ガイドライン作成で内科的治療がようやく整理される コンセンサスがなかった食道胃接合部の食道腺がん

監修●石原 立 大阪国際がんセンター副院長補佐/内視鏡センター長
取材・文●植田博美
発行:2020年8月
更新:2020年8月

<食道腺がんに対するCQと、それに対する推奨度>


●CQ:食道表在腺がんの範囲診断で、画像強調併用拡大内視鏡検査を行うことは推奨されるか

推奨文:食道表在腺がんに対する内視鏡的切除術前の範囲診断で、画像強調併用拡大内視鏡検査を行うことを弱く推奨する

解説:画像強調併用拡大内視鏡検査が食道腺がんの範囲診断に有用であるという直接的なエビデンスはない。しかし、アメリカ、日本、国際多施設共同研究などいずれの報告においても、存在診断(がん・非がん診断)に有用であるとする報告が多くみられた。

腫瘍の存在診断を行い、腫瘍境界線を決定することが範囲診断であるという考えに基づけば、画像強調併用拡大内視鏡検査がバレット食道内および扁平上皮下に進展する表在腺がん範囲診断の向上に寄与することが示唆されるため、食道表在腺がんの範囲診断にその使用を弱く推奨する。

■画像1 通常の白色光による内視鏡画像(→部分ががん)
■画像2 NBI併用拡大内視鏡による食道胃接合部腺がん(→部分ががん)
NBI(狭帯域光観察)は光デジタルによる画像強調観察技術。2種類の波長の可視光を照射することで、粘膜表面の微細な構造や毛細血管を強調表示できるため(矢印)、がん細胞がよく分かる(画像提供:2点とも大阪国際がんセンター消化管内科)

●CQ:最大長3cm以上のバレット食道(Long segment Barrett esophagus:LSBE)に発生した食道表在腺がんに対する内視鏡切除前の範囲診断で、周囲生検を行うことは推奨されるか

推奨文:弱く推奨する

解説:日本人のLSBEは、現状は極めて稀とされる。しかし、LSBEに発生した食道表在腺がんの範囲診断は困難なことがあるため、周囲生検を行うかどうかは重要な問題となる。

検証の結果、明確な根拠は検出されなかったが、過去の報告からLSBEでは腺がんとさまざまな異形��が混在する傾向があり、そのことが内視鏡的な範囲診断を困難にし、結果としてESDのR0切除(完全切除)率が低下することが推察される。

以上により、このCQにおいては画像強調併用拡大観察に加え、病変周囲からの生検による病理学的評価を行うことが弱く推奨される。

●CQ:内視鏡治療適応となる食道表在腺がんの切除法として、ESDはEMRより推奨されるか

推奨文:根治的な切除法として、EMRよりESDを強く推奨する

解説:転移の危険性が低い食道表在腺がんにおいては、内視鏡切除が行われる。日本ではESDによるR0切除が試みられることが多い。

検証の結果、EMRと比較してESDは一括切除率・R0切除率ともに高く、遺残再発率も低かった。偶発症(後出血・穿孔・狭窄)発生率はおおむね同程度であった。

以上により、内視鏡治療適応となる食道表在腺がんに対する根治的な切除法として、EMRよりESDが強く推奨される。

■図3 ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

■図4 EMR(内視鏡的粘膜切除術)

●CQ:食道表在腺がん内視鏡切除後の異時性がん(後発がん)のサーベイランスで、どの程度の間隔の内視鏡検査が推奨されるか

推奨文:食道表在腺がん内視鏡切除後のサーベイランスで、最大長3cm以上のバレット食道(LSBE)に対しては1年に1度程度の内視鏡検査を弱く推奨する

解説:LSBEから年率1%前後で食道腺がんの発生が報告されていること、食道腺がんの発見が難しいこと、表在腺がん内視鏡切除後患者がハイリスクであることを考えると、胃がん同様のサーベイランス間隔が妥当と考えられる。

ただし、食道表在腺がん内視鏡切除後の異時性がんについて検討できた患者数は少なく、エビデンスの強さは限定的である。

●CQ:食道表在腺がん内視鏡切除後のサーベイランスで、画像強調内視鏡や拡大内視鏡検査を行うことは推奨されるか

推奨文:弱く推奨する

解説:日本では、NBI(狭帯域光観察)をはじめとする光デジタル技術による画像強調内視鏡が広く使用されている。NBIの表在がんもしくは異形成の発見における感度・特異度はともに94%という優れた成績である。また、NBI拡大観察の感度・特異度はNBI非拡大観察に比べて高く、NBIと拡大内視鏡との併用がより有用であることが示唆されている。

将来的な患者増に備えて、さらなる研究を

食道腺がんの内科的治療のガイドラインがまとめられたことは、今までコンセンサスが得られていなかったこの分野での、大きなトピックスと言える。将来的な展望を石原さんに尋ねてみた。

「食道がんについては、指針(ガイドライン)として定められている検診がありません。食道胃接合部のがんは、本来胃がん検診で調べられるのですが、非常に見つけにくいのが実情です。がん治療の基本である早期発見・早期治療のためには、医療従事者に対してもっと食道腺がんの知識を普及させていくことが必要でしょう。

一番は〝予防〟ができれば良いのですが、残念ながら現時点では明確なものはありません。何しろ、日本人には稀な症例なので検証材料が少ないのです。しかし、将来的にこのがんが増えていくことはまず間違いないと考えられますから、研究を進めていく意義は大いにあると考えます」

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