痛みをなくすレポート(1)痛みを我慢しない
痛みをなくすレポート(1)痛みを我慢しない
片柳憲雄さんのコメント
*1 がんの痛み
がん患者のうち、痛みが出る人は70パーセント。その痛みのうち、がんそのものに由来する痛みは70パーセント、治療に関係する痛み、がん以外の他の原因からくる痛みがそれぞれ15パーセント。
がんに由来する痛みにもさまざまあります。(1)持続的な痛み 内臓や軟部組織に転移・浸潤した場合に起こる痛みで、モルヒネがよく効きます。(2)一定しない痛み 骨への転移による痛み、胸膜の痛み、神経にがんが浸潤して起こる痛みなどで、モルヒネの効果は少し劣ります。(3)間欠的な痛み がんに付随した別の原因による痛みで、モルヒネは効かない。別の治療が必要です。
*2 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
がんの痛みの治療はオピオイド鎮痛薬だけではありません。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はがん疼痛治療の土台になる薬で、中でも*COX2選択性の高いNSAIDsは長期間安全に使用でき、オピオイド鎮痛薬と併用することで鎮痛効果を増強できます。どんな痛みも最初は炎症から始まるのでNSAIDsがかなり効き、骨転移ではNSAIDsの併用が不可欠です。
*COX2=シクロオキシナーゼという酵素の一種
*3 患者の心得
痛みは患者さん本人しかわかりません。痛みがあれば、我慢しないで、それがどういうもので、どの程度なのか、きちんと医師に説明することが大事です。副作用もきちんと訴えましょう。治療中に痛みが出た場合も、我慢せず、レスキュー(臨時薬)を飲むことです。
*4 世界保健機関(WHO)のがん疼痛治療指針
世界保健機関(WHO)は、「すべてのがん患者を痛みから解放する」のを目標に、1986年、がん疼痛の治療指針を発表しました。モルヒネ等の麻薬性鎮痛薬を使用してがんの痛みを治療すべきだとする内容で、段階的に鎮痛薬を使用する3段階除痛ラダーや治療にあたって守るべき5原則などが示されています。この治療指針に沿って治療をすると、がんの痛みは9割方とれるか軽減します。
*5 オピオイド鎮痛薬
がんの痛みの治療の主役になるのがオピオイド鎮痛薬と、モルヒネなどの医療用麻薬です。主に脳などの中枢神経に働き、痛みの感覚を鈍くする神経細胞が働いて、痛みが抑えられます。内服薬、坐薬、静注薬などがあり、種類もモルヒネ以外に、オキシコンチン錠(一般名 塩酸オキシコドン徐放剤)やデュロテップパッチ(一般名 フェンタニル)が出ています。
*6 麻薬性鎮痛薬に対する誤解や偏見
鎮痛薬ですら身体によくないと思っている人がいるなか、麻薬性鎮痛薬となれば、「えっ、麻薬を使うのですか」と驚きを示す人がほとんど。がん末期の最後の手段、中毒、廃人になる、頭がおかしくなる、命を縮めるなどと信じ込んでいるのは���解と偏見に起因しています。正しく使えば、痛みの大半はとれます。麻薬中毒になることもありません。ただ、最近は患者や家族の方に時間をかけてゆっくりと説明すると、ほとんどの方が納得してくれるようになりました。
*7 オピオイド鎮痛薬の副作用
正しく使う限りは、中毒になるとか、命が短くなることはありません。ただ、他の薬剤と同様にある種の副作用はあります。一番多いのは、便秘で、通じ薬の服用が必要です。吐き気と眠気はしばらくすると慣れてきますが、事前に薬を飲んでおけばかなり予防できます。
*8 オキシコンチン錠
モルヒネ以外では、初の経口徐放製剤で、鎮痛効果は経口でモルヒネの1.5倍といわれます。がん疼痛治療で最も汎用されているオピオイド鎮痛薬はMSコンチン錠です。
しかし、最近は、当緩和ケアチームでは、オキシコンチン錠を第一選択にしています。副作用が少なく、効果が現れるのも早く、細かい単位で増量でき、調節しやすい特徴を持っているからです。腎機能の悪い透析患者でも使えるのも他にない利点です。
*9 オピオイド・ローテーション
オピオイド鎮痛薬を他のオピオイド鎮痛薬に変更すること。日本では、長年モルヒネの1種類しかなかったが、最近オキシコドンやフェンタニルという鎮痛薬が使えるようになり、これが可能になりました。
副作用が強くなったり、鎮痛薬を急激に増量するときなどに行います。
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