2年後には食道がん、肺がんの保険適用を目指して 粒子線治療5つのがんが保険で治療可能!

監修●石川 仁 量子科学技術研究開発機構QST病院副病院長
取材・文●半沢裕子
発行:2022年10月
更新:2022年10月


保険適用されると、治療費は?

粒子線治療が「先進医療」というカテゴリーに加えられたのは陽子線治療で2001年、重粒子線治療は2003年のことでした。当時は、高度先進医療と呼ばれていました。以来、放射線治療医はデータを積み上げ、保険収載されるべく努力してきました。そして、最初に保険適用されたのは2016年、骨軟部腫瘍(骨肉腫など)と小児がんでした。2018年には一部の頭頸部がんと転移のない前立腺がんが適応になり、今回は、肝細胞がん、大腸がん、膵がんなどのメジャーながんにも適応が拡大されました。

治療費は疾患によって違います。例えば、前立腺がんは先進医療のときの自己負担は314万円でしたが、保険適用された2018年4月からは160万円くらいです。X線治療でも同じくらいかかります。患者さんはその1~3割の負担、16万円~48万円くらいで治療が受けられるようになりました。高額療養費制度を使えば、自己負担額10万円程度で治療を受けることができます(表6)。

今後期待できるがんはどのようなものがありますか?

今回は16ほど保険収載を目指してデータを提出していたので、我々としては5つしか通らなかったという思いですが、2年後を目指して日本放射線腫瘍学会としての取り組みを再開させたところです。

とくに、良い成績が出ていたのに保険適用の承認に至らなかった食道がんや肺がんに関しては、早く患者さんが保険で治療を受けられるようにしたいです。

食道がんは早期の小さながんであれば、放射線で治癒する可能性が手術とそれほど大きくは変わりません。手術は食道を全切除し、胃を食道の代用にするため患者さんにとって大変負担が大きいのです。その点、放射線は臓器を残せるため侵襲性が少ないのですが、通常の放射線では心臓や肺などへの重篤な副作用が起こる可能性があります。このような副作用を粒子線で減らすことで、治癒した後のQOL維持に役立てたいのです。

また、腎がんも放射線が効きにくいですから、腎機能が悪い人や腫瘍が大きい人にとっては、通常の放射線治療に比べて粒子線治療のメリットが高いと考えます。しかし、腎臓は2つあるので手術で切除することが標準治療であり、腎がんの放射線治療そのものが少ないため、そのエビデンスを構築するのが困難です。実際、2016年~2018年の2年間で、全国で30人くらいしか粒子線治療を行なっていません。理論的には、腎がんへの粒子線治療は臓器温存が��きて、腸管への影響も避けられるとても良い治療なのですが、臨床例が少ないため有効性を示すことがなかなか難しい。ただ、今年に入って患者さんが増えているので、期待しています。

日本は、この分野で世界をリードして研究開発を行ってきました。その結果を受けて、今世紀に入ってから米国、欧州、アジア地域などでは粒子線治療施設がどんどん増えて、普通に受けられる治療になりつつあります。国の予算を投入して粒子線治療の礎をつくってきた訳ですが、もしある疾患、例えば肺がんの粒子線治療が保険収載にならずに先進医療から外されてしまうと、国内では肺がんの患者さんは粒子線治療を今後は受けることができなくなります。臨床的に良いとわかっていても評価されないのはとても残念です。

粒子線治療が先進医療として開始された後の施設が少なかったこともあり、体制が不十分であったことが現在に影響しています。そのため2015年以降は、学会が中心となりエビデンスを構築するための体制整備、研究活動に必死に取り組んできましたが、生存期間に差がなくても「副作用が少ない」というメリットも評価してほしいと思っています。副作用が少ないと患者さんのQOLは非常に高いので、同じ期間を健康的に生きられたかどうかは患者さんにとっても意味があります。

また、1人当たりに費やす医療費は少なくなるなるので、国にも良い方向だとは思うのですが、次回はこういったことも明示できるように努力して、少しでも多くのがんに粒子線治療が保険で行えるようになればと、思っています。

粒子線治療施を受診する前に気をつけることはありますか?

基本的には、これまでの経緯や検査データなどの細かい情報を得るため、主治医から紹介していただくようお願いします。これはとても重要で、治療が終了した後も、その病気のエキスパートである現在の主治医と連携を取って診察する必要があるからです。

次に、あなたのがんが粒子線治療の適用になっているかどうかが重要です。粒子線治療の担当医が粒子線治療の適応が高いと判断した場合には、キャンサーボードと呼ばれる各疾患の専門家で行う検討会で患者さんそれぞれに適した治療を議論し、同時に粒子線治療の妥当性が検討されます。

適応と判断されたら、保険適用か先進医療かで費用が大きく異なりますので、先進医療の場合には、生命保険で先進医療特約に加入しているかどうか、受診前に調べていただきたいと思います。時折、先進医療で高額な支払いが必要となることを知らずに受診される患者さんがいますが、患者さんにとっては治療のタイミングが遅くなるため、インターネットなどで調べるのが良いと思います。当院では、電話相談も行っているので、ぜひご連絡ください。

また、粒子線治療は通常、治療開始から終了となるまでに数週間かかります。放射線施設では医療スタッフは安全対策をとりながら、すべての患者さんの治療が最後までできるような工夫や取り組みを行なっていますが、治療期間中に新型コロナウイルスに感染してしまう患者さんもいます。原則、治療を続けられるように対応していますが、症状が強い場合には中断したり、重症化した場合には終了となることもあります。治療期間中は、ご自分の治療が完遂できるように、患者さんご自身での感染対策も心がけてください。

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