肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
肺がんへのメリットは?
肺腫瘍には、原発性肺がんと、他の臓器のがんが転移した転移性肺がんがあります。原発性肺がんの治療は基本的にはリンパ節郭清が必要なので、手術が行えるのであれば、手術を受けリンパ節郭清をするのが第1選択となります。ただし、高齢や他の病気のために手術できない場合には、ラジオ波焼灼術を考慮することもあります。
「ここに示すのは原発性肺がんの治療例です。患者さんは80代の女性でした。ラジオ波焼灼術は抗腫瘍効果が高いため、がん細胞が完全に死滅し、5年後でも再発は起きていませんでした」(画像4、5)


転移性肺腫瘍の場合には局所的な治療でよいので、手術でも放射線治療でもラジオ波焼灼術でも選択することができます。ラジオ波焼灼術の利点は、呼吸機能を低下させずに、何回でも治療を繰り返せる点です。
「肺腫瘍のラジオ波焼灼術では、腫瘍の大きさが重要で、できれば2cm以下、大きくても3cmくらいまでが適応とされています。小さいうちに焼き切るということです。転移性肺がんは何度も出てくることがありますが、それを全部焼き切る治療を、根治的ラジオ波焼灼療法と呼んでいます」
転移性肺がん(肉腫肺転移)に対して、すべての腫瘍を焼く根治的ラジオ波焼灼術を行った場合と、不完全に焼く対症療法的ラジオ波焼灼術を行った場合の治療成績を比較したデータがあります。その差は明確で、すべての腫瘍を焼き切ることで予後がよくなることがわかります。
最近は薬物療法が進歩しているので、薬物療法と組み合わせることで、すべての腫瘍を消滅させる治療も行われるようになっているようです。
骨腫瘍の痛みが治療した翌日に軽くなる
骨腫瘍のラジオ波焼灼術は、骨生検で使用する針で骨に穴を開け、そこに電極針を挿入して行います。骨腫瘍は痛みを伴うことが多いのですが、ラジオ波焼灼術はがん細胞を死滅させるだけでなく、痛みを取ることに関しても有効な治療法です。
「骨腫瘍には、原発性の骨腫瘍と転移性の骨腫瘍がありますが、ここに示すのは、原発性の胸椎骨髄腫です。骨生検針で胸椎に穴を開け、ラジオ波焼灼術を行ってがん細胞を死滅させます。胸椎は体重がかかる骨なので、つぶれないようにセメントを注入しています。治療前は痛みで上を向いて寝ることができない状態でしたが、治療した翌日から痛みが軽くなり、使用していた医療用麻薬も止めることができました」(画像6)

痛みに関する効果は治療翌日から現れます。放射線治療も骨腫瘍の除痛治療に有効ですが、痛みが取れるまでにある程度の期間が必要です。その点、ラジオ波焼灼術は、1回の治療ですぐに痛みが取れるのが特徴です(図7)。

ラジオ波焼灼術を受けられる医療機関を知るには?
類骨骨腫は骨にできる良性の腫瘍で、主に若い人に発生します。最も多いのは10代です。ナイダスと呼ばれる小さな腫瘍が骨にでき、その周囲の骨皮質が厚くなってきます。これが痛みを引き起こします。就寝中に痛みが強くなるため、多くの患者さんは痛みで目が覚めると訴えます。
「類骨骨腫の治療は、主に手術が行われていたのですが、骨折が起きやすくなったり、成長障害が起きたりするという問題がありました。ラジオ波焼灼術は、骨生検針でナイダスに穴を開け、そこに電極針を挿入して行います。手術に比べてはるかに侵襲が少なく、骨折や成長障害といった問題も起きません。治療した翌日には痛みが軽減し、痛みで目が覚めなかったのは何年ぶりだろう、と喜んでいた患者さんもいました。ナイダスを焼いてしまうと、厚くなっていた骨皮質は徐々に薄くなっていきます。ラジオ波焼灼術が保険適応となったことで、類骨骨腫に対する治療法が大きく変わり、手術は行われなくなるのではないかと思います」
ここに紹介したように、ラジオ波焼灼術の保険適用の範囲は大きく広がりました。受けられる医療機関については、日本IVR学会(JSIR)のホームページで調べることができます。
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