体にメスを入れず、がんだけを取り除く治療法 早期大腸がんなら、内視鏡治療(ポリペクトミー/EMR/ESD)で根治できる時代になった!
指標となるのはESDによる内視鏡治療件数
ならば、患者としては、高い技術を持つ医師に内視鏡治療をしてもらいたいと願うのが当然だ。実際、どこに行けばいいのだろうか。
「大腸ESDの認定施設として厚生労働省から認可されなければ、大腸のESD治療はできないことになっています。ですから、まず認可されていれば最低限、国の基準はクリアしているということになります。あとは、目安になるのは、その病院や医師のESD治療の件数だと思います」
大腸ESD施設認定とは、胃や食道に比べて大腸のESDの難易度が最も高いということから、国が定めた施設認定制度。過去に胃のESDをどれほどしてきているか、その施設に内視鏡スタッフが何人いて、もし何かトラブルが生じたときに対処できる外科スタッフが何人いるか、など、さまざまな審査項目から判断され、認可されるそうだ。つまり、ESDを行える施設は、この認可を受けているということ。そこから先は、患者自身が、より高い技術とノウハウを持つ病院を探すしかないのだが、その指標となるのが、「治療件数」というわけだ。
「昔はよく、『先生、この治療、何回ぐらい経験されたことがありますか?』と聞かれたものでした。直接聞くか聞かないかは別として、経験数(件数)を調べるのは大事だと思います。もちろん、直接聞くのもアリですよ」と村元さん。ちなみに、NTT東日本関東病院内視鏡チームの大腸ESD治療件数は日本随一であり、2016年は270件、2017年には300件を超えたそうだ。
「件数が上がっていくことで技術が進化し続け、穿孔など合併症が起こる率もさらに低下させることができたのは事実だと思います」
そうは言っても、地方に住んでいて、近くにいい病院を見つけられないときはどうすればいいのだろう。その疑問に村元さんは次のように語った。
「内視鏡治療は、外科手術と違って、治療して根治が得られれば、定期的に通院する必要はありません。基本的には、初診、治療前検査と内視鏡治療(ESD)の入院、そして2週間後の病理検査の結果を聞きに行くという4回で終了。つまり、飛行機や新幹線でしか行けないほど遠い病院でも受けられる、というふうに考えてもいいと思います。NTT東日本関東病院にも、北海道や九州など遠方からいらっしゃる患者さんも少なくありません」
内視鏡で大腸がんを根治させるために
何はともあれ、お腹を切らずに大腸がんを根治させることができたら、こんなにありがたいことはない。そのためには、何が何でも、内視鏡治療が適用になる段階で大腸がんを見つけたいところだ。
「大腸がんの中で、内視鏡治療ができる状態で見つかっている例は、まだまだ少ないというのが現状です。なぜなら、大腸がんは、早期の段階では症状が全くと言っていいほどないのです。貧血や血便など、何かしら症状が出てから受診すると、がんは粘膜下層を通り過ぎ、すでに進行がんに移行してしまっている場合がほとんどです」と村元さん。健診や人間ドックで便潜血検査が入っているものは多いけれど、早期がんでさえ便潜血検査に引っかかるのは半分ほどだそうだ。つまり、症状が出てからでは遅い、ということになってしまう。ならば、どうしたらいいのだろう。
「大腸がんは、男女問わず、40代から増え始め、50代、60代と年齢を重ねるに連れ、加速度的に増えていきます。だから、40歳を超えたら、一度は大腸の内視鏡検査を受けていただきたいと思います」
実際、早期大腸がんを見つけ、内視鏡治療で根治させることができた人は、健診や人間ドックで受けた大腸内視鏡検査、または、別の症状で受診し、念のためにと受けた大腸内視鏡検査で偶然見つかった、というケースがほとんどだそうだ。肛門からカメラを挿入する大腸の内視鏡検査は敬遠されがちだ。とくに、女性にとっては、とてつもなく敷居が高い。しかし、ここでぜひ考えてほしい。恥ずかしいけれど、痛そうだけれど、もしそれで早期大腸がんを見つけて、内視鏡治療で取ってしまえたら、こんなに有意義な検査はないのではないか、と。
「確かに下剤も大量に飲まなくてはならないし、気軽に受けられる検査ではないと思います。でも、今は、静脈麻酔を使って、意識はあるけれど、半分寝ているような感覚で、痛みもほとんどなくラクに検査を受けられるようになりました。40歳を超えたら、一度、思い切って大腸内視鏡検査を受けてみてください。何もなければ、毎年受ける必要はなく、3年後ぐらいで大丈夫。ポリープが見つかれば、それも幸運。検査で見つかったポリープは、たとえ悪性でもほとんどの場合が内視鏡治療で根治できますから」
現在、日本人の大腸がん罹患数は、年間、男性が約8万5,000人、女性が約6万4,000人と言われ、全がん種中トップ。その原因としては、日本人の食生活や生活習慣の欧米化が挙げられるが、いまさら、それを根本的に変えるのは難しいだろう。今後も増え続けることが予想される大腸がんを、いかに早期に見つけて、根治に導くか。そのカギは、内視鏡治療が受けられる早期段階での発見を増やすことにかかっているのかもしれない。
*ポリープ=良性ポリープ、悪性ポリープ(がん)、腺腫など、できものすべてをポリープという
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