がんリハビリテーションのあり方について それぞれの立場から現況報告

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年3月
更新:2014年6月


生命予後を左右する悪液質を リハビリと栄養管理で改善

悪液質は筋肉量の減少を特徴とする病態であり、がんや慢性閉塞性肺疾患、心不全など慢性疾患の患者にみられる。とくにがん患者では全体の50~75%と高率に発生し、倦怠感や日常生活動作(ADL)の低下などをきたすとともに生命予後にも影響するため、がん治療における大きな課題の1つとなっている。

聖隷浜松病院リハビリテーション科主任医長の大野綾さんは、がんリハビリと栄養管理によるがん悪液質への対応策を紹介した。

リハビリにより改善できる可能性

がん悪液質は慢性炎症であるとされる。がん細胞が産生するサイトカイン(生理活性物質)によって、食欲不振や食事量の減少による栄養障害、倦怠感による活動性低下、さらに腫瘍産生因子による筋肉分解により筋肉減少症(サルコペニア)が引き起こされ、身体の機能障害やADL低下をもたらす。

抗がん薬治療への耐性低下、生命予後の低下、QOL(生活の質)の低下とも関連するとされ、見過ごすことのできない病態である。治療法として様々な薬剤やサプリメントが研究されている。

大野さんによると、運動療法には炎症を抑制する効果があり、がん悪液質の治療の1つとして、運動療法が治療効果を持つ可能性が出てきているという。

一例を挙げると、両側肺がん手術後症例で、術後体重が60㎏から52㎏に低下したために化学療法が行えない状態であった40歳代の男性患者に対し、濃厚流動食や市販の蛋白含有高カロリー補助食品摂取などの栄養療法を行いながら、有酸素運動や筋力トレーニングを行なった結果、体重が55㎏まで回復し、抗がん薬治療が可能となった。現在では外来治療を受けながら復職しているという。

早期からの治療がポイントに

がん悪液質は、2010年ヨーロッパ緩和ケア共同研究(EPCRC)により、前悪液質・悪液質・不応性悪液質の3段階に分類することが提唱された。不応性悪液質に到る前のできるだけ早期に治療することが勧められている。

大野さんは、できるだけ早期からの運動療法と栄養管理の重要性を強調した。また、「体重減少の程度や筋力などを基準に悪液質の段階分けを行い、適切なリハビリと栄養管理を行う必要がある」と話す。

これは、不応性悪液質や重度の栄養障害がある場合、不適切な過度の運動がさらに筋肉の減少を招く恐れがあるためだという。

大野さんは「患者さんの中には、がんに罹ったら動かずにじっとしているのがよい、と誤解している方もおられるが、体を動かすことと栄養管理が重要であることを患者さん自身にも知っていただきたい」と述べている。

がんリハビリチームにおける がん看護専門看護師の役割

がんの患者は、痛みなどの身体的苦痛だけではなく、不安などの精神的苦痛、生きる意味を見出せなくなるなどのスピリチュアルペイン(霊的苦痛)、仕事や経済問題などの社会的苦痛などにさらされることになる。

このように、がんがもたらす苦痛��多岐に及ぶため、チームによるリハビリが重要となる。大阪大学医学部附属病院看護部(がん看護専門看護師)の前田絵美さんは、がんリハビリチームでの専門看護師の役割について紹介した。

安静度やADLなどの情報を収集

同大学附属病院のがんリハビリチームは、リハビリ診察医師、理学療法士、作業療法士、がん看護専門看護師の4人で構成される。チームでは、各診療科の医師からの依頼を受けると、医師が患者の状態を確認してリハビリ指示を出す。それを受けた理学療法士と作業療法士は身体機能や疼痛の評価を行い、がん看護専門看護師は病棟での安静度や日常生活動作(ADL)などのついての情報収集を行う。

その上で毎週行われるチームのカンファレンスでリハビリの方針を決め、実際にリハビリを開始する。

このがんリハビリチームによる介入効果をパフォーマンスステータス(PS)で検討した結果、介入後のPSは、病期が進行した一部の患者を除き全員で改善がみられ、特に軽度の患者(PS1、PS2)の割合が明らかに増加していた。また、ADLの指標であるバーセルインデックス(BI)も死亡した患者を除き、全員が改善または維持されていた。

パフォーマンスステータス(PS)=がんの全身症状の指標で、症状の軽い順にグレード1~4の4段階がある。

他チームとの間の連絡と調整を行う

がんリハビリには多職種が関わるため、チーム医療の円滑な運営も重要になる。がん看護専門看護師のチームでの役割は、専門的・包括的情報を提供すること、患者のニーズに合わせたリハビリを継続すること、他チームとの間の連絡と調整をとることなどであるという。

前田さんは今後の課題として、「がんリハビリチームの対象となる患者の早期発見、がんリハビリの知識普及、他チームとのさらなる連携強化、がんリハビリチームのマンパワーやがん看護専門看護師の時間的制約の解決などが挙げられる」と述べている。

がん緩和ケアチームにおけるリハビリ専門職の役割

がん患者は疼痛などの身体的問題だけでなく、社会生活への不安などの精神的問題にも悩まされている。そこで、多職種によるチーム医療により、がん患者が抱える幅広い問題に対応する必要性が出てくる。

手稲渓仁会病院リハビリテーション部副部長の佐藤義文さんは、がん緩和ケアチームでのリハビリ専門職の役割や、同病院のリハビリ活動を通じて得られた成果や見解について紹介した。

緩和ケア対象者でもリハビリが必要

手稲渓仁会病院は33科の総合病院で、リハビリテーション部は部長以下約60人のスタッフを抱え、疾患別に7つの班やチームに分かれて活動している。その中で、がんリハビリチームには理学療法士5人が所属し、がんリハビリを実施している。

佐藤さんらが行ったリハビリ実施状況の調査では、がん緩和ケアチーム(PCT)の対象となった患者の6割強にリハビリが実施されていることから、緩和ケアの対象者でもリハビリが必要であることが裏付けられている。また、がん緩和ケアチームのコアメンバーに理学療法士が入っていることで、各科のリハビリ担当者とのコミュニケーションが良好となり、連携がとりやすくなったという。

共通した知識や技能を持てる方向に

同病院では、がん緩和ケアチーム活動中にリハビリを促すことで状態が改善した患者も相当数に上る。例えば、倦怠感や慢性疼痛により、ほとんどベッドに寝て過ごしている患者から「自宅でトイレに自分で行きたい」という希望が出されたため、自宅退院に向け歩行補助具を使った歩き方の練習や自宅の改修を行った結果、患者の希望が実現できた。このように、患者の痛みや日常生活動作(ADL)をリハビリで改善することで、患者の状態の改善やQOL(生活の質)の向上が可能になった。

佐藤さんは「今後さらにがん緩和ケアチームの活動が効率的に行えるよう、これまで個々の理学療法士のコツなどに頼っていた技術を、できるだけ言葉で説明できるようにし、他のチームスタッフやリハビリ担当者が共通した知識や技能を持てるようにしたい。さらにスタッフ教育などにも力を入れると共に、がんリハビリのエビデンスの模索にも努めたい」と述べている。

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