強い効果で難治がんにも有効。重粒子線治療の実力とは!?
驚くべき膵がんの治療成績
治療成績にも目を見張るものがあります。たとえば手術ができない局所進行の膵がんの場合、化学療法あるいは放射線治療の成績ははかばかしくありません。例えば、通常の放射線治療では2年生存率は10%前後だといわれています。しかし、抗がん剤のジェムザール*と併用して、重粒子線を3週間12回照射し、総線量45.6GyE当てた治療を行った臨床試験では、2年生存率64%と良好な成績が得られています。
同じ膵がんの例ですが、手術せずに重粒子線治療だけで5年生存している患者さんもいますし、手術ができる例では、手術と重粒子線治療の併用で、5年生存率5割との臨床試験結果もあります。
重粒子線治療は、がんの病巣にピンポイントで照射するため副作用が少ないのも特徴です。
「それでも、重粒子線治療による副作用は当然あります。普通の放射線治療と同様に、胃や腸にたくさん照射すれば胃潰瘍を起こしたり、腸に穴があいたりします。実際、研究を始めた早い時期にはそういう問題もありました。しかし、次第に、どのぐらいの線量だと危険かがわかってきたので、きちんと対策が立てられるようになってきています。 最近では、強い副作用が予測されるような場合には線量を減らしたり、腫瘍と消化管の間にゴアテックスのスペーサーを入れて隙間を作り、消化管を避けて照射するなどの工夫を凝らすことで、症状の重い副作用はほとんどあらわれなくなっています」と鎌田さんは語ります。
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
がんを捉える新しい技術

新しい取り組みも行われており、その1つが呼吸同調照射です。以前から、肺がんや肝がんなど胸部や上腹部にがんがある場合、病巣部位が呼吸によって動いてしまい、重粒子線を照射すると正常組織にも当たってしまう問題点がありました。
そこで開発されたのが、この呼吸同調照射です。肺などの呼吸で動く臓器は、息を吐ききって動かなくなったタイミングで照射することにより、よりがんの部分だけに的を絞った照射が可能になったのです。その他、3次元スキャニング照射の技術も開発されています��写真6)。
コンピュータ制御によって縦・横・深さの3次元で腫瘍をスキャンし、複雑な形をしたがん病巣を、まるで塗り絵を塗りつぶしていくように細い炭素線で満遍なくなぞって照射します。ただ、この方法は照射中の患者さんの動きに弱いという欠点があり、より精度を高めるため、呼吸による臓器の移動にも対応できる照射方法を研究開発しているところです。
また、現在は患者さんに向きを変えてもらってさまざまな角度から照射を行っていますが、患者さんは動かないまま360度、任意の照射が可能となる回転ガントリーの開発も進んでいます。これが実現すると患者さんにとって負担は軽くなり、治療時間も短縮されて、よりたくさんの人が治療できるようになると期待されています。
ネックは約300万円かかる治療費
高い治療効果が期待できる重粒子線治療ですが、費用の高さが問題としてあげられます。現在、重粒子線治療は保険適用となっていないため治療費は全額自己負担で、約300万円。先進医療の対象なので混合診療が認められ、診察や検査、投薬、入院などは保険診療となりますが、重粒子線治療そのものの費用は患者さんが自分で負担しなければなりません。
それでも、民間のがん保険や医療保険には「先進医療特約」が付いているものがあり、これを利用すればかなりの負担軽減になります。
健康保険の適用についての検討も行われていますが、実現にはまだ時間がかかりそうです。とくに手術のできない部位にできた骨・軟部肉腫は、重粒子線治療以外には、有効な治療法がないとされ、保険適用を求める声も高まっているのですが、承認される見通しは立っていません。
それでも全国の患者さんにとってうれしいのは、少しずつではあっても治療施設が増えつつあること。1カ所建設するのに100億円以上はかかるため、現在のところ治療施設は千葉県にある放医研と群馬大学の重粒子線医学研究センター、それに兵庫県立粒子線医療センターの3カ所のみ。しかし、来年春には佐賀県鳥栖市に「九州国際重粒子線がん治療センター」がオープン予定であり、神奈川県立がんセンターでも建設計画が進行中です。
さらにサウジアラビアなど海外向けの技術支援の動きも活発になっていて、鎌田さんは「日本だけでなく海外でも積極的に展開していけば技術の進歩につながるし、数が増えればコストも安くなってくるので、患者さんにとってのメリットは大きい」と話しています。
世界を牽引する日本の重粒子線治療ですが、今後は世界的に広まり、より身近になることに期待が集まります。
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