セツキシマブ承認で 頭頸部がんの化学放射線療法はどう変わる?
セツキシマブ併用放射線療法を検証
国立がん研究センター中央病院放射線治療科では、13年2月から14年5月までに同院でセツキシマブ併用放射線療法を行った15人の患者さんを対象とした治療成績を学会で発表した。
その結果は、セツキシマブの投与完遂率(予定量の70%以上を投与した割合)57%、グレード3(重症)以上の有害事象は皮膚炎80%、粘膜炎67%、入院が必要になった割合は73%で、放射線治療後8週間の奏効率は80%だった(図3)。

この結果について稲葉さんは「投与完遂率や入院が必要になった割合は臨床試験より悪い結果でしたが、奏効率は日本で行われた第Ⅱ相試験と同等であり、この治療法が有用な選択肢の1つであることが実臨床でも示唆されました」としている。
確かに、セツキシマブの投与は2時間程度で済むので外来での治療が可能。にもかかわらず73%の人が入院治療を余儀なくされ、投与完遂率も57%にとどまったというのは気になるところだ。
しかし、臨床試験ではある程度体力のある患者さんが対象となるのに対して、同院での治療ではシスプラチンの投与ができない患者さん、高齢者(年齢中央値は70歳で、最高齢は85歳)、肝硬変の合併症を持つ患者さんもいたため、治療の副作用で入院が必要になったり、途中で投与を中止した人が少なくなかった。
したがって高齢者や重度の合併症を持つ人には、セツキシマブ併用放射線療法も副作用の強い治療と言えそうだが、それでも奏効率が80%あったのは評価に値する。
導入化学療法など新たな治療戦略
新たな治療戦略も考えられている。例えば、まず導入化学療法を行って、そのあとに手術や化学放射線療法を行う方法だ。
進行がんに対してシスプラチンを含む導入化学療法を行う試みは以前からあったが、その有効性は証明されていなかった。ところが、タキサン系の*ドセタキセルとシスプラチン+フルオロウラシルを併用したTPF療法の有効性を検討した試験で好結果が得られたものがあり、現在では機能温存を希望する患者さんに対する治療の選択肢の1つとなっているという。
「TPF療法で抗がん薬の効き具合を見て、よく効くようなら手術をせず化学放射線療法を行い、効かない場合は手術をするという選択が可能になります」
放射線の照��方法も以前と比べると格段に進歩している。頭頸部がんで現在主流となっているのは強度変調放射線治療(IMRT)。これは、最新のテクノロジーを用いて放射線の強度を変化(変調)させて照射を行うもので、がんに対してはしっかりと放射線を集中して当て、正常な組織には照射を少なくして副作用を抑えることができる。
今後の展望を稲葉さんはこう話している。
「治療法が非常に多岐にわたるのが頭頸部がんなので、外科や内科、放射線科などの各部門が連携し、集学的治療を行うことがますます重要になっています。また、個別化治療に進んでいくのが頭頸部がんの治療だと思います。例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)が関与した中咽頭がんは放射線感受性が高いことがわかっています。すると進行がんであっても低侵襲の治療が可能になるかもしれず、これなどは個別化治療の1つといえるでしょう。こういう人にはこういう治療が向いている、という治療が今後増えていくのではないでしょうか」
*ドセタキセル=商品名タキソテールなど
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