オピオイドを適切に使うことで元気になり、意欲的に化学療法に取り組める 疼痛コントロールはがん治療の早い時期から始めるのが効果的

監修:蒲生真紀夫 みやぎ県南中核病院副院長・腫瘍内科・日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年5月
更新:2013年4月

就寝時の痛みは即日解消すべき

また、疼痛治療では患者さんごとの薬の必要量の個人差が大きいため、量の調節が非常に重要である。多過ぎれば副作用が出るし、少なければ痛みを完全に取り除くことができない。

「少ない量から投与し、少しずつ増やしながら適量を探っていきます。これをタイトレーションと言い、副作用を抑えて痛みを取り除くために必要です。ただ、時間をかけてはだめで、できれば3日以内、遅くとも4日までには、痛みを取り除くべきだと思います。とくに就寝時の痛みは即日解消すべきです」

痛みの強さは、0(まったく痛まない)から10(これ以上ないほど痛い)までの数値で評価する。安静時の痛みは0が最終目標だが、できるだけ早く2以下にすることも大切だという。

貼付剤は経口剤に比べ、初期調節が難しい。3日間持続するようになっているので、適量がどうかも3日おきにしか判定できないからだ。

蒲生さんは、経口剤の使えない患者さんには、モルヒネの持続注射(小型ポンプで薬を少量ずつ注入する方法)で調節を行っている。モルヒネの適量が決まったら、それをフェンタニルに換算し、適切な貼付剤を使うわけだ。

必要なオピオイドの量は、病状によって変化していくことがある。変化に素早く対応するためには、ベースとなる徐放製剤とレスキューで投与する薬を、モルヒネならモルヒネ、オキシコドンならオキシコドンというように、そろえておくといい。

「たとえば、オキシコドンを1日に20ミリグラム投与していた人が、たびたびレスキュー投与を必要とするようになり、レスキューの量が1日平均10ミリグラム程度だったとします。このような場合には、ベースとなる徐放製剤の量を、1日30ミリグラムに増やします」

ベースの投与とレスキュー投与が同じ種類のオピオイドだと、変化に素早く対応し、常に適量のオピオイドを投与することが可能になる。

がん治療の早い段階から痛みの治療を開始する

疼痛治療を開始するのは、痛みを取る必要が生じたとき��らだ。極端な話、がんと診断がつく前でも、痛みに対しては疼痛緩和を開始しなければならない。

みやぎ県南中核病院で、実際にどのようなタイミングで疼痛治療が行われているかを調べたデータがある。同病院で化学療法と疼痛治療の両方を受けた患者さんを対象に、それぞれの治療が行われた時期を調査したのだ(図3、4)。

[図3 疼痛緩和と化学療法の併用分類方法]

図3 疼痛緩和と化学療法の併用分類方法

分類 詳細
A-1 化学療法終了後、終末期にオピオイド導入
A-2 化学療法終了間際に、終末期にオピオイド導入。わずかに重なる
B-1 化学療法施行開始後、オピオイド導入。化学療法とオピオイドの並行ケア
B-2 オピオイド導入後、化学療法施行を開始。化学療法とオピオイドの並行ケア
その他 化学療法実施が1回のみ、がん性疼痛治療終了後化学療法施行、がん性疼痛治療がほとんどなされていない、等のケースはその他に分類;

[図4 疼痛緩和と化学療法の併用時期分類]
図4 疼痛緩和と化学療法の併用時期分類

「その結果、50パーセントの患者さんが、化学療法と疼痛治療を並行して行っていることが分かりました。化学療法を行う時点で、すでに痛みを抱えている患者さんは実はたくさんいるのです。そういう患者さんに適切な疼痛治療を行うことは、がんの治療にも大きな成果をもたらすことになります」

早い段階から疼痛治療を行った症例を紹介してもらった。

痛みを取ることで生きる気力が湧いてくる

症例:60代女性

背中の痛みを訴えて受診した患者さんで、超音波検査とCTにより、その日のうちに膵がんと判明。食欲がなく、半年で体重が8キログラム減少した。痛みの程度が8(0~10の11段階で評価)と強かったため、外来でオキノーム(一般名塩酸オキシコドン散)を服用してもらったところ、痛みはすぐに1まで改善した。

翌日に入院し、オキシコンチン(一般名オキシコドン徐放錠)をベースとする疼痛治療を開始。痛みが0まで改善し、食欲が出て、元気を回復していった。

入院から5日目には、抗がん剤のジェムザール(一般名ゲムシタビン)による治療を開始。このときまでに体重が3キログラム増えていた。その後退院し、外来化学療法で治療を続けることになった(図5)。

「ここで紹介したのは、いずれも痛みを抑えることで患者さんが元気になり、抗がん剤治療がスムースに行えた症例です。痛みに苦しみ、食事もできないような患者さんに、化学療法を始めましょうと言っても、なかなかうまくいきません。痛みを取り除くことで、がんと闘う気力が湧いてくるのです」

[図5 患者さんの疼痛治療例 (60歳代、女性 主訴:背部痛 診断名:膵がん)]
図5 患者さんの疼痛治療例 (60歳代、女性 主訴:背部痛 診断名:膵がん)

患者さんが治療に意欲的になる2つの理由

蒲生さんによれば、患者さんが治療に意欲的になる理由が2つある。1つは、痛みがなくなることで食事や睡眠が十分に取れるようになり、元気が回復してくること。もう1つは、痛みを取ってくれた医師に対する信頼感が生まれ、この先生が行う化学療法ならよい結果が期待できる、と考えるからだという。

このような点からも、がんの疼痛療法は、それが必要となった時点から、タイミングよく開始することが大切なのである。


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