放射線治療開始前から副作用を推測して、患者に伝える

監修●後藤志保 がん研有明病院看護部副看護師長・がん看護専門看護師
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年8月
更新:2015年10月


治療の進み具合に応じて 適切な処置ができるように

放射線治療の副作用は、照射された放射線の量に応じて現れてくる。最初は無症状でも、治療を継続し、照射した線量が多くなれば、それに応じて症状が現れてくる。

「放射線は皮膚を通って体の中に入るので、治療を受けると、多かれ少なかれ皮膚の症状が現れてきます。最初はわずかな紅斑が出る程度ですが、ひどくなると浮腫が現れたり、皮膚がむけてしまったりすることもあります(図3)。患者さんは皮膚のケアを自分で行うのですが、必要に応じて、皮膚の洗い方や保湿の方法をアドバイスしたり、衣類についてアドバイスしたりすることもあります」

図3 皮膚炎の毒性判定:CTCAE(有害事象共通用語規準)v4.0 日本語訳

皮膚の症状は放射線治療を受けるすべての人に現れるが、照射する部位によって、その部位ならではの副作用が現れることもある。例えば、頭頸部の放射線治療を受ける場合には、口腔粘膜炎が起きてくる。軽いうちは食事に影響しないが、症状が進んでくると、食事はもちろん、水を飲むことさえ難しくなることがある(図4)。

図4 口腔粘膜炎の毒性判定:CTCAE(有害事象共通用語規準)v3.0 日本語訳

「治療を続ける患者さんにとって、食事はとても重要です。頭頸部の治療では、口腔粘膜炎以外に、飲み込みが悪くなる(嚥下障害)という影響が現れることがあります。また、食道への照射や直腸への照射で、食事に影響が出ることもあります」

このような問題が起きそうな場合には、放射線治療を開始する前から、栄養管理チーム(NST)や摂食嚥下チームと連携し、患者さんをサポートしている。

「例えば頭頸部の照射を受ける患者さんは、治療開始前に摂食嚥下チームの診察を受け、治療中も定期的に診てもらうようにしています。栄養管理チームも摂食嚥下チームも、基本的には入院患者さんを対象に活動していますが、放射線治療に関しては、通院の患者さんを含めて対応してもらっています」

こうした連携も患者さんのQOL維持に役立っている。

放射線治療の副作用は、治療が終了した後もしばらく続くことになる。皮膚や粘膜は傷つきやすいし、他にも注��しなければならないことがある。そこで、がん研有明病院では、治療を終了した患者さんにも、注意事項をまとめたパンフレットを渡している。

「治療中は毎日通院していますが、治療が終了するとそれがなくなるため、不安を感じる患者さんもいます。治療後にどんなことに注意すればいいのか、情報を提供することが、患者さんのセルフケア支援になっていると考えています」

自分で食べ物を工夫し 35回の治療を乗り切った超高齢者

喉頭がんで放射線治療を受けた98歳の男性がいた。7週間(計35回)の長期に及ぶ治療だったが、この患者さんは毎日通院し、治療を完遂したという。

「もともとご自分の健康に対して、意欲的に取り組むタイプの方でした。のどに放射線を照射するので、飲み込みづらくなったり、つかえたりするようになります。そこで、治療を開始する前から、摂食嚥下チームと連携し、飲み込みに必要な筋力を強化する嚥下体操を指導してもらいました。それを続けたことに加え、ご自分でもどうすれば食べられるかなど、食べ物を工夫していました。そうした努力により、食事ができなくなることもなく、最後まで治療を続けることができたのです」

高齢ではあっても、患者さんの力をうまく引き出すことができると、放射線治療はうまくいきやすい。この患者さんは、100歳を超えた現在でも嚥下体操を続け、元気に食事をしているという。

「高齢者が入院すると、生活の幅が狭まったりすることで、急に活動性が低下してしまうことがよくあります。高齢であるほど、できるだけ入院せずに治療を続けられることが望ましいと考えられます」

高齢者が持っている「患者の力」を最大限に生かすためのセルフケア支援も、これからの時代は重要になってくるだろう。

認定看護師が増えることで 看護が充実することに期待

がん研有明病院の放射線治療部には、6人の看護師が配属されて看護に当たっている。これだけの看護師が配属されている病院は数少ないに違いない。

「現在、日本看護協会が、がん放射線療法看護認定看護師の認定を行っています。きちんと教育を受け、専門的な知識と技術を持つ看護師が積極的に活動していくことで、放射線治療の看護はだんだんよくなっていくと期待されています」

高齢化が進む今後のがん医療では、通院で治療できる放射線治療に大きな期待がかけられている。それを無理なく実現させるためにも、看護師によるセルフケア支援が重要になってくるだろう。

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