根治性、安全性、低侵襲性実現のために様々な術式を開発、施行 婦人科がん手術の現状

監修●加藤友康 国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科科長
取材・文●伊波達也
発行:2017年6月
更新:2019年7月


腹腔鏡下手術、「ダヴィンチ」が先進医療に

手術アプローチについて、現在、子宮頸がんでは、腹腔鏡下手術は先進医療として、さらに最先端であるロボット手術「ダヴィンチ」については、全国で6カ所と限られた施設において先進医療で実施している。

ロボット手術は、執刀医の手の代わりに、アームと呼ばれる人工の手を執刀医が遠隔操作により動かして行う。

「ダヴィンチは、人間の関節の動きを超えた柔軟な操作性があり、骨盤内の狭い部位での手術にとっては大きなメリットです。解剖についてしっかり熟知した術者が習得すれば、最良な手術ができるはずです。将来的には普及していくと思います」

さらに機能温存という点では、まず神経温存が重要になる。

「注意しなければならないのは、排尿障害などを起こさないように神経を温存することです。電気メスを使っていると、熱損傷といって、熱により神経を損傷してしまうことがあります。神経を避けようとして離れると、逆にがんに近づいて、切除するマージンがしっかりとれない場合もあります。慎重な手技が必要になるため、繊細な手技が可能なアプローチを選択することが必要です」

性機能についての考慮も重要になる。

「切除の仕方が悪いと、創が瘢痕化して硬くなってしまいます。それが腟の場合だとひきつれて痛くなり、性交渉に影響が出てしまいますので、特に若い女性の場合には十分に気をつけて行わなければなりません」

子宮体がんIA期は腹腔鏡下手術の保険適用に

子宮体がんは、昨今、高齢の女性を中心に増加傾向にある。年間約1万人が発症するが、そのうち約5割に当たるおよそ5,000人は、最も早期のIA期だという。その場合には、単純子宮摘出術と両側卵管・卵巣切除術、リンパ節切除が選択される。

「早期のがんに対しては、腹腔鏡下手術が大きなメリットになると考えています。実際、このIA期の人々に対して腹腔鏡下手術が保険適用になっています。創を小さくすると同時に、早期がんではリンパ節転移の確率も低いため、リンパ節を生検して転移��有無を確認して、転移がない場合はリンパ節郭清をできるだけ縮小して、術後のリンパ浮腫も予防することを十分考慮することが大切です」

腹腔鏡下手術については、さらに適応拡大していく傾向にあり、手技に長けた症例数の多い医師や施設では、先進医療により広汎子宮摘出術を行って適応拡大を目指している。根治性、安全性、低侵襲性を満たす手術を受けるためには、日本内視鏡外科学会の認定医であること、がんの手術の経験が豊富な婦人科腫瘍専門医であること、などを調べて医師や施設を選ぶべきだという。

卵巣がんは腹部を開けてしっかりと取り切ることが大切

卵巣がんは、進行した状態で見つかることが多く、手術と抗がん薬治療の組み合わせが標準治療です。手術は抗がん薬治療の開始前か、3コース後に行います。手術では原発部位と転移している臓器や腹膜、リンパ節を出来るだけ多く切除する腫瘍減量術(debulking)を行います。

「卵巣はお腹の中に浮いている臓器で、腹膜や周囲の臓器に転移しやすいがんです。卵巣がんと診断されたら、開腹にて、限局した性質(たち)の良いタイプのがんでない限り、しっかりと取り切る手術を受けることが大切です」

卵巣がんに似たがんに、卵巣そのものに腫大はなく、腹膜に転移した(腹膜播種)状態で発見される腹膜がんがある。腹膜に転移があるケースでは、腹膜を広く切除しても7~8割は2~3年以内に別の腹膜に再発することがある。がんが卵巣の片側のみに限局しているような早期の場合は、片側のみの卵巣、卵管と腹腔内を覆う大網のみを切除する縮小手術を模索できることもある。

この場合には、もし妊娠可能な年齢であれば、2~3年経過をみて妊娠できる可能性もある。ただし、再発リスクと妊娠の限界年齢を十分検討していかなければならない。

「卵巣がんでは、そのタイプ(組織型)と腫瘍の広がりなどをしっかり調べて慎重に治療方針が決められます。現時点では低侵襲性を望むのはなかなか難しいがんです」

“閉経したら婦人科卒業”ではなく、閉経後こそ婦人科の病気に注意

「婦人科がんにおける手術は進化しており、今後の治療法にも新たな展開が期待されます。しかし、その一方で変わることなく若年者から高齢者まで、患者さん自身がそれぞれの年齢に応じてがんの早期発見に対する関心を強く持ち続け、定期的に検診を受けることが重要です」と加藤さんは述べる。

さらに、次のようにアドバイスをくれた。

「女性は妻であり、母であり、親の介護に従事する娘であることもあります。正に家族の中で重要な役割を担っている扇の要のような存在だと思います。仕事を持つ人であれば会社でも重要な位置にいることでしょう。がんは、そんな中で襲う悲劇ですが、ぜひ冷静に考えて正しい治療を選択してください。ご高齢の方は “閉経したら婦人科卒業”と考えずに、閉経後こそ婦人科の病気に注意して、不正出血などの怪しい徴候がある場合には、すぐに婦人科を受診して早期発見に努めてください。そうすれば、手術で根治に導くことができるでしょう」

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