7センチ大の2期肺腫瘍が消滅。3年半が経ち、転移、再発もない 深いがん、大きいがんでも1点に狙い撃ちする陽子線治療
限局した腫瘍であれば、効果はとても高く、障害も少ない
実際の症例をご紹介しましょう。
症例(1) この方は2期の肺がんでしたが、幸いリンパ節転移がありませんでした。右肺の上部に7センチ大の腫瘍があって、背骨のほうまで食い込んでいました。患者さんは右利きで、印鑑をつくる職人です。手術を勧められたのですが、手術をすると右手が利かなくなる。印鑑はもうつくれないと言われて、ご自身で探して陽子線治療を受けにこちらに来られました。
そして80グレイを20回に分割して、4週間の治療を行いました。当時76歳、それから3年半たっていますが、現在も元気に印鑑をつくっておられます。2カ月に1回経過観察を行っていますが、再発も転移もありません。

症例(2) 治療時34歳、篩骨洞という眼球と眼球の間の空洞部分に腫瘍ができた男性の患者さんです。来院された時点で右目が飛び出ていて、外科的手術はできない状況でした。
通常の放射線治療を行うと、視神経に放射線が当たり失明する可能性がありました。また脳に放射線がたくさん当たって、脳障害が出る恐れもありました。そういう危険を避けるために陽子線治療が選択され、65グレイを26回に分けて、約6週間の治療を行いました。陽子線は視神経にも脳に当たらず、篩骨洞の腫瘍は治癒しました。その後、残念ながら転移が出てこの患者さんは亡くなられましたが、最後まで視力は保たれていました。

照射時間は1~3分程度、放射線障害はきわめて軽度

陽子線治療のよい点は、ある程度腫瘍が大きくても治療ができること、2方向、あるいは3方向の照射で十分なので、短時間で済むことです。患者さんが治療室に入ってから出てくるまでの時間は、15~25分程度です。実際に陽子線が照射されている時間は1分間ほどです。
肺がんの場合には、呼吸に合わせて照射部位を調節する呼吸同期照射を行うので、やや時間が長くなりますが、それでも3分くらいです。1日に1回照射するだけの治療ですので、通える患者さんにはできるだけ通院治療を勧めています。入院した患者さんは、退屈でしかたないとぼやいておられます。
通常の放射線治療に比べて、陽子線治療による放射線障害(副作用)は軽くてすみます。放射線が当たる範囲が限局しているからです。生じる障害は部位によって違いますが、たとえば先ほどの篩骨洞のような部位だと顔の皮膚に発赤が出てしまうのは避けられません。
1~2カ月でだんだん薄くなって最終的にはわからなくなりますが、けっこう強く出て真っ赤になる人もいます。晩期の放射線障害(治療後6カ月以降に出てくる症状)については、まだ私たちが陽子線治療を始めて7年なので十分なデータが出そろっていません。
しかし、どの程度の放射線が当たればどの程度の障害が出るかは、すでにわかっています。それらをきっちり押さえながら照射していますので、通常の放射線治療より晩期障害がかなり少ないことは確かだと思います。



デメリットは高額な治療費。自己負担が288万3千円
陽子線治療は、現在全国5カ所=国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)、筑波大学付属病院(茨城県つくば市)、静岡県立静岡がんセンター(静岡県駿東郡)、若狭湾エネルギー研究センター(福井県敦賀市)、兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県揖保郡)=で行っています。
治療費はどこの施設もほぼ横並びで、国立がん研究センター東病院の場合は288万3000円です。高度先進医療に指定されていて、この金額は患者さんの自己負担となります。CT、MRI、入院費など、通常の検査に関しての医療費は保険がききます。
高額で患者さんには申し訳ないのですが、陽子線治療に使う巨大な機械、施設は数10億円もする高価なものなのです。保険医療として誰もが受けられるように早くなってほしいと私は願っています。また、施設の数と地域も限定されていて、このあたりも改善できたらと思います。
この陽子線治療については、患者さんのほうがよく知っていて、一般の医師があまり知らないという困った現状があります。
「陽子線を受けたいんですが」と患者さんに相談されて、「陽子線ってなんですか」と聞くような医師も多いのです。私どものPR不足もあるかも知れません。このあたりは反省点として、陽子線治療についてくわしいことをお知りになりたい患者さんは、病院の放射線科医に聞いてください。放射線科医であれば陽子線治療についてくわしく教えてくれますし、さらによいセカンドオピニオンを与えてくれるでしょう。
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