術後合併症を半減させたロボット支援下手術の実力 胃がん保険適用から3年 国産ロボット「hinotori」も登場

監修●宇山一朗 藤田医科大学医学部先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授
取材・文●黒木 要
発行:2021年9月
更新:2021年9月


縫合不全や膵液瘻などの術後合併症の発生率が低下

先進医療Bでのロボット手術によって半減したという術後合併症は、具体的にどんな内容か。

「術後合併症は、通常、術後1カ月以内に手術の直接的な影響によって発生する短期の合併症のことで、これらすべてが評価項目となっています。一方で術後数カ月経って発生する症状は、合併症ではなく胃を失ったことなどによる〝後遺症〟ということで、評価対象にはなりません」

胃がん術後合併症については、主なものに縫合不全、膵炎、膵臓瘻、腹腔内膿瘍、吻合部狭窄、肺炎などがある。

なお、胃がんのロボット手術の腹腔鏡下手術に対する優越性を検証するランダム化比較試験が現在進行中だ(モナリザ試験/JCOG1907試験)。登録予定患者数は1,040人で、現在登録中である。

「この試験の主要評価項目は、合併症の発生割合です。これがどう違うかを比較します。これはランダム化比較試験で行われるので、試験結果のエビデンス(科学的根拠)は高くなります。いま、それ以外にも腹腔内の感染性の合併症が高いと5年生存率が悪くなるという結果がいろいろなところから出ています。胃がんにおいては、ロボット手術は合併症が少ないというエビデンスは集積されつつあります」

早期胃がんの手術の選択肢が開腹手術から腹腔鏡手術へ一気に進んだように、今度は腹腔鏡下手術からロボット手術へとシフトする可能性が高い。

ただ、今のところ2018年に保険適用されたものは、内視鏡下手術と同じ診療報酬しかつかないため、ロボット手術を行うと高いコストが病院側の持ち出しとなっていることが大きな問題になっている。2022年に診療改正が行われて、診療報酬の加算が認められれば、普及が一気に進むと思われる。

ロボット手術を受けるとき留意すること

ダヴィンチは、現在国内で400台以上導入されているという。宇山さんらが先進医療Bで臨床試験を開始した頃は200台くらいだったので、普及も目覚ましい。

「ただし、ダヴィンチがある医療施設であれば自由に手術を行えるというわけではありません」

宇山さんによると、2つの大きなハードルがあるという。

1つは「技術認定取得」だ。ロボット手術で胃がんなどが保険承認された2カ月後の2018年6月に、日本内視鏡外科学会は「消化器外科領域ロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針」を改定した。それによるとロボット手術は同学会の技術認定取得医によって行うことを提言している。

まず、内視鏡手術の技術認定取得を得るには、自施設で手術を行った手術ビデオを送り、合否を判定する審査がある。この審査はかなりきびしく、合格率は27~28%とのこと。その技術認定取得者であり、かつ日本消化器外科学会の定める専門医がロボット手術の訓練後、手術することが望ましいとなっている。

2つ目のハードルは厚生労働省が定めた施設基準だ。ロボット胃切除術を手術者として10例以上(胃全摘術を1例以上含む)行った常勤の医師がいることと規定している。また施設として、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術で、前述した胃の手術を年間50例以上行っていること、そのうち腹腔鏡手術、またはロボット手術を20例以上行っていること、という基準もある。

この2つのハードルの高さが、ロボット手術を受ける患者さんに役に立つと宇山さんはいう。

「ロボット手術は、安全な導入と普及のために学会と国が連携して、きちっとしたシステムを作ったといえます。そのどちらが欠けても保険診療で行うことはできません。もちろん自由診療で行うことはできますが。したがって保険でロボット手術を行っている施設であれば、安心して手術を受けることができる、と思ってよいでしょう」

国産初の手術支援ロボット「hinotori」が登場

2020年8月、川崎重工業とシスメックスの合同出資会社メディカロイドが開発した、国産初の手術支援ロボット「hinotori」の製造販売が認可された。製品の名前は手塚治虫の「火の鳥」にあやかったそうだ。そして同年12月には、神戸大学医学部附属病院で国内1例目の前立腺がん全摘手術が行われた。

hinotoriの遠隔実証実験中の宇山さん

hinotoriの国産化の開発に携わってきた宇山さんは、国産の機器が出ることは大きな意義があるという。

「これまでロボット手術の機器はダヴィンチの独占でしたが、国産が出ることにより、価格競争や品質の向上が期待できます。hinotoriがそのような起爆剤になることは間違いありません」

それ以上に日本の外科医にとっては、全く違うメリットもあるという。

「ダヴィンチのここを改良して欲しいとメーカーに伝えても、聴いてはくれますが、欧米のユーザーの意見のほうが優先されがちです。それは米国の企業だからしかたありません。その点、国産であれば、日本人の外科医の意向を汲んで、日本人の手術に合ったものにカスタマイズされていくので、そこに国産の意味があります」

日本人の外科医が使いやすい機器ということで、普及に弾みがつくことが期待される。

「hinotoriの保険適用は、現在は前立腺がん、腎がん、膀胱がんの泌尿器がん領域のみですが、胃がんを含む消化器がんと婦人科がんへの拡大に向けていま取り組んでいるところです。今後も適用拡大していくと期待しています」と、宇山さんは話を締めた。今後は日本製のロボットも活躍するだろうから、ダヴィンチ手術という通称はすたれるかもしれない。

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