進化する大腸がんの腹腔鏡下手術 傷口1つで済む単孔式手術という方法も!
単孔式腹腔鏡下手術のメリットは整容性
現在、さらなる低侵襲性を目指して、腹腔鏡下手術の手技に長けている医師の間で行われているのが、従来の腹腔鏡下手術よりもさらに傷口を少なく、1カ所のみにした単孔式腹腔鏡下手術だ。
腹腔鏡下手術で標準とされているのは、臍に1カ所、周辺部位に4カ所穴を開けて行う多孔式腹腔鏡下手術だが(図2)、単孔式腹腔鏡下手術では、臍の3cmほどの切開口1カ所から、手術に必要な器具を全て挿入し、操作を行う術式となる。
最大のメリットは整容性(せいようせい)。傷口が臍付近の1カ所のみであるため、臍に隠れて手術痕はほとんどわからないという(図3)。
「単孔式手術では1つの穴に全ての器具を入れて手術を行うため、技術的にはさらに難しくなります。当科では、現在単孔式腹腔鏡下手術を臨床試験として行っていて、対象としてはステージⅢまでで、腫瘍の大きさが4cm以内の症例としており、技術的に難しい、直腸や横行結腸は対象外として行っていません」
同科の研究グループでは、前向きなランダム化(無作為化)試験によって、単孔式手術(100症例)と多孔式手術(100症例)との治療成績の比較を行った。短期成績では、単孔式手術と多孔式手術とでは、入院期間、鎮痛薬の使用期間、合併症の頻度など、いずれも変わらず、安全性に関して単孔式手術でも問題はないという結果だった(表4)。この結果は昨年(2016年)、医学誌『British Journal of Surgery』に掲載され、今後は5年生存率など、長期成績について追跡していく予定だ。
「単孔式手術では、多孔式手術と比べて穴の数は少なくなりましたが、腹壁(ふくへき)を壊すという点では同じことですから、術後の合併症や痛みといった短期成績という点では、それほど変わりはありませんでした。やはり整容性で勝るという点が、単孔式手術の1番の利点だと思います。例えば、若い女性など整容性を大事にしたほうが良いという人にとっては、単孔式手術というのはメリットがあると思います」
現在、日本内視鏡外科学会の技術認定医を中心に、単孔式腹腔鏡下手術を実施する施設は増えている。「単孔式内視鏡手術研究会」の事務局に問い合わせれば、どこの施設で行っているのかなど、教えてくれるそうだ。



手術の安全性、根治性を高めるICG蛍光法
渡邉さんたちは、現在、大腸がんの腹腔鏡下手術のさらなる安全性と根治(こんち)性を高める取り組みも行っている。それが、ICG(インドシアニングリーン)蛍光法を使った大腸がん腹腔鏡下手術だ。
ICG蛍光法とは、ICGと呼ばれる特殊な色素に近赤外光を照射すると、体の中のタンパク質と結合した部位が蛍光色に光るという原理を応用したもの。具体的には、①腸管の血流②リンパ液の流れ――を確認しており、手術中にICGを静脈や局所に注入して体内へ送り込むと、腹腔鏡に近赤外光の光源を搭載したICG蛍光用のカメラによって、腸管の血流やリンパ液の流れがあるところが光り、一目瞭然でわかるという。
「この方法の大きなメリットは、手術中に腸管の血流を確認できることにより、腫瘍を取り除いた後に、腸管のどの部位とどの部位とを吻合(ふんごう)すれば良いかを的確に判断できる点にあります。血流が悪い腸管を吻合してしまうと、重篤な合併症である縫合不全(ほうごうふぜん)が起こってしまいかねません。その点、あらかじめ血流を確認することができれば、縫合不全を未然に防ぐことができ、安全に腸管の吻合ができます」(図5)
今まで目視に頼っていた部分をICG蛍光法を取り入れることで客観的に判断することができ、より安全な手術ができるようになったという。
一方、リンパ液の流れもICG蛍光法によって一目瞭然となり、手術の精度を上げることにつながっている。
「ICGを腫瘍のある腸壁に注入することで、リンパ液の流れを確認できるため、リンパ節郭清の範囲を的確に把握することができます。血液の流れが個々によって違うように、リンパ液の流れも人によって異なります。これまで、経験や昔からの知見に基づいて行っていたリンパ節郭清でしたが、ICG蛍光法を用いることでリンパの流れがひと目でわかり、リンパ節の取り残しや、逆に無駄な拡大郭清もしなくて済み、個々に合ったより精度の高い手術が可能となります」(図6)
このICG蛍光法は、現在大腸がんに対して保険適用にはなっていないが、今後保険収載に向けた動きも出ているとのこと。
「ICG自体、肝機能の検査などでは昔から使われている薬剤で、安全性は高く、患者さんにとってデメリットはほとんどないと言って良いと思います」と渡邉さん。
確かに、この技術が普及し、縫合不全の合併症を防ぐことができ、リンパ節郭清の取り残しをなくすことができれば、術後の長期成績はさらに良くなることが期待できる。
術式の進化と相まって、ICG蛍光法の普及は、大腸がん手術のさらなる発展につながると言えそうだ。


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