間質性肺炎に合併する非小細胞肺がんに重粒子線治療が有効 がんへのピンポイント攻撃で肺炎の増悪を最小限に抑える

監修●中嶋美緒 放射線医学総合研究所病院呼吸器腫瘍科医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2018年2月
更新:2018年3月


線量集中性と難治性がんへの有効性

重粒子線治療の特徴は大きく2つあり、1つは「線量集中性がよいこと」。もう1つは『難治性のがんに効く』ということだ。標準治療ができるがんでも、より安全に、より短期間で治療したいという患者さんもおり、治療選択の1つになっている。肺がんでは1日で終了する方法もある。

中嶋さんの病院では間質性肺炎を合併している患者に対する重粒子線治療は、基本的にⅠ期にだけ行っている。間質性肺炎がなければ通常Ⅲ期まで可能だ。

中嶋さんは「間質性肺炎がある場合、肺がんの手術は可能ですが、重症の人は難しい。そして放射線治療は禁忌。化学療法も悪化の原因になる。今までは治療しないほうがいいか、治療して急性増悪して死ぬかもしれないという状況でしたが、そこに登場したのが重粒子線治療でした」と話す。

線量集中性を図式化すると図3のようになる。標準治療の放射線治療(X線)では、体の奥に入って行くほど影響力が減弱するが、重粒子線治療では影響力の大きさを体内の標的であるがんの部位にピンポイントで設定できる。

図3 放射線治療の線量分布

(出典:量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所)

生物学的効果はX線の2~3倍

次に、炭素イオン線の力を見ると、炭素イオン線はX線の2~3倍高いことがわかっている。放射線治療はがん細胞のDNAを切断するのが目的だが、X線では2重らせん状のDNAの片方だけの切断になることが多い。それに対し、炭素イオン線は両方を切断することができるため、より高い確率でがん細胞を殺すことができる。重い粒子ほどDNAを損傷させる力となる電離密度が高いことが理由だ。

中嶋さんは「肺は放射線に対する感受性が高くて肺炎を起こしやすいという特徴があります。放射線照射による肺炎と間質性肺炎は別物ですが、起きていることは一緒。放射線肺臓炎と言いますが、間質性肺炎の人は炎症が起きている箇所に放射線肺炎が起こるので、普通の放射線(X線)が弱くても広範囲に当たってしまうことは、広い範囲の炎症を惹起します。その点、重粒子は線量を限られた場所に集中することができるので、肺に影響を与える範囲が非常に狭められます」と重粒子の有用性を話した。

条件が揃えば日帰りの治療も可能だと��う。

局所制御率は95%

中嶋さんらは、重粒子線治療の有用性を検証するために、「間質性肺炎合併非小細胞肺がん40例に対する重粒子線治療成績の後方視的研究」を行い、2017年10月の日本肺癌学会で発表した。2004年から2016年の間に重粒子線治療を受けた40人が対象だった。結果によると、過去のほかの治療法の研究では、急性増悪は手術だと9%、放射線は半分ほどあるなどリスクが高かったのに対し、重粒子線治療では急性増悪したのは5%(2人)だった。

中嶋さんは「ゼロではないが他の治療よりはリスクが低いと言えます。38人は年齢や病状などの条件で手術ができない患者さんでした。2年局所制御率(2年間放射線を照射した部位からがんが再発しない割合)は80.6%で、有効性については間質性肺炎のない肺がんでの95%に比べると低くなっています」と分析する。全生存率は2年が65.4%で、3年が46.8%だった。ちなみに同じ放射線治療である陽子線治療に関する過去の報告では、同2年で44%だった(図4)。

図4 局所制御率と全生存率

(出典:量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所)

広がる治療選択肢の1つに

中嶋さんは「ほとんどは安全に治療できるので、何も治療しないのに比べて良い選択肢だと思います。重粒子線治療自体がそこまで知られていないので、X線による放射線治療との違いがはっきりすれば、いずれ保険の対象になるでしょう。今はいろいろながん種でデータを集めている段階ですが、私としてもライフワークとしたい」と将来を見据えていた。

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