自分の免疫細胞も活用してがんを攻撃 PRIME CAR-T細胞療法は固形がんに効く!
固形がんに対して高い治療効果を確認
動物実験は次のように行われました。マウスにがん細胞を皮下接種して、がんをもつマウスを作ります。それを、PRIME CAR-T細胞で治療する群、従来のCAR-T細胞で治療する群、無治療群の3群に分け、治療成績を比較したのです。
その結果、PRIME CAR-T細胞の治療効果が極めて優れていることが明らかになりました。無治療群のマウスは1カ月余りですべてが死亡し、従来のCAR-T細胞で治療した群でも、がん細胞の増殖を十分に抑えられませんでした。それに対し、PRIME CAR-T細胞で治療した群は、顕著にがん細胞の増殖が抑えられ、ほぼすべてのマウスでがんが完全に排除されて長期生存したのです。
また、PRIME CAR-T細胞で治療したマウスのがんを調べてみると、腫瘍内部には、CAR-T細胞だけでなく、そのマウスがもともと持っていたT細胞などの免疫細胞も、たくさん集まっていることが確認されました。
「こうした結果から、私たちが考えた理論通りのことが起きて、固形がんの治療につながっていることがわかりました。従来のCAR-T細胞とPRIM CAR-T細胞の違いは、IL-7とCCL19を作るか作らないかだけ。それだけの違いで、固形がんの治療成績に大きな差が出ることがわかったのです」(玉田さん)
免疫チェックポイント阻害薬との併用に期待
PRIME CAR-T細胞療法は、免疫チェックポイント阻害薬と併用することで、さらに大きな効果を引き出せるのではないかと期待されています。
「免疫チェックポイント阻害薬は非常に素晴らしい治療法ですが、臨床における奏効率はだいたい20~30%程度です。多くの患者さんは、免疫チェックポイント阻害薬を投与しても十分な効果が得られません。なぜ効かない人がいるのでしょうか。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の働きにがんがブレーキをかけるのを、解除する働きを持っています。しかし、免疫のブレーキが解除されても、体の中にがんを攻撃する免疫細胞が十分になかったら、がん細胞を殺すことはできません。免疫チェックポイント阻害薬が効かない人がいる一番の理由は、それだと考えられています」(玉田さん)
最近はホット腫瘍(hot tumor)、コールド腫瘍(cold tumor)といった言葉が使われることがあります。温度の問題ではなく、腫瘍の周囲に免疫細胞がたくさん存在するのがホットで、免疫細胞があまりいない腫瘍をコールドと呼んでいるのです。そして、免疫チェックポイント阻害薬は、ホット腫瘍にはよく効きますが、コールド腫瘍には効きにくいことがわかっています(図3)。

「PRIME CAR-T細胞は、体の中の免疫細胞を活性化させてがんのある所に集める働きがあります。つまり、コールド腫瘍をホット腫瘍にすることができるわけです。そのため、免疫チェックポイント阻害薬とPRIME CAR-T細胞は相性がいいのです。この組み合わせの治療効果が非常に優れていることは、すでに動物実験で確認されています」(玉田さん)
行われた実験は次のようなものでした。PRIME CAR-T細胞療法は非常に効果の高い治療法ですが、投与量を減らしていくと、どこかで効かなくなります。そこに免疫チェックポイント阻害薬を併用したところ、治療効果が得られることが確認されたのです。
「たとえば、患者さんの免疫の状態が悪くてPRIME CAR-T細胞をたくさん作れないような場合でも、免疫チェックポイント阻害薬と併用するという方法が考えられます。併用によって、効果を高めることも期待できるし、投与量を減らせる可能性もあります」(玉田さん)
現在の段階では、CAR-T細胞療法は高額な治療法で、PRIME CAR-T細胞療法も同じように高額になりそうです。日本の医療には高額療養費制度があり、患者さんの負担は抑えられていますが、この治療法が世界に普及するためには、価格の問題を解決する必要がありそうです。この点については、今後、細胞培養装置の自動化を進めるなど、製造過程でコストダウンを図ることにより、徐々に価格が下がっていくことが可能ではないかと考えられています。今後の普及も見据えての取り組みに大いに期待したいところです。
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