患者の言葉を聴き、信じ、それに対応していく。それが痛みの治療の原点 患者の痛みに対する理解がまだ足りない

出席者:小川節郎 駿河台日本大学病院病院長
下山直人 国立がんセンター中央病院手術部部長
土橋律子 支えあう会「α」代表
まつばらけい 子宮・卵巣がんのサポートグループあいあい主宰
撮影:大関清貴
発行:2006年12月
更新:2013年9月

緩和ケアの医師がネットで協力することも

下山 それでも、がん対策基本法ができて、がんの痛みはきちんと取るべきということが、法律で定められました。私たちがこれまで長い間言い続けてきたように、「痛みを放っておくことは犯罪である」と、法律的にも後押ししてくれるようになったといってもいいと思います。
また、今後がん拠点病院を介して情報の伝達が行われ、そこには緩和ケアのチームを作ることも義務づけられました。さらに、治療がむずかしくなってきたとき、「ホスピス」、「患者さんの近くの一般病院」、「在宅医療施設」のいわゆる「緩和ケアの三角形」に継ぎ目なく移行できるよう、チームで計画を立てることも義務づけられています。患者さんを中心とした医療として、だんだん方向が明確になってきているのではないでしょうか。

土橋 JPAPのホームページを拝見し、こういう場所ができたことが、すごくうれしかったです。ただ、ネットの情報だけだと使える人が限られてしまうので、報道記事やQ&Aなどは冊子にまとめ、拠点病院に置いてほしいです。

編集長 JPAPのような組織には、「○○の医療施設ではこんな治療ができる」といった情報も、ぜひ流してほしいですね。それが、医療格差をなくす早道だと思います。

下山 たしかに、今のところ緩和ケアは、「こんなことをやっています」と宣伝すれば、それで通ってしまう。緩和ケアのスタンダードがないからです。やはり、全国共通のコンテンツで教育を行い、認定医制度などを確立する必要があると思います。
また、現時点で格差をカバーする方法として、医師同士が情報を提供しあうことも行われています。なぜかというと、実は治療がむずかしい痛みがあり、治療経験を相談し合うことは重要です。

小川 本当ですね。

動けない患者に対して治療の出前ができないか

写真:小川さんと下山さん

医師が患者さんの痛みを理解できるようにする教育が必要だと思うんです

下山 私たちでさえ困る痛みもまだ少なからずあります。でも、同じ緩和ケアの専門家の中にも、違う技術をもった人はいます。たとえば、骨転移の動いたときの痛みはモルヒネでも取りにくく、骨セメントなどの方法で和らげられることが多く見られます。こうし��技術をもった施設の情報は重要ですね。

土橋 でも、患者さんは病院を移動できません。出前をしていただくことはできませんか。

下山 今後そのような方法も検討されるべきですが、現実にはまだむずかしいですね。国の方針として、在宅の現場に緩和ケアのチームが出向くことも検討されているようですが、まだ実現には程遠いと思います。
それでも、医師が情報を提供しあうネットなどはあります。たとえば、緩和医療学会のネットワーク。「なかなか治療のむずかしい痛みをもつ患者さんがいる。アドバイスいただけませんか」と聞きあったりしています。そうしたネットワークを多くの医療従事者が利用できるようにしていくことも、重要であると思います。

土橋 情報は「ない」といわれたほうがありがたいこともあります。あっても使えないなら聞きたくない、というのが患者の本音ですから。

下山 それでも、患者さんの側からも、「こういうニーズがあるんです」と訴えていくことは、現状を改善するためにはやっぱり必要だと思いますね。

抗がん剤による痛みとしびれ。切望される対応策

編集長 抗がん剤治療が外来、通院で簡易にできるようになってきていますが、その抗がん剤にともなう痛みについて、もう少しうかがいたいと思います。今はがんでも長生きされる方が増え、抗がん剤が治療のメインになりつつあります。でも、まだまだ副作用は強く、抗がん剤の治療と痛みの治療をうまく取り入れ、どう快適な生活を実現するかは、大きな問題だと思います。

小川 実は、抗がん剤による痛みの発生機序は複雑で、非常に治りにくい痛みの部類に入ります。効きそうな薬はありますが、種類も量も多くなり、痛みは減ったけれども意識は混濁した、というようなことも起こります。コントロールが非常にむずかしいんです。

下山 がんの化学療法にともなう副作用で嘔気や白血球減少などは、今ではずいぶん改善の方法が見つかっていますが、たとえばシスプラチンやオキサリプラチンのように神経系に障害を起こした結果としてのしびれなどの問題がなかなか解決されませんね。
ただ、去年オーストラリアで行われた世界疼痛学会では、抗けいれん薬のプレギャバリン、ギャバペンチンなどの有効性が注目を集め、日本でも臨床試験が検討されています。

疼痛治療や緩和ケアは、治療に大きく貢献する

まつばら・土橋 それはどこで行っているんですか。その病院の患者さんじゃなくても、試験に参加できますか。

下山 詳しくは申し上げられませんが、臨床試験が検討されているところです。ただし、まず最初は、帯状疱疹の痛みや糖尿病性の神経障害の痛みから開始される場合が多いと思います。

まつばら・土橋 じゃ、がんの適応はまだ?

下山 まだというか、がんの痛みで適応をとることはむずかしいですね。ギャバペンチンも、神経障害の痛みに対して、アメリカではファースト・チョイスといわれていますが、この9月日本で発売されたのは、抗けいれん薬としてでした。
それでも、今まで道がなかったところに道ができてきたことに意義を感じます。私たちの施設でも、治療にともなう痛みに関しても緩和ケア医に依頼がくることが多くなり、治療グループと緩和グループがペアを組んで患者さんをケアしていく例も増えてきました。
今までは「治療するためには仕方がない」ということだったものが、ケアやサポートが可能であり、そうするべきものとして認識されてきたのです。
治療にともなう痛みが緩和されると、治療を中断していた人も再開できるようになります。積極的に治療を続けながら、自分らしく日常生活を過ごせるようになります。疼痛治療や緩和ケアは、がん治療を現実に大きく支えているのはもちろん、「苦しまずにすむ」、「治療を続けられる」という安心感から、患者さんは前向きに生きていくことができると思うのです。

まつばら そのお話は目からウロコというか、勇気づけられます。緩和ケアは決して終末期だけの医療ではなく、診断時から始まるべきものと最近言われますが、その可能性を感じました。

土橋 そうした緩和医療の中では、具体的な治療とともに、心の問題もぜひケアしていただきたいですね。さっきも出ましたが、痛みは精神的なものによって、大きく左右されます。医師は患者さんにぜひ「痛いといっていいんだよ」といってほしいし、下山先生がおっしゃったように、患者さんの訴えを「ああ、痛いんですね」と受けてほしいと思います。

小川 JPAPとしてはこの間、「JPAP神戸宣言」をしました。「痛みはがまんするものではなく、もちろんがまんさせるものでもない」という意識を、医療者側にも患者側にも浸透させることが目的です。JPAPはこの実現のためにも、今後、情報を提供したり、研修制度を確立したりしていきたいと思います。

編集長 がん対策基本法に定められたからといって、疼痛治療や緩和ケアが急に進むことはないと思いますが、それでも、今後変わっていく可能性は強く感じられます。皆さんもそれぞれのお立場で、痛みの治療、緩和医療を前進させるべく、ご活躍をいただければと思います。今日はありがとうございました。

(構成/半沢裕子)


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