放射線の最強パワーを生み出す「増感放射線療法」の実力

監修●小川恭弘 高知大学臨床医学部門長 医学部放射線医学講座教授
取材●「がんサポート」編集部
構成●柄川昭彦
発行:2012年12月
更新:2019年7月

抗酸化酵素をブロックし腫瘍内に酸素を供給

■写真2 増感剤に使われる薬剤
■写真2 増感剤に使われる薬剤

ヒアルロン酸(右)に過酸化水素水(左)を混ぜて腫瘍に注入する。どちらも薬剤のコストは安価である

小川さんが開発した増感放射線療法は、「KORTUC」(高知式酵素標的増感放射線療法)と呼ばれる。使われる増感剤は、過酸化水素を含むヒアルロン酸だ(写真2)。

「放射線に対するがんの反応を調べる免疫組織化学検査で、がん組織を染色することがあり、そのとき、過酸化水素を使って抗酸化酵素の働きをブロックします。その時に酸素がでます。これが開発のヒントになりました」

小川さんは「KORTUC Ⅰ」として皮膚がんなど表面に露出した病巣に対し、放射線治療ごとに約3%の過酸化水素水であるオキシドールを浸したガーゼで覆い、少しもみこんで治療を行ってきた。

■写真3 KORTUCⅠの治療効果(再発・局所進行の悪性黒色腫) 
■写真3 KORTUCⅠの治療効果(再発・局所進行の悪性黒色腫)

再発・局所進行の悪性黒色腫。上が治療前。下が治療後3カ月経過後(写真左)
オキシドールを浸すことで抗酸化酵素ぺルオキシダーゼを不活性化させると同時に、オキシドールが分解され、白い泡(酸素)が発生する(写真右)

「表面にできたがんなら、それだけで、重粒子線治療と同じ位の、抗腫瘍効果が期待できます。現在、日常診療レベルで行えます」(写真3)

がんに過酸化水素を浸みこませると、抗酸化酵素の働きを抑えられ、酸素も発生する。その状態になれば、本来の放射線の実力を発揮できる。

次に、表面に露出していない乳がんや骨・軟部組織肉腫などの局所進行がんなどに対して過酸化水素水を注入する「KORTUC Ⅱ」が検討された。ただ、過酸化水素をそのままがんに注入したのでは痛みが強く、過酸化水素はすぐに分解・拡散してしまう。この問題を解決したのが、ヒアルロン酸だった。

「ヒアルロン酸を使うことで、痛みが軽減し、過酸化水素を注入した部位に48時間も滞留させられます��ヒアルロン酸は皮膚の構成成分ですから、体内に入れても安心です。膝の慢性関節炎での関節腔内注射や豊胸術、化粧水などにも使われています。さらに、過酸化水素も唾液の殺菌作用を担っている構成成分です。安価で、安全性も高く、副作用の心配もありません」

増感剤を週2回注射し放射線を照射

■写真4 KORTUCⅡの治療効果(腎がんの腋窩転移)
■写真4 KORTUCⅡの治療効果(腎がんの腋窩転移)

腎がんの腋窩への転移性腫瘍(右)、54Gy照射後6カ月経過時の写真(左)

増感剤の使用量は、がんの大きさに応じて決まる。3㎝までのがんなら、1回に1本(3ml)、3~5cmなら2本、5~10cmなら3本注入する。主に超音波診断装置を使用し、がん病巣に正確に細い注射針を刺し、増感剤を入れる。痛みを少なくするため、局所麻酔剤のキシロカインを少量使用する。

「週に2回、月曜と木曜の放射線治療の直前に注射します。ヒアルロン酸は体内に48時間留まるので、月曜日に入れた増感効果が水曜日に照射するときまで残り、木曜日に入れた分が翌日の金曜日にも残ります」

こうして、週2回の注射で、週5回の放射線治療に対応する(写真4)。

増感剤の局所注射は、放射線治療開始後2~3週目から開始する。約20グレイ照射した時点から始めるのだ。

たとえば、1回2グレイで週5回を6週続ける60グレイの治療では、11回目から始める。1回2.75グレイの手術なしでの乳房温存治療であれば、6回目からとなる。

手術しない乳房温存治療全例が現在も健在

■写真5 KORTUCⅡで乳房温存を行った症例
■写真5 KORTUCⅡで乳房温存を行った症例

KORTUCⅡを使った手術なしでの増感放射線治療1年後の胸部の写真。60代女性。右乳房の上内側に2B期の乳がんがあった

この増感放射線療法は多くの患者さんに対して行われ、優れた治療成績をあげている。

進行再発がん(乳がん・肉腫・骨転移・皮膚転移・皮膚がんなど)に対する治療では、1年生存率は9割近く、2年生存率は6割近くという成績だった。また、がんがほぼ消えた状態になった人が、約半数を占めていた。

さらに、1~2期の乳がん患者さんを対象に、手術しない乳房温存治療も行われている。

「手術の代わりに増感放射線療法を行い、抗がん剤治療やホルモン療法は標準治療が確立されているので、それに従って行っています」

現在までに43例の手術しない乳房温存治療が行われている。現在のところ(平均観察期間28.7カ月)、患者さん全員がご健在。遠隔転移は1例も起きていない。

乳がんの手術なしでの増感放射線療法は、真の意味での乳房温存療法といえるのかもしれない(写真5)。

肝がんや膵がんでも治療が進む

■図6 KORTUCの今後の適応拡大予定
■図6 KORTUCの今後の適応拡大予定

増感放射線療法は、皮膚がんや乳がんの胸壁再発などの表面が露出しているがんから始まり、1、2期乳がんはもちろん、皮膚がんなどの局所進行がんおよび転移リンパ節などが治療の対象となっていたが、その後、肝がんと膵がんなどにも範囲を広げ、臨床応用が始まっている。

肝がんに対しては、増感剤を体外からがんに局所注入し、化学・動脈塞栓療法(KOR TUC-TACE)を行う。局所進行肝臓がんを対象に、これまでに7例に行われた。

膵がんは、手術できない局所進行がん(4a期)を対象に、外科と連携して、開腹での増感・電子線療法(KOR TUC-IOR)が、すでに15例に行われて、好成績をあげている。

それ以外にも、局所進行腎がんに対する臨床応用も承認されており、今後、肺がん、子宮頸がん、子宮体がん、進行胃がんなども対象となる可能性がある(図6)。

この治療を行っている医療機関はまだ多くはないが、高知大学病院以外にも、東京放射線クリニック、大阪医科大学、札幌医科大学、順天堂大学、京都府立医科大学などで行われている。東京放射線クリニックでは、強度変調放射線治療をKORTUCで増感するという新しい方法も行われている。

「今後、この治療が世界中に広まっていくためには、きちんとした臨床試験を、それぞれのがん種で行う必要があります。まず、局所進行・再発乳がんや局所進行膵がん、導入化学療法が奏効した乳がんを対象にした試験を行うことになるでしょう」

画期的な治療であるだけに、ぜひ世界中で行われるようになってほしいものである。

1 2

同じカテゴリーの最新記事