ボーダーライン膵がんに対する術前化学放射線療法
手術した場合の生存期間は 中央値で2年を超えている
ボーダーライン膵がんの手術は、血管の再建と切除を伴うため、最初から切除可能だった膵がんの手術よりも大掛かりになり、時間も要するという。横浜市立大学附属病院で行われた100例余りのボーダーライン膵がんの手術は、平均手術時間が11時間24分、平均出血量が1,100mlとなっている。
「通常の膵がんの手術は、8時間程度のことが多いのですが、長いときには10時間くらいかかることもあります。出血量は500ml余りです。手術時間も出血量も、ボーダーライン膵がんのほうが上回ってしまうのは当然でしょう。むしろ、大きな手術をしている割には、時間もさほど長くないし、血管の切除と再建を行っている割に、出血量もさほど多くないと思います。手術器具の進歩がそれを可能にしています」
手術をした患者のうち、R0切除(完全切除)できた人は94%だった。切除できるかどうかボーダーラインと言われた患者でも、手術前治療で効果があった場合には、手術でがんを取り切れる人がほとんどなのだ。
ボーダーライン膵がんの人で、切除手術を受けた人の生存期間は、中央値で27カ月だった。これに対し、何らかの理由で切除手術が行えなかった人の生存期間は9カ月だった。2年生存率は、切除手術を受けた人では55%だが、切除手術を受けなかった人では0%だった。
「手術した場合の生存期間は27カ月ですが、これは手術だけではとても無理だし、化学療法だけでも難しいと思います。比較試験を行ったわけではないのではっきりしたことは言えませんが、ボーダーライン膵がんと診断された場合、この治療を試してみる価値は十分にあると思います」
ただ、化学放射線療法を受けたものの、がんが進行して手術に至らない人も、わずかだが存在する。その人たちにとって、この治療は意味がなかったのだろうか。
「化学放射線療法を行っている3カ月間ほど、手術せずに待つことになりますが、それによって、手術してよい人と、手術しないほうがよい人を、選別しているのではないかと言われています。この間にどんどん大きくなってしまうがんは、手術してもすぐに再発してしまう可能性が高いのです。そういう患者さんに手術を行えば、患者さんを無駄に苦しめることになります。そのような無駄な手術が避けられるのも、術前に行う化学放射線療法の効果の1つと考えてよいのかもしれません」
効果的な薬のなかった時代、膵がんの治療では、とにか���手術が行われていたという。現在は、切除不可能と診断されても、効果的な治療法はいろいろある。このような時代だからこそ、手術すべき人を選択することが重要なのである。
血管に浸潤している場合は セカンドオピニオンを
横浜市立大学附属病院では、ボーダーライン膵がんの術前化学放射線療法を行った患者が100例を超えたこともあり、次の段階の臨床研究を始めている。従来の治療では、ジェムザール+TS-1併用療法が行われていたが、これをジェムザール+*アブラキサン併用療法に変えた治療だ。
「昨年(2015年)11月から新しい化学療法を導入しています。放射線療法とTS-1を同時併用する部分は、そのまま変えていません。アブラキサンの登場で抗がん薬の効果はさらによくなっているので、これまでと同等か、あるいはそれ以上の成績が得られるのではないかと期待しています」
臨床研究が進むボーダーライン膵がんの治療だが、このような術前治療がどの病院でも行えるわけではない。ボーダーライン膵がんの術前治療は、ガイドラインでも「臨床研究として行うように」となっている。横浜市立大学附属病院でも、倫理委員会を通し、患者に臨床研究であることを同意してもらって治療が行われているのだ。つまり、そうしたことができない施設では、この治療は行えないことになる。
「がんが血管に浸潤していると、それだけで手術は無理です、と言われることがあります。あるいは、血管に接しているけれど手術をしましょう、と言われることもあるでしょう。そのような場合には、セカンドオピニオンを受けたほうがよいかもしれません。ボーダーライン膵がんで、術前化学放射線療法が有効かもしれないからです」
膵がんが局所で進行し、主要な血管に接している場合には、術前化学放射線寮法が受けられる医療機関でセカンドオピニオンを受けるとよいだろう。
*アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル
同じカテゴリーの最新記事
- 化学・重粒子線治療でコンバージョン手術の可能性高まる 大きく変わった膵がん治療
- 低侵襲で繰り返し治療ができ、予後を延長 切除不能膵がんに対するHIFU(強力集束超音波)療法
- 〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- 心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!
- 2年後には食道がん、肺がんの保険適用を目指して 粒子線治療5つのがんが保険で治療可能!
- 高齢の肝細胞がん患者さんに朗報! 陽子線治療の有効性が示された
- 腺がんで威力を発揮、局所進行がんの根治をめざす 子宮頸がんの重粒子線治療
- とくに小児や高齢者に適した粒子線治療 保険適用の拡大が期待される陽子線治療と重粒子線治療