用があまり見られないのに、抗がん剤の副作用がやっかいで、治療中止になることもある。そこで、この問題を解消しようと開発されたのがこのT-DM1だ。抗体に抗がん剤を結合してやれば、ミサイルと同様、乳がん細胞の標的にめがけて薬の弾丸を放つことができ、したがって、昔、これはミサイル療法と呼ばれ、効果が大きく、副作用が少ないと大きく期待されたものだ。
今回発表された試験は、従来のタイケルブ(*)とゼローダ(*)の併用群とで比較されたものだ。

T-DM1群の無増悪生存期間が9.6カ月で、タイケルブ+ゼローダ併用群の6.4カ月を上回ったことがわかった。
また、T-DM1群での治療は、予想通り、副作用が軽いこともわかった。グレード3以上の重度な有害事象の発生率はT-DM1は41% と、タイケルブ+ゼローダ併用群の57%を下回った。
T-DM1が進行したHER2陽性の乳がん治療において、重要な治療選択肢になることが示唆された(図2)。
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
*タイケルブ=一般名ラパチニブ
*ゼローダ=一般名カペシタビン
大腸がんでは生存率改善

大腸がんの分野で注目されたのは、標準治療の後に進行した転移性大腸がんに対し、レゴラフェニブ(一般名)が、全生存期間や無増悪生存期間を有意に改善したことが明らかとなったことだ。
レゴラフェニブは、がんの増殖・進行に関与する複数の経路をターゲットとした薬剤。
レゴラフェニブ群の生存期間中���値は6.4カ月、偽薬群は5カ月(図3)、また無増悪生存期間の中央値はレゴラフェニブ群が1.9カ月、偽薬群が1.7カ月であった。
新たな分子標的薬が登場することで、患者のQOL(生活の質)の向上に期待がかかる発表であった。
難治がんでも分子標的薬

難治がんで知られる肝がんや膵がんでも、分子標的薬の新たな知見が発表された。
ネクサバール(*)での治療で効果のなかった肝細胞がんの患者に対し、MET阻害薬と呼ばれる経口分子標的薬であるチバンチニブを投与することで、無増悪生存期間が有意に延長することが第2相試験で分かった(図4)。
また、全生存期間の延長はみられなかったが、MET遺伝子ががんの発現に大きく関わっている患者では、生存期間の延長もみられたという。
この結果を受け、現在この薬が有効であるMET高発現の患者を対象とした第3相試験が計画中であることも発表された。
もう1つの難治がん、膵がんにも新たな分子標的薬の可能性が示唆された。
進行膵がんに対する1次治療薬として、ジェムザール(*)と抗IGF1R抗体で腫瘍の成長を抑制する効果が期待できる分子標的薬ガニツマブ(一般名)の併用が、安全に施行できることが発表された。今後は、さらに無増悪生存期間や生存期間を調べ、真の有効性を検証していくという。
難治がんでも治療手段が増えることで、新たな可能性が切り開かれようとしている。
*ネクサバール=一般名ソラフェニブ
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
慢性リンパ性白血病でも
ベンダムスチン+リツキシマブ療法の効果](無増悪生存率)

血液がんの領域では、トレアキシン(*)の有効性についての試験報告が多数発表された。1つは、低悪性度リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫の1次治療薬として、トレアキシンとリツキサン(*)の併用療法が、従来からのR-CHOP療法(*)と比べて無増悪生存期間と完全寛解率を有意に改善し、副作用も少ないことが、第3相臨床試験で示された(図5)。
また、慢性リンパ性白血病の患者に対して、トレアキシンでの治療歴がある患者の再発時の治療法として、トレアキシンの再治療が高い有効性と忍容性を示し、これは治療回数が進んだ患者でも同様であることや、効果的な治療選択肢が少なく予後の悪い再発・難治性の末梢性T細胞性リンパ腫などに対し、トレアキシン単剤での治療が高い奏効率を示したことが第2相臨床試験で明らかとなったことなどが発表された。
今年のASCOでは、免疫学の知見を応用した、新しいがん治療薬が誕生する前夜のような、画期的な発表が注目を集めた。
背景には、世界中の医療関係者が密な連携を取ることで、大規模な臨床試験や罹患者数の少ないがん種に対しての臨床試験が円滑に行えるようになったからだろう。今後も世界中が1つとなり、がん撲滅のために協力しあうことの重要性を考えさせられた。
*トレアキシン=一般名ベンダムスムチン塩酸塩
*リツキサン=一般名リツキシマブ
*R-CHOP療法=リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン
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