肺がんの新しい放射線療法、IMRT、陽子線治療に高まる期待

監修●原田英幸 静岡県立静岡がんセンター放射線治療科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年2月
更新:2017年2月


従来法では根治照射不能な症例に対する高精度放射線治療

従来の3次元放射線治療(3DCRT)では、リスク臓器の線量制約により根治照射を選択できない患者に対する高精度放射線治療という選択肢が登場したのだが、治療成績はほとんど報告されていなかった。そこで原田さんは、静岡がんセンターで治療した、従来法では根治照射不能とされた患者に対するIMRTと陽子線治療について検討し、昨年(2016年)、横浜で開催された日本癌治療学会学術集会で報告した。

方法は、2010年から15年までに高精度放射線治療を受けた患者の全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、再発形式についてレトロスペクティブ(後ろ向き)に調査した。対象として、ステージⅢbの22例(男性17、女性5)が該当し、年齢中央値は65歳(41~74歳)。根治照射不能理由は、脊髄線量超過18例、肺線量制約超過が2例、肺および脊髄とも超過が2例だった。IMRTを17例で、陽子線治療を5例で用いた。一部で3DCRTが併用された。60Gy/30回が処方され、抗がん薬治療は同時あるいは放射線治療前に併用した。

投与された抗がん薬は、シスプラチン+TS-1、シスプラチン+ナベルビンなどで、原田さんは「これは病院により併用する薬剤が異なるので、これのみを推奨しているわけではありません。それぞれの医療機関で経験のあるレジメンならばどれでもよいと思います」としている。

経過は、1例(男性)が放射線肺臓炎のため52Gyで治療を中止した。3DCRTを併用した理由は、高精度放射線治療では同じ体勢を長時間(20~30分)取ることが求められるが、痛みなどでそれが難しい場合、3DCRTなら5~10分ほどで済むためだ。観察期間中央値は17カ月。OS中央値は23カ月(95%信頼区間;20‒28カ月)、PFS中央値11カ月(95%信頼区間;5‒18カ月)だった。2人の患者は4年以上無再発で経過していることもわかっている。再発は14例あり、うち6例は局所再発だった。

結果として、「従来法3DCRTのみでは根治照射不能であっても、高精度放射線治療を用いることにより根治照射が行えた」と結論付けた。「全例がⅢb期であったにもかかわらず、これまでⅢ期全般で報告されている放射線の治療成績と遜色なく長期生存が期待できる治療法であることが示唆された」としている。

原田さんは「Ⅲ期の放射線治療の成績は、生存期間で20カ月内外というのが最近の報告���した。その中で23カ月という数字が出たということは、IMRTと陽子線で照射不能理由をカバーしたと言えます。また、2人は4年以上存命であることから、これまで根治照射不能とされた局所進行非小細胞肺がんに根治の可能性が十分にあるということがわかります。うまく抗がん薬で抑えたのではなく、治ったということです。がんと共生するというのも大切なのですが、Ⅲ期では生還できることにより意義があります」と語る。(図5)

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ナベルビン=一般名ビノレルビン

図5

治すか、治さないか

「Ⅲ期は不均質な集団です。潜在的に遠隔転移を生じている人もいますし、局所にとどまっている人もいる。放射線治療をこの段階で行うかどうかは、治るチャンスにかけることになります。結果的に遠隔転移が出るかどうかは誰にもわかりません。ただ、Ⅳ期と思ってⅢ期の治療をしないで、その方の治るチャンスをつぶしてはいけないと思います」

一方で、肺がんに対するIMRTの使用はあまり広がりを見せていないという。

原田さんは「肺がんへの適応は放射線腫瘍医としてはためらう点もあるのです。副作用で最も問題になるものに放射線肺臓炎があります。注意して計画を立てても致命的になりうる有害事象です。IMRTは仕組み上、50Gyや60Gyという高い線量が当たる範囲は腫瘍の形に一致した計画ができますが、10~20Gyの低線量が当たるところは広くなってしまうのです。

もう1つ、IMRTは放射線の照射形状を複雑に変化させながら照射するのですが、肺は呼吸しているので腫瘍が動きます。ということは、コンピュータでシミュレーションした通りに当たっているか心配になるのです。これらの様々な懸念があって、今も肺がんに対する高精度放射線治療は積極的な流れではありません」と指摘する。

また、「経験不十分な施設ですると逆に危ないことがあります。IMRTの普及度はがん拠点病院を中心に進んでいますが、対象となるのは前立腺がんと頭頸部がんまでで、手広くやっているところは少ないのでは」と話す。

生還のチャンスがある

患者さんにはどのように説明しているのだろうか。

「Ⅲ期すべての患者さんに高精度放射線治療をやりましょうとは言いません。従来法は過去のデータの蓄積もあるので根治照射可能であればそれを行うのがいいでしょう。一方、高精度治療でないと根治照射が難しい患者さんへの説明では、『60Gyを当てたいのですが、今までの方法だと安全性の面からそこまで高められません。従来型の放射線治療でできる範囲の治療を行うか、高精度放射線治療を行うか、あるいは抗がん薬だけで治療していく方法もあります』というように、ほかの選択肢を否定しません」

その治療説明について「リスクはあるが治すチャンスはある治療であるということを説明して、納得できた患者さんに治療してきました」と原田さんは話す。

「米国の放射線治療の臨床試験には、心臓への照射量が多いと生存率が低下することを示唆するデータがあるので、肺、心臓、食道、脊髄などの正常臓器をいかに守るかに新技術を使って行くことが目標です。その上で、患者さんには、Ⅲb期で放射線治療や陽子線治療ができるということについて『生還のチャンスがちゃんとあります』と伝えたいと思っています」

日本放射線腫瘍学会では、昨年から全国の粒子線治療施設において、統一した治療方針で全例前向き登録して、効果と副作用を評価しようという動きが始まった。原田さんは「肺についてはⅠ期とⅢ期が対象です。数年先には1つの評価ができるのでは」と期待している。

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