転移性脳腫瘍に対するガンマナイフの有効性と安全性

監修●山本昌昭 勝田病院水戸ガンマハウス脳神経外科部長/日本ガンマナイフ学会理事長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年3月
更新:2019年7月


治療は3日、欧米では日帰りも

山本さんの水戸ガンマハウスでの治療の流れを追う。他施設からガンマナイフ治療が必要とされる患者さんが紹介されてきたとき、1回目は外来でガンマナイフ治療の適性を判断し、患者さんに効果と副作用を説明する。次に2泊3日の入院へと続く。諸検査、追加説明のあと治療は入院2日目となる。まず、精密さを追求するために位置を合わせる金属製のフレーム枠を頭にしっかり取りつける。枠には1mm単位の定規が付いており、最新型ではコンピュータと連動していて医師が照射ポイントを指示すると、コンピュータがベッドを前後左右、奥行きにわたって動かし、0.5mm以下の誤差で誘導してくれる。

「フレームの位置合わせが非常に大事です。局所麻酔の上で、目の上2カ所、後頭部に2カ所の計4カ所に鉛筆の芯をとがらせたようなピンを差し込んで四方から締め付けて固定します」

そしてMRI(磁気共鳴画像)、CT(コンピュータ断層撮影)で画像を撮り、これらの画像をコンピュータに送り込んで、どのポイントにどの位の強さの放射線を当てるかという治療計画を立てる。「ここに医師の技術と経験値が出ます」(山本さん)。腫瘍の大きさが1cmならフレームをつけてから外すまで1時間半程度で終わる。施術したその日も入院となる。

写真3 ガンマナイフ治療前後のMRI画像

肺腺がんからの多発性脳転移で入院した49歳男性。ガンマナイフ治療前は意識混濁がありストレッチャーで移動する状態だったが、2週間で車椅子での生活が可能となり、4週間後には職場復帰した。(MRIは治療後9カ月との比較)

5~10個でも同じ有効性を証明

短時間で有効を伺わせるガンマナイフ治療だが、山本さんには、ガンマナイフ治療の位置づけが日本のがん治療界において低いということにもどかしさを感じていた。そのため、「多発性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療前向き研究(JLGK0901)」を行ない、権威ある「Lancet Oncology(2014,Apr;15(4): 387-95)」で報告した。

「なぜこのような研究しなければならなかったかというと、転移性脳腫瘍へのガンマナイフを含む定位放射線治療について、原発巣の診療ガイドラインでは『1~3個まで』『4個まで』などとされていますが、根拠はないのです。現���では数が多くてもずっとガンマナイフによる治療をしてきたのでそのエビデンス(科学的根拠)を示しました」

2009年に登録を始めた試験では全国23施設から1,194症例の登録を得た。ガンマナイフ治療後の全生存期間(OS)中央値は,脳転移単発群(A群455例)13.9カ月 、2~4個群(B群31例)10.8カ月,5~10個群(C群208例)10.8カ月だった。B群とC群間の比較により、個数が多くても全生存期間で非劣性が示された。グレード1以上の副作用はB群とC群の間で頻度・程度ともに差がなかった。山本さんは「多施設前向き観察研究により、5~10個の脳転移に対するガンマナイフ治療は、2~4個の脳転移の治療に対して非劣性であることが示された」としている。

「ガイドラインへの挑戦でした。根拠のないガイドラインがまかり通っていては困るのです」。発表後、米国の権威あるガイドライン設定機関・NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)は即座に書き変えました。日本では乳癌学会も肺癌学会も、こちらが働きかけても一向に直してくれませんが――」

2次解析で安全性も実証

そして同試験の2次解析では、全脳照射でかなりの確率で生じる認知症がガンマナイフでは少ないことを証明した(2015年、米国臨床腫瘍学会 [ASCO] の年次総会で発表)。全生存中央値12カ月において、合併症は147例(12.1%)で確認されたが、B群とC群で有意な差は認められなかった。山本さんは「長期的に見ても安全性高いことを示した。全能照射後の認知症のリスクは文献的に見るしかないが、全脳照射3年後に正常なのは20%くらい。一方、ガンマナイフでは2~4年が経っても80%は正常を維持しています」と解説する。

切り札としての全脳照射

そして、16年12月には3次解析を発表した。山本さんは全脳照射を否定するつもりはなく、必要なタイミングを考え、ガンマナイフによる治療をした後のどのタイミングで全脳照射が行われてきたかを解析した。「その結果から、5年という時点で見て全脳照射が累積で11.0%に必要だったということです。全脳照射をしなければいけない状況が起きて、踏み切ったということですね。全脳照射は広く散らばっていて(髄膜播種など)ガンマナイフで太刀打ちできないときの切り札。全脳照射はガンマナイフに組み合わせるべきなので、無暗にやらないで欲しいというのが私の主張です」と山本さんは話している。

後輩医師の育成を

山本さんは今後も、ガンマナイフ治療の有効性と安全性を訴えていきたいという。「若い医師のトレーニングが必要なので、技能認定医制度を立ち上げようとしています。そして、脳神経外科の専門医カリキュラムにガンマナイフを組み入れてもらうように提案していきたい」と話している。

山本さんが所属していた日本ガンマナイフ研究会は今年(2017年)2月に日本ガンマナイフ学会に改組され、近く一般社団法人を取得する予定という。初代理事長に就任した山本さんは「今後は医療・学術的な面のみならず、ガンマナイフ治療に関わる社会的活動も視野に入れていきたい」との展望を描いている。

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