化学・重粒子線治療でコンバージョン手術の可能性高まる 大きく変わった膵がん治療
化学療法後に放射線療法も必要なのですか?
何らかの理由により放射線治療ができない場合を除き、コンバージョン手術前に放射線療法を行います。
「コンバージョン手術前に放射線治療が加わったのは、技術的な問題に対応するためでもありました。手術が困難になる主な原因として、前述したようにがんが血管に絡みつくことが挙げられます。膵臓には太い血管が多くあり、その近くにできたがんは容易に血管に絡みつくので、がんをきれいに切除しようとすると血管を傷つける恐れがあります。逆に、血管をきちんと温存しようとすると、がんを取り切ることができません」
これを補うものとして、放射線が重要になってきます。放射線を膵臓とその周辺に照射すると、血管のまわりのがんをかなり制御できることがわかってきました。
「血管を傷つけないようもともとがんがあった組織を残して切除しても、血管周辺のがんは放射線で死滅している可能性が高いことがわかってきました。血管に絡んで取れないがんに放射線を照射して、手術で切除するという戦略です。当院は、重粒子線が使えるという利点があったので、今は重粒子線で治療を行なっています」
重粒子線治療は普通の放射線治療より効果は高いのでしょうか?
山形大学医学部東日本重粒子線センターは2021年2月より治療を開始しています。
「今は通常の放射線治療から全て重粒子線治療に置き換えて行なっています。まだ重粒子線を使ったコンバージョン手術は8例ですが、今までの放射線とは明らかに違い、重粒子線は腫瘍とその周辺にしか照射されていない印象です」
現在、8例すべてで経過観察中とのことです。
「今は、治療を受けた患者さんを観察しているところですが、まだ1年ですから結論づけることはできません。しかし、もともと切除不能進行がん患者さんで、もし治療効果がなければ、早晩再発したり、亡くなる方が出てくるはずですが、今のところそういう方はおられません」
コンバージョン手術を始めた当初、危惧していたことがあったそうです。
「それまでいろいろな治療を受けた患者さんが、最後にコンバージョン手術を受けられています。患者さんもそうですが、私たち医療者もさまざまな計画を立て治療しているので、早々に再発しないかが心配でした」
膵がんは生存率が改善しないがんで知られていますが、「おそらく、この2、3年で、5年生存率などが出て、生存率は上がってく��のではないか」とのことです。
「その意味では、重粒子線を含むコンバージョン手術を適切に行えば、切除不能局所進行の膵がんであっても、長期生存やあるいは治癒も可能になってくるのではないかと期待しています」(画像3)(図4)


切除不能局所進行膵がんでコンバージョン手術を行える割合は?
山形大学附属病院では、さまざまな段階の切除不能の患者さんが紹介されて来るため、それらを割合として示すのは難しいようです。
「それでも、私が当院でコンバージョン手術を行ったのは17~18例、うち重粒子線を使ったのは8例です。重粒子線治療前からの患者さんも含めると、化学放射線療法を終了した方が50名ですから、約3割がコンバージョン手術を行えています」
2023年の第61回日本癌治療学会学術集会では、その50名の解析について報告がありました。
「抗がん薬だけでも1年後の生存率は50%を超えますが、放射線治療(重粒子線含む)を加えると、1年後の生存率は93%、2年後でも60%を超えています。さらにコンバージョン手術まで行えた17名の現状を見ると、2年生存率が93%、3年で62%となっています。これはよい結果だと思います」(図5)

山形大でコンバージョン手術が進んでいる理由は?
「他の重粒子線施設と違い、当院内に重粒子線施設がありますから、外科、内科、放射線科が密に連携して、治療を集学的に行えます。とくに外科が連結していることにより、切除可能かどうかの判断を統一的にできるという利点があります」
また、重粒子線療法後、患者さんの状態をリアルタイムで把握できる利点もあります。
「外科の立場から画像を確認し、手術を行えるかの判断を行なって放射線科医にアドバイスしています。また、去年コンバージョン手術を行った8名は、おおむね重粒子線治療後1~3カ月以内に手術が行えています」
重粒子線治療を受けると照射部は日時が経つと硬い瘢痕(はんこん)になり、そのため手術に難渋した報告は結構あるという。
「しかし、同じ病院内にあるという長所を生かし、あまり時間を置かずに手術ができます。また、重粒子線という特殊性を活かして、いかに治療の成績を上げるかが責務だと考えています。そのため、少しチャレンジングな姿勢で治療に臨んでいるところはあります」
コンバージョン手術ができる年齢や注意点は?
病院内では議論があるそうですけど、基本的には患者さんの体力あって、他の大きな病気がなければ、80歳を超えていても考慮しますというスタンスとのこと。
「80歳を超えて、実際に重粒子線治療後にコンバージョン手術を行なった方はまだいませんが、やはり体力的には厳しい面もありますね」
また、施設はどのように選べばいいのでしょうか。
「まず、すべての施設でコンバージョン手術ができるわけではありません。さらに、がんが通常より進行した状態で、それまでの治療の影響が加わったところをいかに安全に切除するかというコンバージョン手術に関しては、施設により手術を適用するかどうかの判断に幅があります。血管にがんが絡んで手術ができないと言われたケースでも、治療後腫瘍が縮小し血管から離れているようなら、少なくとも膵がんの専門科を持つ施設ならコンバージョン手術を行うと思います」
がん医療の均てん化が叫ばれていますが、生存率が80%、90%というがんであれば、全国どこでも同じ治療が求められますし、利便性の良い施設で受けられるような体制が整備されるのが望ましいです。
「しかし、膵がんは生存率が10%届くかどうか。つまり、標準治療を行なって助かる人が10人に1人です。その状況では、少しでも治療成績を上げる努力を標準治療に上乗せして行わないと、数字はよくならないです。その恩恵をいち早く受けるためには、病院は選ぶ必要があると思います」
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