いかに上手く痛みを表現できるかで、質の高い疼痛治療が受けられるかが決まる!
がんの疼痛治療はWHO方式で行われる
医師は患者さんから得られた情報に沿って痛みの治療を行う。その基礎となっているのが、WHO方式の治療である。痛みの強さに応じて、3段階の治療を行うのが特徴だ。
軽度の痛みにはNSAIDsやアセトアミノフェンといった非オピオイド鎮痛薬を使用する。それで対応できない痛みに対しては、オピオイドを使用する。第2段階では弱オピオイド、第3段階では強オピオイドを使用することになっているが、第2段階で強オピオイドを低用量で使用することもあるという。
「1986年に考案された治療法なのですが、現在でもこの方法で疼痛治療が行われています。新しい薬が次々と登場していますが、疼痛治療の基本は全く変わっていません」
オピオイドによる治療は、持続痛、突出痛といった痛みの種類に応じて、薬を使い分けている。持続痛に対しては、比較的ゆっくり効いて長時間作用する徐放性製剤を定期的に投与する。副作用の眠気がなければ、痛みが取れるまでオピオイドを増量することができる。
「生じている痛みが、持続痛なのか突出痛なのかを見分けることが重要です。一時的に生じている痛みなのに、患者さんが『痛い』とだけ言ったために、医師がずっと痛いのだと勘違いし、定期鎮痛薬を増やしてしまうことがあります。このような場合には、副作用として眠気が生じ、強い眠気になった場合にはQOL(生活の質)がかえって落ちてしまうことがあります」(図4)

一時的に起こる突出痛に対しては、突出痛のタイプを明らかにし、それに応じた治療が行われる。突出痛のタイプとしては、予測できる突出痛、予測できない突出痛、定期鎮痛薬の切れ目の突出痛がある(表5)。

予測できる突出痛の場合、体を動かすことによって出現することが多いので、その場合には痛みの出にくい動作方法・環境設定、コルセットを利用するなどで痛みを軽減できないか考える。また、痛みが出る前に予防的にレスキュー薬を利用する場合もある。また、予測できない突出痛のうち、何もしていないのに突然痛みが強くなる発作痛が起こる患者さん��多いが、その場合は鎮痛補助薬が必要になるという。
一方、定期鎮痛薬の切れ目に起こる突出痛は、投与量が不足していることが原因と考えられるので、オピオイドなどの鎮痛薬を増量して対処する。
口腔粘膜から吸収させる新しい剤形のオピオイド
突出痛の場合、レスキュー薬を使うケースは多い。レスキュー薬としては経口であればすぐに効果が現れる速放性製剤が使われているが、2013年からは、それまでの速放性製剤と比べてより速く効果が現れる新しいタイプの薬として、*フェンタニル口腔粘膜吸収剤も使えるようになった(図6)。フェンタニルは強オピオイドの一種だが、それを口の中の粘膜から血液内に吸収させて痛みを抑える。
「突出痛は痛み始めてから5~10分で痛みのピークに達し、10~60分で収束することが多いと言われています。ところが、経口速放性製剤は、効果がピークに達するまでに50分位かかってしまいます。それに比べ、フェンタニル口腔粘膜吸収剤は、効果が現れるのが速いのが特徴です。10~15分で効果を実感でき、効果のピークに達するのも30分後です。また効果の持続時間が短いため、薬の作用がいつまでも残って、眠気が持続してしまうような心配もありません。
従来のレスキュー薬で痛みのコントロールが上手くいかなかった患者さんにとって、選択肢が増えたことは喜ばしいことです」(図7)
フェンタニル口腔粘膜吸収剤の最大の特徴は、効果が速く現れることだが、その他にも利点がある。1つは、*モルヒネや*オキシコドンに比べ、便秘などの副作用が軽いこと。もう1つは、口腔粘膜から吸収させるため、嚥下障害や腸閉塞で経口剤が使えない人でも使えることである。


*フェンタニル口腔粘膜吸収剤=商品名イーフェンバッカル錠、アブストラル舌下錠 *モルヒネ=商品名MSコンチンなど *オキシコドン=商品名オキシコンチンなど
副作用の便秘に対してはセルフマネジメントが大切
オピオイドによる疼痛治療では、副作用として便秘、悪心・嘔吐、眠気が現れることがある。その中でもとくに便秘については、患者さん自身による排便マネジメントが非常に重要だという。
「便秘に対して医師は下剤を処方しますが、処方通りに薬を飲むだけでは、なかなかうまくいきません。排便は、食事内容、運動、精神状態などの影響を受けるからです。大切なのは、患者さん自身が排便をマネジメントすること。処方されるのは、便を軟らかくする薬、腸の動きをよくする薬です。必要に応じて坐薬や浣腸を利用することもできます。これらを自分で上手く組み合わせて使い、排便をいい状態にマネジメントします」
副作用の便秘がひどくなると、それ以上オピオイドを増量できなくなってしまう場合もある。排便マネジメントが上手くいくことでオピオイドによる治療も進めやすくなり、痛みをきちんとコントロールすることにも繋がっていくのである。
同じカテゴリーの最新記事
- こころのケアが効果的ながん治療につながる 緩和ケアは早い時期から
- 緩和ケアでも取れないがん終末期の痛みや恐怖には…… セデーションという選択肢を知って欲しい
- 悪性脳腫瘍に対する緩和ケアの現状とACP 国内での変化と海外比較から考える
- 痛みを上手に取って、痛みのない時間を! 医療用麻薬はがん闘病の強い味方
- 不安や心配事は自分が作り出したもの いつでも自分に戻れるルーティンを見つけて落ち着くことから始めよう
- 他のがん種よりも早期介入が必要 目を逸らさずに知っておきたい悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケア
- これからの緩和治療 エビデンスに基づいた緩和ケアの重要性 医師も患者も正しい認識を
- がんによる急変には、患者は何を心得ておくべきなのか オンコロジック・エマージェンシー対策
- がん患者の呼吸器症状緩和対策 息苦しさを適切に伝えることが大切