Ⅲ期非小細胞肺がんで、根治性の確保を可能とする陽子線治療
広い範囲に照射できるのも陽子線治療の特徴の1つ
Ⅲ期の治療では、肺の腫瘍と縦隔の転移巣に対し、同時に陽子線を照射する。
「同じ粒子線でも、重粒子線はこのように広い範囲に照射することが得意ではありません。そのため、Ⅲ期など局所進行がんにはまだ適応はされていません」
広い範囲に照射することができ、なおかつ集中性が高い陽子線治療は、縦隔リンパ節に転移があるⅢ期の肺がんの治療には、とくに適しているといえるだろう。
X線による放射線療法ができない人にとって大きなメリットがあるのはもちろん、X線による治療ができる場合でも、副作用として起こる放射性肺臓炎のリスクは、陽子線治療のほうがはるかに低い。X線の治療では10~15%の発生率だが、陽子線だと2~3%に抑えられるのだという。
Ⅲ期の治療では37~38回の治療が標準になっている
治療のスケジュールは、早期がんの治療とⅢ期の治療ではまったく違っている。
早期がんの場合、範囲が限られるので、1回に高い線量を照射することができる。そのため、早ければ1週間(5回)、長くかかる場合も4週間で終了する。照射する線量は合計80Gyか66Gyとなる。
Ⅲ期の場合は、1回に2Gy相当を照射し、それを37~38回繰り返す。そして、それと並行して化学療法が行われる(図2)。

「1回の陽子線治療にかかる時間は20~30分程度です。Ⅰ期Ⅱ期のがんでも、Ⅲ期のがんでも変わりません。陽子線を照射するのは1分前後で、主に体の位置合わせに必要な時間なのです」
肺は呼吸で動く臓器なので、呼吸のリズムに合わせ、一定のタイミングで照射する呼吸同期照射という方法をとっている(図3)。しかし、このために特に時間がかかるということもない。

副作用で最も問題となるのは、前述した放射性肺臓炎である。それ以外に、Ⅲ期の治療では縦隔に照射するため、食道炎が起きることがある。粘膜が炎症を起こし、食べるときに痛んだり、飲み込むのを辛く感じたりする。照射開始から3~4週間で起こり、照射終了後3~4週間続くことがある。照射部位の皮膚炎が起こることもあるが、これは外用薬を塗ることで治るので、大きな問題になることはない。
「現在、陽子線治療は先進医療として行われていますが、将来的には健康保険で受けられる治療になることを目指しています。そのため、多施設での共同臨床試験を行うための準備が進められています」
肺がんの治療は新たな分子標的薬の登場で大きく進歩したが、Ⅲ期で手術ができない局所進行肺がんの治療成績はあまり向上していない。
陽子線治療と化学療法の併用療法は、このような肺がんの治療を大きく変えていくのかもしれない。
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