治療対象が広がり、進化するガンマナイフの乳がん脳転移治療
サブタイプ別の治療成績に違いは?
ところで、乳がんの手術を受けると、切除したがんの組織学的検査によりサブタイプが特定される。最近の研究では、タイプによってがんの進行や転移の仕方、薬に対する反応も違うことが明らかとなってきたが、それはガンマナイフなどの定位放射線治療の成績でも言えることがわかってきた。
永野さんらは、乳がんの脳転移症例に対するガンマナイフ治療後の臨床経過について、サブタイプ別に比較した研究結果を今年(2015年)の「日本乳癌学会学術総会」で発表。246例を対象にガンマナイフ治療後の生存期間と、治療後に新たに脳転移が出現する累積確率を解析した。
生存期間は、ホルモン受容体陽性タイプ(ルミナルタイプ)が13.9カ月、ルミナルタイプでかつ、HER2陽性のタイプが29.7カ月、HER2陽性タイプが13.9カ月、ホルモン受容体陰性・HER2陰性のトリプルネガティブタイプが7.3カ月だった(図2)。
(全生存期間)

(新規脳転移が出現する累積確率)

「ルミナル・HER2陽性タイプは他の3群と比較して予後が良好であり、反対にトリプルネガティブタイプでは他の全ての群と比べて予後不良でした。この結果から言えることは、脳転移においてもサブタイプに応じた対応が必要だということで、とくに長く生存が期待できる群では、長期にわたる腫瘍抑制や、時間が経ってから生じる晩発性放射線障害の回避を意識した治療がより必要だということです。具体的には、脳の治療を行う際は、全脳照射よりもピンポイントで治療して放射線障害が少ないガンマナイフを選択したほうが良いと言えます」
新規脳転移が出現する累積確率は、ガンマナイフ治療1年後で調べるとルミナルタイプが49%、ルミナル・HER2陽性タイプ36%、HER2陽性タイプ66%、トリプルネガティブタイプ56%で、HER2陽性群、トリプルネガティブ群で新規脳転移が生じやすい傾向を認めた(図3)。
これについて永野さんは、総じてガンマナイフ治療後はどのサブタイプ別でも綿密な経過観察が必要だが、とくにHER2陽性群、トリプルネガティブ群ではより綿密な経過観察を行い、新規脳転移の早期発見に務めることが重要、と述べている。
分割照射で 3㎝超の腫瘍にも治療可能に
さらに、従来は3㎝を超えるような腫瘍にはガンマナイフは不向きとされてきたが、ここにも大きな進歩がある。千葉県循環器病センターでは06年より、それまで不適とされていた大きな腫瘍に対して、1回に当てる線量を落とした上で、2ないしは3回に分割照射して治療する取り組みを行っている。これにより、正常組織への障害リスクを軽減して治療できるようになり、3㎝を超える腫瘍でも治療が可能になった。
「ガンマナイフの治療では頭部にピンでフレームを固定する必要があり、分割照射の際はフレームをつけたり、外したりしなければいけません。このため1回治療したら次は2週間後とか期間を空けて、2回目、3回目と治療します。ですから分割というより段階的治療と言っても良いかもしれません。3㎝を超える腫瘍でも、初回に当てると2週間後には腫瘍が小さくなっているので、それに合わせて2回目の照射を行い、さらに腫瘍を小さくして3回目を当てるという治療を行っています」(写真4)

手術となるとやはり体への負担は大きく、術後の合併症も引き起こしかねない。全身状態が悪く、手術が受けられないといった患者さんなどには、こうしたガンマナイフによる治療も、今後選択肢としてあがってくると言えるだろう。
他にも、放射線治療後の合併症として起こることがある脳の放射線壊死に対しても、分子標的薬の*アバスチンが有効との報告があり、近々保険適用の動きもあるという。
「放射線治療後の合併症に対する武器が、今後増えることになるでしょう」と永野さんは語る。
このように様々な取組みがなされ、着実に進化を遂げているガンマナイフによる脳転移治療。患者さんにはぜひ諦めずに、治療に取り組んでいただきたい。
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
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