薬物療法の進歩で対象となる患者が増えている! 非小細胞肺がん4期からのサルベージ手術
サルベージ手術後の治療内容はどのようなものですか?
サルベージ手術を受けた患者さんが、手術後にどのような治療を行っていたかを示したのが次の図です(図5)。

「サルベージ手術は根治を目指す手術ですから、本来、術後は追加治療なしで再発を起こさず長期生存できるのが理想です。しかし、そのような経過をたどった患者さんは決して多くはないものの、14人中2人おられました」
この2人は共に非EGFR-TKI群の患者さん。1人は術後13年を経過して現在もご存命です。術後に短期間再発予防として抗がん薬治療を受けましたが、その後はずっと無治療で経過しています。もう1人は術後3年余り、まったく無治療で無再発生存を続けています。この患者さんは、手術前に免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けていました。
「これら2人の患者さんは、無治療で長生きされているので、サルベージされた可能性があると考えています。いずれも非EGFR-TKI群の患者さんであり、サルベージ手術で真に患者さんをサルベージできる可能性がある対象は、この群かもしれません」と菱田さん。
EGFR-TKI群は全員が再発しましたが、それでも術後13年、9年と長期生存している人がいます。どちらも再発後にタグリッソを服用するようになり、それを現在も継続しています。
「これら2例は、再発までの期間は必ずしも長くないのですが、再発後の薬物療法がよく効いて、長期生存が可能になっています。サルベージ手術でというより、むしろ再発後の薬物療法の効果によって、長期の生命予後が得られているように思える症例です。サルベージ手術がその後の再発に対する後治療に何らかの良いメリットを与えた可能性がありますが、手術のみで患者さんをサルベージさせるのは難しいかもしれません。EGFR-TKI群に対するサルベージ手術はEGFR-TKI治療を補完する手術といった言い方が適切かもしれません」と菱田さん。
潜在的な対象者がいる可能性がある
今後、肺がんのサルベージ手術はどのような方向に進んでいくのでしょうか。
「それに答えるためには、より多くの患者さんで治療成績を見ていく必���があります。今回発表したのはわずか14例の成績で、あくまで探索的なデータです。もう少し対象者を増やしてデータを集め、検討する必要があります」と菱田さん。
予想されるのは、サルベージ手術の対象となる患者さんは、薬物療法を受けられている内科患者さんの中にもっといるのではないか、ということです。今回の発表では、サルベージ手術が行われたのは、4期の肺がん全体の2%にも満たない患者さんでした。しかし、薬物療法の治療成績が向上しているので、手術を検討すべき患者さんは実際にはもっと多いのではないか、と考えられるのです。
「肺がんのサルベージ手術は患者さんにもよりますが、現在、比較的安全に行えることを、内科の先生にも、患者さんにも、情報共有していくことが大切だと思います。実際にサルベージ手術で長期生存する方がおられることを共有することによって、今より多くの患者さんがサルベージ手術のチャンスを得られるようになると思います」と菱田さんは強調しました。
4期の肺がんでも、薬物療法がよく効いた場合には、サルベージ手術の対象になることがあります。患者さんも、そのことを知っておいて欲しいと思います。
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