メサドン、フェンタニルレスキュー製剤は痛みの治療を変えるか?
粘膜吸収の速効レスキュー薬
がんの患者さんの6~7割が経験するといわれるのが、にわかに襲ってくる突出痛。
現れる時間は多くの場合数分から30分以内だが、患者さんのQOL(生活の質)低下の一因となっており、質の高いがん疼痛治療には、突出痛の適切なコントロールが必須といわれている。
そんなときに登場してきたのが*フェンタニルレスキュー製剤(フェンタニル口腔粘膜吸収薬)だ。
大坂さんは次のように語る。
「持続する痛みを定期的に薬で抑えている状態で、突発的に出てくる突出痛に対して、レスキュー薬として使えるのは今まではモルヒネかオキシコドンしか日本にはありませんでした。そこに、海外では随分前に使われていた薬ですが、口腔粘膜から吸収されるタイプのフェンタニルが昨年から使えるようになりました」
速効性があるのが特徴で、海外の試験の結果では、投与して15分ぐらいで効果が出るとのデータがある。
また、薬の効果が短時間で消えるので、痛みが取れたあと薬だけが体の中に残ることがないように設計されているのも特徴だという。
今回日本で使えるようになったフェンタニル口腔粘膜吸収剤は2種類あり、1つはイーフェンバッカル錠といって、上顎臼歯の歯茎と頬の間に入れて使う。もう1つはアブストラル舌下錠で、こちらは舌の下に入れる。
飲み薬は効いてくるまでに時間がかかるが、粘膜からの吸収は速効性があることがわかっている。口腔粘膜からフェンタニルが直接吸収されて、すばやい鎮痛効果を発揮すると言われている。
粘膜からの吸収は、脂に溶けやすい性質(脂溶性)を持つフェンタニルならではの特徴を生かした使い方で、ほかのモルヒネやオキシコドンでは難しいという。
*フェンタニルレスキュー製剤(口腔粘膜吸収剤)=商品名イーフェンバッカル錠、アブストラル舌下錠
1日4回までしか使えない
「ただその一方で、速く効くということはそれだけ急激に血液中の濃度が上昇することを意味し、使い方を間違えると、それが原因で急に眠気が出たり、呼吸抑制を来しやすいので、注意が必要です」
どちらの薬も1日4回までが目安となっている点にも要注意。
「1日4回までにとどめるとなると、一度投与したら2時間ないし4時間ぐらい間を空ける必要があります。もし、その間に再び強い痛みが襲ってきたら、もともと使っていたレスキュー薬で対応するしかありません」
経口薬と同じように自分で投与できるため外来で薬を出すことが可能だが、「新しい薬でも���り、1日4回までとか使い方が難しいので、患者さん本人か、家族の方がしっかり使えると確認した上で薬を出すことにしています」と大坂さん。
しかし、この薬の登場で恩恵を被る人は多い。
食道がんの後遺症で、食道と気管支の間に穴が空いて飲み込みができなくなる食道気管支瘻の患者さんなどにとっては、粘膜吸収のレスキュー薬の登場は朗報、と大坂さんは語る。
「こういう人の場合、飲むことができません。でも、自分の家で過ごしたいというときに、持続痛は貼付剤で収まっていていても、突出痛が出たとき今までは座薬ぐらいしかありませんでした。口に入れるだけで効くのであれば、飲まなくても安全に使えるので非常にありがたい薬だと思います」
「便秘しなくなった」と喜びの声も
モルヒネなどと比べて、フェンタニルは比較的便秘になりにくいという利点も大きい。
80代の女性の患者さんの例では、全身の骨に病気があり、入院して緩和ケアを受けているが1日に1~2回の突出痛が襲う。
今まではレスキュー薬としてオキシコドンを使っていたが、「痛みは確かに楽になるけれど、便秘になるので困る」と訴えていた。
そこで突出痛にイーフェンバッカル錠を使うようにしたら、「痛みもすぐに楽になったし、便秘にもならなくなったから、私にはこれがいい」と以来ずっと使うようになった。
大坂さんによると、「今までは選択肢がなくて、この患者さんの場合、フェンタニルを使おうとしたら注射するしかありませんでした。すると点滴静注になるので、痛みがあってもなくても管でつながれているという、非常に拘束感のある治療になってしまい、はっきりいってお勧めではありませんでした。粘膜から吸収するタイプの薬が使えるようになって、患者さんはとても喜んでいます」
フェンタニルの新規薬剤はほかにもフィルムタイプのものとか、鼻腔スプレー、舌下スプレーなどが海外にはあるが、日本ではまだ未承認。
「日本ではまだ2種類のみですが、ほかのタイプも承認されて選択肢が広がれば、個々の患者さんに最適な治療を提供できるようになり、恩恵は大きいと思います」
と大坂さんは話している。
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