肺がん手術の強力な武器「術前化学放射線療法」

監修●早川和重 北里大学医学部教授 北里大学病院副院長・放射線治療科科長
取材・文●文山満喜
発行:2012年12月
更新:2013年4月

放射線治療と相性がよいシスプラチンを使用

肺がんの術前化学放射線療法は、放射線治療との相性がよいシスプラチンという抗がん剤をベースとする2剤併用の化学療法に、放射線治療を同時に行うというのが標準的です。

抗がん剤の組み合わせは、シスプラチン+ナベルビンまたはシスプラチン+タキソテールが基本です。ただし、シスプラチンは副作用として腎毒性があるため、腎臓の機能が弱っている患者さんなどには使えません。そのため、シスプラチンを使うことができない患者さんに対してはパラプラチン+タキソールの組み合わせとなります。

放射線治療の内容は、1回あたり1.8~2グレイ、合計40~45グレイの線量を照射します。

治療期間は放射線治療を4~5週間、その間に抗がん剤治療を2コース行います。

「腎機能が弱っている患者さんなどには使えませんが、シスプラチンは抗腫瘍効果が高い上に放射線治療との相性がとてもよく、放射線の副作用の増強もあまりない薬剤です」(早川さん)

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ ナベルビン=一般名ビノレルビン タキソテール=一般名ドセタキセル
パラプラチン=一般名カルボプラチン タキソール=一般名パクリタキセル グレイ=放射線の吸収線量の単位

生存期間延長の可能性も

肺がんの術前化学放射線療法は現在、その治療対象となる患者数が少ないことから、治療成績関連のデータが乏しいなどの課題を抱えています。そうしたなか、術前化学放射線療法の効果については2つの臨床試験の結果が発表されており、いずれの試験でも良好な成績が得られています。

2009年の世界肺がん学会で発表された日本の臨床試験では、手術前に化学療法のみを行うのに対して、化学放射線療法を行うことにより生存期間延長の可能性が示唆されました。

臨床試験は、縦隔リンパ節に転移のある3A期の非小細胞肺がん患者さんを対象に、パラプラチン+タキソール2剤の化学療法と放射線治療を実施したグループ、化学療法のみのグループとを比較検討しました。

「60例という少ない症例数でしたけれども、術前化学放射線療法のほうが良かったという日本の患者さんのデータが得られています」(早川さん)

もう1つは、米国で実施された臨床試験の結果です。

進行した非小細胞肺がんの患者さんに対して行われた米国の臨床試験では、術前化学放射線療法+手術グループと、化学放射線療法のみのグループとを比較したもので、試験の結果、片肺全摘出の患者さんを除くと、術前化学放射線療法+手術グループのほうが生存期間は良いという成績が示されました。

手術を行わない場合も少なくない

北里大学病院では現在、放射線治療が合計40グレイとなった時点で術前化学放射線療法の治療効果を評価し、手術を行うかどうかを決めています。

北里大学病院では今年、術前化学放射線療法の適応と考えられた患者さんは2人でした。2人とも、治療前に行う院内の症例検討の結果、術前化学放射線療法後の評価で手術が可能と判断されて、手術に踏み切りました。

一方、術前化学放射線療法を始めたとしても、化学放射線療法のみで治ると考えられる患者さんや手術が難しそうな患者さんには手術をせずにそのまま化学放射線療法を継続する場合もあります。

「適応となる患者さんの治療法を検討すると、術前化学放射線療法+手術を行うケースはほとんどないかもしれません。元々手術が難しい患者さんが対象ですので、化学放射線療法の効果が良い場合、手術をせずにそのまま化学放射線療法を継続する例が当院では少なくないのです」(早川さん)

術前化学放射線療法の副作用としては、食道炎や骨髄抑制などがあげられます。とくに一番懸念されているのが術前化学放射線療法後にみられる、放射線による肺臓炎です。この副作用は重篤化すると死に至ることがありますが、頻度としては2%程度で、早めに対処することが大切です。

抗がん剤と放射線の2つの治療を組み合わせた化学放射線療法は、それぞれの単独治療に比べて副作用が少し強く出てしまう、というデメリットがあります。

しかし、長期的にみると単独治療よりも化学放射線療法のほうが、治療成績が良いという臨床試験の結果が出ていることから、化学放射線療法を受けるメリットは大きいと考えられています。

化学療法に分子標的薬を上乗せする効果も

肺がんの術前化学放射線療法を取巻く最新トピックスとしては、標準化学療法に分子標的薬を上乗せする効果に、関心が高まっています。

臨床試験の内容は、今年の10月に開催される米国放射線腫瘍学会で発表される予定です。その臨床試験は、国内の3期の非小細胞肺がん患者さんを対象に、手術の前に、現在実施されている標準的な化学療法シスプラチン+ナベルビンに、開発中の分子標的薬ニモツズマブ(一般名)を上乗せするという内容で、分子標的薬の上乗せにより生存期間を延長する可能性が示されました。とくに扁平上皮がんへの効果に期待が寄せられています。

もう1つは、放射線治療の線量に関しての話題です。通常の放射線治療の照射線量は最低60グレイが推奨されています。そのため、治療という観点からすると現状の40~45グレイではなく、60グレイ以上の線量で照射をしてから手術をしたほうが、がんが治る可能性が高まるのではないか、との考え方があるそうです。

現在、進行非小細胞肺がんに対する術前化学放射線療法はエビデンス(科学的根拠)の少なさなどから、診療ガイドラインで推奨されるまでには至っていませんが、いくつかの臨床試験の結果や治療現場では良好な成績が報告されています(図5、6)。

■図5 化学放射線療法+手術の効果
(治療法別による5年生存率の比較)
■図5 化学放射線療法+手術の効果(治療法別による5年生存率の比較)

化学放射線療法+手術は5年生存率が最も高かった
黒の点は論文数を表す
標準偏差=論文のばらつきの度合いを示す数値た
■図6 化学放射線療法+手術の効果
(治療法別による完全切除率の比較)
■図6 化学放射線療法+手術の効果(治療法別による完全切除率の比較)

化学放射線療法+手術のほうが、放射線治療+手術よりも完全切除率が高かった
黒の点は論文数を表す
標準偏差=論文のばらつきの度合いを示す数値
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