がんの痛みを取り除く神経ブロック療法
これからの期待が集まるパルス高周波法

一方、がんの患者さんに多いのは、がんが増殖して神経を巻き込むことで起きる神経障害性疼痛。こうした痛みの中でも、痛みの場所がピンポイントの場合、高周波熱凝固法が行われることが多い。痛みを引き起こしている神経に直接針を刺し、針から熱を発して神経を破壊する治療だ。
「神経障害性疼痛に対しては、パルス高周波法も大きな効果が見込めます(図5)。これは神経の抑制系に作用することで、痛みが治まる治療と考えられています。神経には痛みを脳に伝える機構のほか、痛みの伝達を抑える機構もあります。体は、極度の痛みが来た際に急いで対応するため、ほかの痛みの伝達を止めます。
このとき、『ちょっと待て』と痛みを交通整理するような機構が、抑制系です。この抑制系を使う治療であるため、熱による神経の損傷もなく長期にわたって疼痛を軽減する効果があります。神経のダメージがないため、しびれなどの不快感もなく、高周波熱凝固法では通常行わない四肢などの痛みに対しても実施できます。欧米でも近年、パルス高周波法の有効性の報告が増えています」
できるだけ早期に始める
では、神経ブロックはいつ、どのようなタイミングで開始したらいいのだろうか。これもガイドラインによれば、その適応は、以下のようになっている。
❶モルヒネ換算で120mg/日程度のオピオイドを全身投与しても鎮静効果が得られないとき
❷オピオイドなどの鎮痛薬や鎮痛補助薬が副作用のため使用できない場合
❸末梢神経ブロックなどが可能な限られた範囲の痛みで、神経ブロックの効果があると考えられる場合
❹オピオイドの使用量があまりに多く、経済面を考えざるを得ない場合
これらを見ると、「最後の段階か」と肩を落とす患者さんもいると思うが、安部さんは否定する。
「確かに、オピオイドや鎮痛補助薬が効かない人やこれらの薬の副作用が強く、ADL(日常生活動作)が低下した方にも神経ブロックを行いますが、神経ブロックはできるだけ早い段階から行ったほうがいいのです。痛みを放置すれば悪循環で痛みが増すからです。今日では主治医に痛みについて相談すれば、ほとんどの場合、すぐにペインクリニックに紹介されると思います」
動けることで、さらに痛みを抑える効果も
全身状態のよい早い段階から始めれば、もちろん「痛くなければ日常生���もスムーズになり、やりたいこともできて元気に過ごせる」というメリットがあるが、もう1つ重要な意味を持つ。
「患者さんに動いてもらえることです。今、体を動かす重要性が強く言われています。痛いからと体を動かさなければ筋力もバランス力も落ち、悪いところにますます負担がかかる。痛みが減って動けるようになると、この悪循環が断ち切られます。
体は合理的にできているので、必要ないところには血液の供給量も減少します。いくら血流改善薬を投与しても、血液が効果的に回らないこともあります。ところが、動くことで省エネモードから活動モードに切り替わり、血流はよくなり、筋力はつき、『自然に治る』力も活性化されます。
実際、椎間板ヘルニアや骨折などの出っ張りで神経が圧迫されて痛かったのに、動き出したら神経が出っ張りを回避したり細くなったりして、痛まなくなったという症例も少なくありません。がん患者さんも動ける範囲で動いたほうがいいのです」
痛みが減ればオピオイドも減らせて、眠気、ふらつき、便秘といった副作用も軽減される。頭がクリアになり、その人らしく過ごすことができる。
「神経ブロックは悪いところに直接ピンポイントで薬を送り届けるので、全身への影響が少ないのです。もちろん、出血が予想される人など、適応できない人はいますが、正直、今日ではリスクの少ない治療だと思います」
主治医に相談し、治療に関する説明を十分聞き、神経ブロックを本来のがん治療と上手に併用してはいかがだろうか。
同じカテゴリーの最新記事
- こころのケアが効果的ながん治療につながる 緩和ケアは早い時期から
- 緩和ケアでも取れないがん終末期の痛みや恐怖には…… セデーションという選択肢を知って欲しい
- 悪性脳腫瘍に対する緩和ケアの現状とACP 国内での変化と海外比較から考える
- 痛みを上手に取って、痛みのない時間を! 医療用麻薬はがん闘病の強い味方
- 不安や心配事は自分が作り出したもの いつでも自分に戻れるルーティンを見つけて落ち着くことから始めよう
- 他のがん種よりも早期介入が必要 目を逸らさずに知っておきたい悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケア
- これからの緩和治療 エビデンスに基づいた緩和ケアの重要性 医師も患者も正しい認識を
- がんによる急変には、患者は何を心得ておくべきなのか オンコロジック・エマージェンシー対策
- がん患者の呼吸器症状緩和対策 息苦しさを適切に伝えることが大切