日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性

監修●三木 淳 東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科診療部長/准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2023年10月
更新:2023年10月


そのほかにSaroaのメリットとデメリットはどんなところですか?

■画像6

Saroaは手前の助手の役割も重要

「みなさんは手術と聞くと執刀医が目の前の助手と連携して行うイメージをお持ちと思いますが、ダヴィンチは医師がほぼ1人で手術を行います。極端な話、助手は機器の出し入れだけやってくれればいいくらいの感じです。

しかし、アーム本数や機能の少ないSaroaの場合、助手が関わらないと手術が成り立たないので、助手と一緒に手術ができることで、チームワークも出ます。これは教育の観点からも重要で、助手の関与が多い分、助手に入る医師のモチベーションが上がると思います」(画像6)

もうひとつ、手術において最も重要な吻合(ふんごう)に、大きなメリットがありました。前立腺の手術の最後には、切断した尿道と膀胱をつなぐ操作があります。体の深いところで縫う必要があり、開腹手術でも腹腔鏡下手術でもむずかしかったのですが、それがSaroaでもダヴィンチと遜色なく行えたそうです。

「その上、細かい手技ですが、ダヴィンチの鉗子は人間の関節よりは回りますが、それでも実際は330度くらいなので、針を持ち換えて吻合しなければなりません。しかし、Saroaはボタンを押すと何周でもぐるぐる回るので、より素早い運針が可能になりました。これは泌尿器科にとって非常に有用な機能です。尿失禁が起こる確率も下がり、患者さんにとっても大きな恩恵ではないかと思います」

デメリットとしては、「まだ細かいところで、いろいろなデバイスが少ないこと。Saroaは3本アームですが、今後改善していくとより手術のクオリティや手術時間なども改善できると思います」

ロボット手術はどう進化するでしょうか?

手術支援ロボットシステムは今日、前立腺がん、肺がん、腎がん、大腸がん、子宮体がん、胃がん、膵がんなど、主要ながんでほとんど保険適用されています。そして、それが2年ごとの改訂でどんどん増えています。これまでむずかしいとされてきた頭頸部がんでも、中咽頭がんや下咽頭がんなどに対し、2022年に保険適用されています。まさに大変な勢いでがん外科治療の中心になりつつあるといえます。

「泌尿器科領域においても、これまで腹腔鏡で行なっていた手術はほぼすべてロボット手術に置き換わっています。一番多く行われているヘルニアや胆のうの手術は今も腹腔鏡下で行われていますが、ヘルニアは来年には保険が適用されると思われます。そうなったら、安価なSaroaの需要はより高くなると思います」

そもそも今日、大学病院などのハイボリュームセンターでは、手術支援ロボットは2台、3台が当たり前になっています。

「これから10年20年のうちに、手術室に2台3台と置かれるような時代が来ると思っています。そうした場合、ダヴィンチと併用してSaroaやそのほかのロボットシステムが置かれ、使われるのは間違いありません」

今回、Saroaをあえて3本アームにしたのは、ダヴィンチや他の2機種と同じ土俵ではなく、安価でより小回りが利き、触覚のついたロボットの特性を活かして、3本でできる手術で、がん領域以外の普及にも対応しようという狙いがあるようです。

「ヘルニアなどは手術数が圧倒的に多いので、保険が適応されたらSaroaの需要は非常に高くなると思います。また、今ある手術支援ロボットも常に改良を続け、日進月歩です。ダヴィンチは長い歴史があり、4本のアームの緻密な動き、鉗子の種類の多さ、どれをとっても抜きん出ています。日本が追いつくにはもう少し時間がかかると思いますが、どの機種にも可能性はあると思います」

ちなみに現在、ロボット手術は同じがん種を最低3例行ったら、他の疾患に行えるという学会のルールがあります。

「私たち泌尿器科も前立腺がん全摘手術以外に、腎臓などほかの手術にも拡大していきたいと考えています」

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