低侵襲で繰り返し治療ができ、予後を延長 切除不能膵がんに対するHIFU(強力集束超音波)療法
HIFU療法の治療効果はどうなのですか?
東京医科大学で切除不能膵がんに対するHIFU療法の臨床試験が始まったのは2008年12月で、2019年3月までの間に、176人の新規患者さんに対して治療が行われました。1人の患者さんが複数回の治療を受けたことで、治療患者数は339人となっています。
「私がHIFU療法に注目したのは2006年です。当時中国では疼痛緩和にHIFU療法を行っていたので、2006~2007年に、中国でこの治療法を学んできました。その後、切除不能膵がんの治療(いわゆる抗腫瘍効果)に応用できるのではないかと、臨床試験を開始したわけです」
この臨床試験での合併症の発生は2.8%でした。重い合併症はなく、皮膚のやけどが1例、急性膵炎が1例、膵仮性嚢胞が2例ありました。いずれも軽いものでした。
ただ、この治療ではその他にも膵液漏、腸管穿孔・閉塞、胆管穿孔、閉塞性黄疸、腹腔動脈・上腸管膜動脈閉塞、消化管出血といった偶発症の発生が考えられるため、十分に注意して治療を進める必要があります。
治療効果としては、局所制御率は71%でした。治療によって、小さくなったか、あるいは大きさが変わらなかったがんの割合です(図5)。

「小さくなったのが2割程度、変わらなかったのが5割程度でした。やけどを起こさせるような治療なので、腫瘍が線維化してかたまりとして残っていることが多く、そのため大きさが変わらないケースが多かったと考えられます」
痛みなどの症状緩和効果は64%に見られました。また、がんが縮小したことで、HIFU療法後に手術に持ち込むことができた症例が8例ありました。
臨床試験に参加してHIFU療法と化学療法の併用療法を受けた176人と、化学療法のみの治療を受けた100人を比較したデータもあります。
患者さんの背景に偏りがあることは考慮する必要はありますが、この生存曲線からも明らかなように、化学療法にHIFU療法を加えることで、生存期間を延ばす上乗せ効果が期待できることが明らかになったのです(図6)。

また、転移のない局所進行がん(ステージⅢ)と、転移のあるがん(ステージⅣ)に対するHIFU療法の治療成績を比較してみると、転移のない症例の予後が長くなることがわかりました(図7)。

切除不能膵がんに対するHIFU療法の利点としては、➀痛みなどの症状を緩和する効果、➁生存期間の延長や抗腫瘍効果、➂手術などの再治療・追加治療への可能性を高める効果、➃がんの特異免疫を強化する効果、を挙げることができます。
新たな臨床試験が進行中
現在、ソニア・セラピューティクス社によるHIFU療法の新たな臨床試験が始まっています。日本でソニア・セラピューティクス社が新しく開発したHIFU治療装置を用い、切除不能膵がんの患者さんを対象としたランダム化比較試験です。
1次化学療法に不応不耐の切除不能膵がんの患者さん90人を対象に、2次化学療法群(30人)と、2次化学療法+HIFU療法群(60人)の2群にランダムに分け、治療成績を比較する試験です。現在、患者さんの登録が行われている段階ですが、どのような結果が得られるか注目を集めています。
「私は2008年から切除不能膵がんに対するHIFU療法を続けてきましたが、それはこの治療に未来があると考えているからです。実際、長期にわたって予後を延長した患者さんが何人もいます。この治療の有用性を示すためにも、現在進行中の治験は極めて重要です。結果によっては、手術、放射線療法、化学療法に続く、膵がんの4番目の治療法となる可能性もあると思っています」
臨床試験の結果が出るまでには、まだ時間を要することになりますが、有用性を示す結果が出て、切除不能膵がんの治療選択肢が増えることが期待されています。
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