ステージⅠの末梢型肺がんなら1日の照射で終了

監修●山本直敬 放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院第一治療室長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年2月
更新:2015年4月


短い治療は家族の負担軽減のために

重粒子治療の進め方は、まずCTやMRIを撮って治療計画を立てる。その際には「固定具」という胸部を固定するオーダーメードの器具を作り、3次元的に照射ターゲットを絞り込んでいく(図2)。コンピュータにより分析された照射部位が本番で活用される。

図2 治療時に用いられる固定具

山本さんは「1回照射ではなく1日照射が正確」と話す。従来は1日1回、4回に分けて多方面から行っていた照射を、1日で4回行うのだ。固定と微調整を経て位置が合致したら重粒子線を当てる。反対側で同じことをする。それを4回行う。所要時間は1時間半ほどだ。

患者さんへの利益は何か。1週間に4回受けていたことを1日で済ませることで、1回当りの時間は少し長くなったり、体位移動の不便はあったりはするものの、回数が減ることの負担軽減は大きい。山本さんは、それ以上のメリットを挙げる。

「4回照射は入院が必要なのですが、1日照射なら日帰りも可能なので家族の負担がかなり違います。患者さんはどうしても高齢者の方が多いのが実情です。治療期間が短くなれば家族のみなさんにとっても大きなメリットになります」

Ⅰ期の末梢型、リンパ節転移のない局所進行型以外には適応されないのだろうか。

「腫瘍数は1個が原則です。重粒子線治療では、根治を目標としているためです。がんがあるというだけで、そこに当てるということはしていません。Ⅱ、Ⅲ期は何が問題かというとリンパ節などへの広がりです。進行がんでも腫瘍のサイズが大きいものは治せますが、縦隔リンパ節まで転移があるものは予後が非常に悪いということがあります」

化学療法との併用は、局所進行肺がんではすべての患者さんに術後補助化学療法(アジュバント療法)を行い、Ⅰ期では重粒子線治療を受けた患者さんで腫瘍サイズが大きい人に転移予防のために抗がん薬を使うこともある。一方で、高齢や全身状態(PS)、本人の希望などで抗がん薬を使えない人も多いという。

さらに負担の少ない治療器具が登場 治療の意味を理解しての受診が大切

図3 治療中の姿勢の変更

照射ビームの角度が決まっているため、治療中に仰向けからうつ伏せになる必要がある

Ⅰ期末梢型肺がんの重粒子線治療は将来的にどうなるのか。

「1日という短期間での治療が可能になったとはいえ、高齢者の多い患者さんに治療中に仰向けからうつ伏せになってもらうなど、まだまだ負担が大きいのが現状です(図3)。間もなく、照射ビームを自由な角度で挿入することができる機器が日本の技術で完成します。患者さんは仰向けで寝ているだけで、いろいろな角度から照射することが可能となります。

炭素線用回転ガントリーと呼ばれている機器で、ドイツで最初に開発され、建設されたものですが、放医研に導入予定のものはそれよりも小型化したもので、日本初(世界で2例目)となります。放医研と東芝が共同で開発を進めています。日本の重粒子の研究は世界一です」

そのような状況を踏まえて、山本さんは語る。

「外来で、私は重粒子線治療よりも手術がいいと伝えています。重粒子は負担が少なく、手術と同じくらい治療成績がいいのですが、手術は切り取るのでがんそのものを切除することができます。摘出したものを詳しく調べて遺伝子変異もわかるというメリットがあります。

一方で、重粒子は遠くから当てるだけなので、毎回影が映ります。消えません。がんが中に存在しているわけではありませんが、患者さんとしては気になります。重粒子線を含めた放射線治療は、そのような治療だと説明します。それをご理解いただいた上で治療させていただいています」

〔症例紹介〕 肺がん(扁平上皮がん)症例での治療前後の画像所見

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