X線応用の新規治療法開発と粒子線治療の開発が進む

監修●秋元哲夫 国立がん研究センター東病院放射線治療科科長/粒子線医学開発分野長
取材・文●中田光孝
発行:2015年8月
更新:2015年10月


小児がんも対象──陽子線治療

陽子線治療はX線よりも周囲臓器や組織の線量を低減できるため、正常組織へのダメージが小さく、また照射による長期的な副作用である2次発がん(放射線治療による発がん)などを低く抑えられるという利点があります。

治療対象はIMRTとほぼ同じですが、頭頸部がん等でIMRTでは治療困難な、腫瘍の近くに重要臓器があるような鼻腔・副鼻腔のがんや肝細胞がん(図2)、食道がん、前立腺がん、骨軟部腫瘍、肺がんではⅢ期の一部、とくに縦隔リンパ節転移のある例も対象となります (化学療法と併用)。

図2 陽子線治療

また、放射線被曝が少なくて済むという利点から小児がんも対象になります。治療は1日1回(15~30分)週に3~5回、合計4~40回程度。副作用としては照射する部位により異なりますが、皮膚炎、肺がんでは放射線性肺臓炎(2~3%)、縦隔照射した場合の食道炎などがあります。

費用は施設により若干異なりますが280万円前後の自己負担となります。また、現在、陽子線治療を実施している施設は国内に10施設ほどあります。

陽子線治療実施施設リスト
・北海道大学(北海道札幌市) ・筑波大学陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市) ・名古屋陽子線治療センター(名古屋市) ・南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市) ・国立がん研究センター東病院(千葉県柏市) ・福井県陽子線がん治療センター(福井市) ・相澤病院(長野県松本市) ・静岡県立がんセンター(駿東郡)
・兵庫県立粒子線医療センター(たつの市) ・がん粒子線治療研究センター(鹿児島県指宿市)

重粒子線治療の好適対象は骨軟部腫瘍

日本では炭素原子を加速した(炭素線)治療が行われています。

「重粒子は陽子よりも粒子が大きいため、腫瘍に当たったときのダメージが約3倍大きいと言われています。それは正常な細胞に当たった場合のダメージも3倍強いということで、陽子線よりも治療可能な部位が限られてきます。重粒子線治療が最も適しているのは放射線に抵抗性である骨軟部腫瘍ですが、それ以外では頭頸部がん、肺がん、前立腺がん、肝がんなどが対象になりま���。また、ごく狭い範囲にエネルギーを集中できるという性質を活かして眼腫瘍もよい適応となります」

重粒子線治療は治療期間を短縮できることもメリットの1つで、早期肺がんは1回の治療のみ。前立腺がんは16回程度(通常のX線治療では40回前後7~8週間)で治療が終わります。一方、がんの進行度に関係なく治療できるという利点はありますが、広範囲の照射に適していないため、原発巣と転移巣を同時に広く治療することは積極的には行われていません (例:肺がんのⅢ期局所進行がんなど)。

副作用としては、陽子線治療と同様に、皮膚炎、粘膜の炎症(治療開始期)などがあります。

費用は施設により異なりますが、およそ300万円強です。現在、日本国内の4施設で重粒子線治療が行われています。


このように、新しい放射線治療が次々と開発されている一方で、秋元さんによると「新しい放射線治療だけでなく、呼吸による照射位置のズレを補正する呼吸同期や、腫瘍を常時追跡し照射位置を補正する動態追跡可能な仕組みも開発されています。

また、従来のガンマナイフのX線版として、非常に細いX線ビームを1,200もの様々な方向から腫瘍に集中させ、正常細胞への影響を最小限にし、腫瘍への効果を最大にするサイバーナイフなども臨床で使われています」など、放射線治療の周辺技術の開発も進んでいるとのことです。

重粒子線治療実施施設リスト
・放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院(千葉市) ・群馬大学重粒子線医学研究センター(前橋市) ・兵庫県立粒子線医療センター(たつの市) ・九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県鳥栖市)

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