痛みに苦しまないためには患者さん自らの治療参加が効果的がんの患者さんの身体と心の痛みを取り除く緩和ケア
がんの緩和ケアでは心のケアも必要

緩和ケアでは、身体の痛みだけでなく、心の痛みも治療の対象となる。なぜなら、がんの患者さんの多くが、適応障害やうつ病など、心のトラブルを抱えているからだ。
「がんの患者さんは、全病期を考えると、約3割が適応障害になると言われていますし、うつ病になる人も6パーセントほどいます。がんになったことが原因のこともあれば、治療が原因のこともあります」
適応障害とは、はっきりした原因があり、それによって、うつ的になったり、不安になったりする状態を指す。睡眠障害を伴うことも多い。
「最近、抗がん剤治療の副作用として、睡眠障害が注目されています。従来は吐き気や脱毛ばかりが注目されていましたが、睡眠障害についても、きちんとサポートする必要があると指摘されているのです。こうした心の症状にも、必要に応じて薬の治療が行われます。心を強く持つとか、気持ちで治すとか、そういうことではありません」
また、がんの緩和ケアでは、患者さんの家族の心のケアも、必要になることが多いという。
「患者さんの家族にも、患者さんと同じくらい適応障害などが起こりますが、とかくケアの対象からもれてしまいがちです。病院に相談室などがあれば、そういうところで相談するのも1つの方法です。また、がんによっては家族会が組織されている場合もあり、それが家族の心の支えになる場合もあります」
親のがんを幼い子どもにどう伝えればいいか
患者さんの子どもが幼い場合、親の病気をどう伝えるかが問題になることもある。
「アメリカでは、がんと診断された患者さんの4分の1に、18歳以下の子どもがいるそうです。基本的には、病気についてきちんと伝えることが大切です」
しかし、子どもに親ががんであることを伝えるのは、決して簡単なことではない。
「最も大切なのは嘘を言わないこと。残された命があと数カ月という時点で、『治るからね』とは言わないほうがいい。亡くなったときに、子どもたちは、治らなかったのは自分のせいだ、自分が悪いことをしたからだと考え、かえって心が傷ついてしまうことが多いからです」
病名は隠さず伝え、がんは感染しない、がんになったのはあなたのせいではない、ということをしっかり理解させる。こういったことが、親のがんを子どもに伝える場合のポイントだ。
「嘘を言わないということは、事実を全て話すということではありません。治癒の可能性がない場合、『死ぬの?』と聞かれたら、『死なない』とは言わず、『死ぬつもりはないよ』『死なないようにがんばっているから』と答えるようにします」
嘘をつくと、そのときはよくても、後でかえって大きな心のダメージを与えてしまうこともある。厳しいように思えても、嘘を言わないことが、子どもの心を守ることになるのだろう。
在宅緩和ケアも無理なく行える
末期がんの患者さんに対する緩和ケアは、病院だけで行われているわけではない。現在では、在宅でも充実した緩和ケアを受けることができる。
「医療や介護のサービスを受けられる体制が整ってきたので、どんな患者さんでも、家に帰りたいという希望があれば、帰すことはできるし、きちんとサポートすることもできます。1人暮らしの方でも可能です」
かつては、在宅を希望する患者さんがいても、医療用麻薬を使っている人は受け入れられない、という訪問看護ステーションが多かったそうだ。最近は、在宅医療に携わる医師や看護師が医療用麻薬を扱うことに慣れ、在宅緩和ケアが広く行われるようになってきた。
このように、医療機関でも在宅でも、緩和ケアは重要な役割を果たしている。そして、この分野を専門とする緩和ケア認定看護師が、全国で919人誕生している。がん診療連携拠点病院には必ずいるし、緩和ケア病棟がある病院ならほぼいると考えていい。ただし、訪問看護の現場や中小規模の病院には、まだほとんどいないのが現状だという。
「症状緩和のための知識やスキルはもちろん大切ですが、緩和ケア認定看護師に欠かせないのは、人を人として大切にする、命尽きるときまで人として尊重する、という姿勢です」
そういうケアのできる看護師が、緩和ケアの現場で求められていることは間違いない。活躍を期待したいものである。
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