若手術者の養成が重要課題に 保険適用になった食道がんに対するダヴィンチ手術の現状

監修●太田喜洋 東京医科大学消化器外科・小児外科医局長
取材・文●伊波達也
発行:2019年8月
更新:2019年9月


厳しくなったダヴィンチ手術の指針

「ただし、ダヴィンチは、昨年(2018年)4月、保険承認になった2カ月後の6月、日本内視鏡外科学会の指針が発表されました。これにより、7月以降同学会の技術認定取得医でなければ、手術ができないこととなりました」

2018年6月、日本内視鏡外科学会が提言した「消化器外科領域ロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針」のことだ。

それによると、消化器外科すべての領域においては「日本内視鏡外科学会が定めるロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針に準じ、消化器外科専門医および日本内視鏡外科学会が定める技術認定取得医であること」

そして食道領域においては「該当術式の内視鏡手術の5例以上の執刀経験を有すること。さらに、日本食道学会が認定する食道外科専門医の指導のもとに行うこと」がダヴィンチを実施できる条件であるとの提言だった。

また、食道領域については、施設条件も提示されており、「ロボット支援下食道手術を施行する場合、日本食道学会が認定する食道外科専門医が1名以上常勤で配置されていること」となった。

日本内視鏡外科学会の技術認定取得医の試験の中でも食道に対するものは難易度が高い。毎年の合格率は3割弱程度で、今年は10人ほどだという。

「技術上のさまざまな項目はもちろん、安全性に対する審査がとても厳しいです。食道がんの手術ですから安全性がポイントです。臓器を愛護的に触っているか、血管を確実に処理しているか、他臓器の損傷がないかなどについて提出した手術ビデオを見ながら審査員は厳しく審査します」と太田さん。

現在、食道に対する技術認定取得医は全国で80人弱だ。しかもベテランの医師も多いため、今後、食道がんによるダヴィンチを普及していくためには、若い医師が、このハードルをクリアして、技術認定取得医として活躍しなければならないだろう。

早ければ今年中にダヴィンチ手術再開へ

太田さんの所属する東京医科大学病院は、ダヴィンチの草分け的な病院で、食道がんについても保険適用前の2010年6月より、臨床研究治療として手術を63例経験し、そのメリットを十分熟知している。

しかし、現在、同科には、自身も含め、食道の技術認定取得医が不在であるため、同指針以降は、技術認定取得医を他院から招かないとダヴィンチによる手術が実施できない状況にあるという。

「当科もできるだけ早急に、技術認定を取得してダヴィンチを再開したいと考えています。同時に食道チーム一同で、ダヴィンチのメリットを十分に活用できるように、さらなる鍛錬を重ねていきたいと思っています」

太田さんらは現在、早期食道がんののみならず進行食道がんの症例に対しても、胸腔鏡手術を実施している。また、昨今は、早い段階で食道がんが見つかりやすくなり、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)やEMR(内視鏡的粘膜切除術)での切除が増えているそうだ。ともあれ患者のためにも、技術認定を取得した医師によりダヴィンチによる手術が行われるようになることを期待したい。

また、食道がん治療は、手術とともに、化学療法、放射線療法、周術期の管理などあらゆる面で進歩し、集学的治療によって予後の改善が進んでいる。難治(なんち)がんである食道がん治療がますます進化していくことによって、少しでも多くの食道がん患者の福音となるように望みたい。

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