聞いて欲しい! がん患者が訴える「私の痛み」
ケース3 佐藤美恵子さん(49)

医療者と共に納得の治療を追及した
佐藤美恵子さん
痛む場所 右手
原因 不明
「痛くて、震えが来て、足もガクガクするし、しゃべれないし、眠れないし……」
乳がん(腫瘍の大きさ2センチ、リンパ節転移5カ所)
2000年6月、オーチンクロス法により手術。術後、化学療法→01年8月再発(手術跡)。放射線治療、化学療法を行う→02年2月局所再発(胸筋)。化学療法を行う→03年1月脳転移。開頭手術後、放射線治療→7月局所再発(皮膚)。化学療法を行う。現在、手術跡周辺の皮膚転移の治療のため化学療法を繰り返す。
インターネット上で乳がんの闘病記をつづる佐藤美恵子さん。彼女が右手の痛みに襲われたのは、02年の正月明けのことだった。スキーで転倒して右肩を打撲した。肩から腕にかけての痛みはだんだん強くなり、腫れも鎖骨の下全体にまで広がった。明らかに筋肉の損傷とは違う状態を感じた佐藤さんは、2度目の再発を確信し、化学療法を受けるために入院することにした。
「しかし、入院を待つ間も痛みは激しくなるばかり。ボルタレン坐薬を処方してもらいましたが、まったく効かないのです。我慢できなくなったので、病院に駆け込んで『痛い!』を連発し、自分からモルヒネを処方してもらうように頼みました」
痛みの状態は、「痛くて、震えが来て、足もガクガクするし、しゃべれないし、眠れないし……」(HPから)。訴えを聞いた主治医は、すぐに経口モルヒネ徐放剤と便秘を防ぐための下剤を処方してくれた。
「すると、この日まで強い痛みで眠れなかったのですが、すっと引いて、久しぶりにぐっすり眠ることができました」 しかし、初日には劇的に効いた経口モルヒネ徐放剤も量が足りなかったようだ。入院後、1日40ミリグラムに増量したが痛みは引かず、240ミリグラムまで増え、退院から2カ月ほど経った5月になると480ミリグラムに達した。
なお、痛みの原因は不明である。主治医は、「手を動かす神経叢のある鎖骨下にがん細胞があり、悪さをしているのではないか」と推測している。ただし、細胞レベルなので、画像診断でも発見することはできないという。
さて、手の痛みはどうにかコントロールしていったものの、心配だったのは1日480ミリグラムという量だった。とくに悩みの種だったのは値段だ。経口モルヒネ徐放剤だけで出費は月10万円に達していた。抗がん剤の処方でも月20万円以上かかっていたため、すぐに家計は火の車になった。そこで、10分の1の値段ですむ塩酸モルヒネに替えることにした。
その後、機会があれば量を減らそうと考えた佐藤さんは、���行錯誤の末、10月には1日240ミリグラムまでに減量することができた。
しかし、忘れもしない11月20日、朝目覚めると同時に、右手に強くしびれるような痛みが走った。これまでとは違う痛みである。モルヒネも1日240ミリグラムでは効かず、360ミリグラムに増量しても効果はない。それでも友人たちと温泉1泊旅行に出かけたが、旅行から帰ってくると包丁を握ることすらできなくなってしまった。
あまりにひどい痛みのため、家に1人でいることができなくなり、入院することにした。全身を検査すると、脳転移が発見され、開頭手術を受けた。しかし、痛みは一向に引かず、以後、主治医と二人三脚で試行錯誤を繰り返しながらモルヒネを増減していくことになる。
大切なのはQOLを高めること。モルヒネを怖がらないで!
佐藤さんの右手だが、残念ながら、現在では肘から下が麻痺して動かすことができない。しかし、「要求は全部伝えたし、医師も看護師もすぐに対応してくれたので、治療自体には満足しています」と、笑顔で語る。
それでも、日本で行われている痛みの治療については「医療者も患者も理解が足りないのではないか」と批判的だ。
「本来、緩和医療とがんの治療は並行して行われるべきですが、いまだに『痛みの治療は終末期』と誤解されています。大切なのは、薬を使ってQOL(生活の質)を高めて普通の生活を送ること。医療者も患者もモルヒネを怖がらず、積極的に利用すべきだと思います」
インターネット上の佐藤美恵子さんの闘病記
「シュガーのホームページへようこそ」
日々の日記、手術、再発、入院体験、化学療法の体験記など、闘病にまつわる膨大な記録をHP上にアップ。掲示板には、がん患者が集う。オフ会として、温泉旅行も企画した
モルヒネの増減の記録
(「シュガーのホームページへようこそ」内)
モルヒネの増量と減量の推移を詳細に記録した。ここまでの 記録は他に例を見ないので、ぜひ一読することをお勧めする
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