腫瘍が縮小し、予後延長の可能性も 膵がんに対するナノナイフ治療

監修●森安史典 医療法人財団順和会山王病院がん局所療法センターセンター長/国際医療福祉大学教授
取材・文●伊波達也
発行:2016年7月
更新:2016年6月


腫瘍が縮小し、切除できるケースも

ナノナイフ治療は、ラジオ波焼灼術と同様に経皮的に外から針を刺して行う場合と、外科的に開腹して、患部を肉眼視しながら針を刺す方法の2通りがある。

「私の前任地の東京医科大学病院でのナノナイフ治療8例は、経皮的治療が4例、外科的治療が4例の臨床研究でした。患者さんのことを考えると、できれば低侵襲である経皮的治療のほうがいいと私は考えています。ただし、治療の有効性と安全性を考えながら、経皮的に患部に針を刺すのは非常に難しく、高い技術が必要です」(写真4)

気になるナノナイフによる治療成績だが、効果としては、①ダウンステージング②長期生存を図る、という2つがあげられるという(写真5)。

写真4 ナノナイフ治療中の様子

森安さんは、できるだけ体への負担を少なくするため、開腹せずに、経皮的に外から針を刺す方法を採り入れている
写真5 切除不能局所進行膵がんに対するナノナイフ治療の効果

ナノナイフ治療前後のCT画像。治療後、がんが徐々に縮小している様子がうかがえる

「膵がんは少し大きくなっただけでも周囲の血管などに浸潤し、切除不能と診断されます。ナノナイフ治療を行うことで、腫瘍を縮小させ、中には手術に持ち込めるケースもあります」

ただ、膵がんの手術というのは、侵襲性が高く、手術ができたとしてもその後、QOL(生活の質)が落ちてしまうケースも少なくない。中には手術を希望しない人もおり、そういった場合でも、ナノナイフ治療による局所治療を行い、その後、化学療法などの全身療法を併用することで、長期生存が図れるケースがあるという。

「同じ局所治療である重粒子線や陽子線治療は、1度行うと再度実施することはできませんが、ナノナイフ治療の場合、1度行ってもし局所で再発してしまったとしても、再度治療を施すことができます」

予後が2倍に延びたという報告も

膵がんに対するナノナイフ治療を世界で最も多く行っている米国ルイビル大学が昨年(2015年)発表した論文によると、200例の切除不能な局所進行膵がんに対してナノナイフ治療を実施したところ、50例でダウンステージングができて手術可能になったという。それ以外の150例については、化学療法との併用を行い、切除例を合わせたトータルの全生存期間(OS)の中央値は、24.9カ月。中には、治療後6年経過した人もいるという。

「切除可能になった例が含まれているとはいえ、切除不能な局所進行膵がんでは強い化学療法を行った場合でも、全生存期間中央値は12カ月ほどですから約2倍、予後が延びていることになります」

実際に、森安さんが前任地の東京医科大学病院と現任地の山王病院で経験した症例で言うと、ナノナイフ治療を施した22例中1例で治療後に再発し、残念ながら亡くなった人がいるが、それ以外の21例は、現在も化学療法を受けながら健在だという。

最も気をつけるべき合併症は膿瘍

合併症についても触れておこう。ナノナイフ治療の合併症としていくつかあげられるが、治療中のものとしては、①不整脈②高血圧③出血などがあげられる。

「治療中に不整脈が起こることがあるので、元々心臓に持病がある人はこの治療は受けられません。またペースメーカーを付けている人、他にも膵がん患者さんの場合、金属製の胆管ステントが留置されている方が多いのですが、通電による胆管の障害の可能性があるため、そういう人にはプラスチック製のステントに交換してもらっています」

一方、治療後に見られるものとしては、①腹痛②膵炎③出血④血栓⑤膿瘍(感染)などがあげられる。この中でも頻度が高いのが腹痛だ。麻薬など強い鎮痛薬が必要な場合もあるが、基本的には手術後1~2日で消失するという。

また、治療後の合併症で1番怖いのは膿瘍だと、森安さんは指摘する。

「膵がんが十二指腸に浸潤している場合、がんをナノナイフで治療すると、がんは壊死したものの、そこに細菌が入り膿を作ってしまうことがあり、最悪の場合は敗血症で死に至ることもあります。ですので、とくに禁忌にはなっていませんが、基本的に十二指腸に浸潤した膵がんについては、ナノナイフによる治療を推奨していません」

さて、気になる治療費だが、現在自由診療により230万円かかるとのこと。今のところ先進医療、保険収載にはなっていないが、治療が困難を極めるがんだけに、将来的に期待したいところだ。

「現在、東京医科大学と国立がん研究センター中央病院が、先進医療を目指して、ナノナイフ治療の臨床研究を計画中です」

他のがん種と比べると、治療選択肢が限られる膵がん。ナノナイフという新たな治療選択肢の可能性が出てきたことは、患者、家族にとっては大きな福音と言えそうだ。

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