咽喉頭がんに ダヴィンチの特徴が発揮される微細な作業による治療法
咽喉頭がん用の細いアームを使用
実際の治療の流れをみる。まず検査が必要となる。CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)、超音波検査などを念入りに行う。
手術当日には、全身麻酔をかけてダヴィンチをセッティングする。セッティングとは、患者の口腔内などほかの部位を傷つけないように口を大きく開けるためにマウスピース、開口器を装着して病変確認を行うことだ。同じ部位のがんでも個人個人で口から喉の状況が異なるため、このセッティングが重要となる。
内視鏡による観察を経て、切除となる。清水さんの東京医科大学病院では、通常のダヴィンチのアームが直径8mmであるのに対し、5mmのものを輸入して使っている。直径が約半分ということで、操作性や安全性が高まる。医師が3Dモニターを見ながら指を動かすと、指に付けられたコントローラーを通してその微細な動きがダヴィンチの鉗子で再現され、病変部を切除していく(図2)。


手術自体に要する時間は、部位によって異なるが30分から2時間ほど。術後は3日目まで鼻に挿入した管からの流動食で栄養をとり、3日目以降は状態を見ながら口からの食事を開始することが平均的となっている。
嚥下障害は軽度で 入院期間を短縮
同院では日本で初めて2011年からダヴィンチによる咽喉頭がんの手術を行ってきた。
これまでに扱ったのは約30症例。年齢は40代半ばから70半ばで、男性が圧倒的に多い。現在までのところ、中咽頭がんでは術後食事がある程度食べられるようになるのに平均7日、退院まで平均11日であった。清水さんはある患者のことを話した。
「70代男性の咽頭がんの方でした。治療前にはっきりした誤嚥はないが、飲み込み機能に心配があるという方でした。このようなケースで、放射線や外切開による手術をすると、嚥下障害により口からの食事ができるようになるのに時間がかかり、入院も長くなることが多いのですが、この方にダヴィンチによる手術をしたところ、術後4、5日で飲み込みに注意しながら口からの食事を開始しました。しばらくすると、術前とほぼ同じく経口摂取できるようになり、10日で退院できました。その後も嚥下障害などの後遺症は起こさず、元気に通院されています」
滑らかな動きで周囲を傷つけない
改めて、清水さんにダヴィンチの咽喉頭がんについての適性を聞いた。
「メリットは嚥下障害が最小限に留められること。外部に切らないので嚥下に必要な筋肉を切断しなくて済みます。また、腹部のロボット支援手術と違い、内視鏡や鉗子を挿入するための穴(孔)を開けることもなく口からアームを挿入できます。口の中に入ってからも滑らかな動きで正常な組織に影響を与えることのないような操作ができます。
切除の際には、がんが小さい上に周囲には繊細な組織があるという難しい条件でも、拡大モニターで見た医師の指の微妙な動きをダヴィンチの鉗子が忠実に再現して、安全な手術を行うことができます。その結果として、治療成績を落とすことなく、嚥下や発声に影響の出る後遺症も最小限に抑えられます」(清水さん)
患者への侵襲が少ない分、入院期間も短くて済む(表3)。

「デメリットは国内での治療経験が少ないこと。顎の小さめな日本人に本当に適した手術であるかは臨床試験の結果を待たないといけません。海外では放射線治療と変わらない治療成績と少ない後遺症を挙げているデータがありますが、大規模な比較試験のデータはまだありません。
まだロボット支援手術は発展途上です。これから日本の持っている細かな技術が改良追加されることによって、将来的に日本のロボット支援手術が世界をリードするものと期待しています。そのためにもまず現在のロボットを普及させようと努力しています」(清水さん)
経口切除という選択肢を考えて
清水さんは患者に対し、次のように呼びかける。
「一番知っていただきたいのは、咽喉頭がんと告知されて、医師から放射線治療を勧められたときに経口切除という選択肢があること。切らないから後遺症は少ないと思い込み、安易に受け入れてしまわないように、放射線のデメリットも知った上で治療法を選んでいただきたい。
医師の中にも早期がん=放射線治療と考えている人も少なくありません。ガイドラインにあるように、頭頸部領域のがん治療は第一選択が1つではなく、術後の障害を含めて選択することになっています。経口切除の中にダヴィンチ手術があります。その選択肢の中で最も有効な治療であることを証明するために、症例を重ねていきたいと思っています」
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