こうすれば予防できる! 放射線皮膚炎

監修●祖父江由紀子 東邦大学医療センター大森病院がん看護専門看護師
取材・文●伊波達也
発行:2012年12月
更新:2013年6月

照射前に軟膏を塗ったり冷やしてはダメ

具体的な皮膚への対策としては、どのようなことをしたらいいのでしょうか。まず、してはいけないこととして祖父江さんが挙げるのが、放射線を照射する前にローションや軟膏などを照射部位に塗ることです。

「ローションや軟膏のなかには鉱物や金属が含まれていることがあり、放射線が反応して、散乱線という余計な放射線を発生させるため、皮膚にあたる放射線の線量が高くなり、皮膚炎を起こしやすくなるからです。また、塗ること自体が摩擦としての刺激となってしまいます。さらに、照射をする際に皮膚の上に軟膏が存在するとあらかじめ計画された患部への処方線量が異なってしまう可能性が出てくるのです」

軟膏をどうしても使いたい場合は、治療のための皮膚マーキングが軟膏によって消えてしまうことがないように、使用する前に放射線治療部門の医師または看護師に必ず相談しましょう。軟膏類をたくさん使用するときは、皮膚に摩擦を起こさないために布などに軟膏を塗って、それを患部にあてるようにします。その際、粘着テープで布を皮膚に固定すると、はがすときに表皮も剥がれてしまうので、テープの代わりにネット包帯などを用います。軟膏類の具体的な使用量や方法、処置をするタイミングについては、放射線治療医や看護師が、その患者さんに合った対応を考えてくれるはずです。

照射部位を冷やすのは必ずしもよくないといいます。

「皮膚を冷やすと、血管が収縮しますので、血流が少なくなり、組織の酸素量が少なくなります。治療で通常使われるX線の細胞への感受性は、酸素が多いほど高くなるので、照射の直前は冷やさないことが大切です。冷やすことで血管が収縮して酸素供給が少なくなるからです。さらに、照射直後に冷やすことについても、がん細胞が回復しやすくなるのでやめたほうがいいという説があります。ただし、専門家の間でも意見の分かれるところです。熱感やチリチリ感やかゆみが不快な場合には、冷やすと気持ち良かったり、症状がやわらぐことがあります。冷たいおしぼりタオル、布で包んだ保冷剤をあてるのも1つの方法です」

締め付けない服を着てこずらず泡で洗う

日常生活で皮膚炎に対処するには、とにかく摩擦を避けることです。服は、照射部位を締め付けないものを着るようにします。例えば、首への照射の場合、摩擦を避けるには、のりの利いたワイシャツは着ずに、襟を���めてスカーフを巻くなどです。

乳房の場合は、ブラジャーを、スポーツブラのような締め付けがないものや、ワイヤーの入っていないゴムの幅が広いタイプのものにします。婦人科がんなどで下半身に照射する場合は、フレアーパンツやトランクスタイプのような緩やかな下着の着用がお勧めです(写真5)。

■写真5 皮膚への物理的刺激を抑える物品
■写真5 皮膚への物理的刺激を抑える物品

1①締め付けのなるべく少ないブラジャーを利用して、アンダーバストのこすれを防ぐ。授乳ブラジャーやカップがついたタンクトップなどもおすすめ
②脚の付け根がゴムですれないよう、3分丈などのショーツを選ぶといい。できれば内布にも縫い目がないものがいいが、なければ裏表逆にして縫い目が皮膚に触れないように工夫して着用してもよい
③ネット包帯。大きさもさまざまなものがある。着用する部位にあわせて切り込みを入れてもよい
④トイレのときは、湿らせて拭くと皮膚への摩擦刺激も少なくてすむ。スプレー式のものやウエットタイプのペーパーもよい

「入浴などで皮膚を洗うときは、泡でやさしく洗い、汚れだけを除きます。水分は、柔らかい清潔なタオルで、押さえて拭き取ります。石けんは、普段使っていて問題がなかったものなら、そのまま使えます。無香料無添加や弱酸性タイプのものにこだわる必要は必ずしもありません。『何を使うか』よりも『こすらないこと』が重要です」

■図6 スキンケアの基本

1. 無香料の石鹸を使用
2. こすらないようにやさしく洗浄
3. やわらかい清潔なタオルを使用
4. やわらかくて、締め付けない衣類を着用
5. 照射野へのテープ類の使用を避ける
6. 長時間、照射野への日光曝露を避ける
7. 香水やデオドラントなど、皮膚をひきしめる効果のある製品の使用を避ける

洗顔後のスキンケアは、乳液を手あるいはコットンにたっぷりとって、パッティングで使用

します。化粧水には、アルコールが入っているものもあり、その場合は皮膚の乾燥が強くなるので注意が必要です(図6)。

「肛門や陰部が照射範囲に含まれる場合、トイレで用を足した後は、お尻に当てたペーパーは動かさないようにし、手のほうをペーパーのうえで動かすようにするといいでしょう。ウェットティッシュや洗浄剤を使うのもいいです。ただし、ウォシュレットの水の勢いはかなり強いので、水圧を弱くしたり、水圧を分散できるビデのほうがいいかもしれません。洗面器にぬるま湯を張ってお尻を浸す洗い方(座浴)も刺激が少なく清潔になります」

外出時には日傘などを使うようにし、照射範囲の皮膚への長時間の日光曝露を避けます。皮膚をひきしめる効果がある香水やデオドラント剤なども避けます。汗をかいたときには押さえながら拭き、腋の下の制汗スプレーも刺激になるので止めましょう。

わからないことはなんでも聞いてほしい

「睡眠時は、寝返りをうったり、無意識に照射部分をかいてしまうかもしれませんが、あまり神経質にならずに爪を短くするなど、できる範囲の予防策をとりましょう」

自己管理は大切ですが、自分の生活習慣を規制しすぎてしまうとストレスがたまるので、ほどほどに。セルフケアをしても、放射線皮膚炎の症状が強くつらい場合は、浸出液や出血への対処、痛み止めや軟膏類の処方についての希望など、その都度、医師や看護師に相談して適切な処置を受けることが大切です。

放射線治療がすべて終わったら、基底細胞が整い、表皮ができあがるまでの4週間ぐらいは基本的なケアを続けましょう。

「患者さんが最小の副作用で、予定通りに治療を完遂できるために、私たち看護師はお手伝いをします。副作用の予防方法についてお伝えしますので、患者さんからも、ぜひ知りたいことはどんどん聞いていただきたいです。放射線治療にかかわる医師・技師・看護師は患者さんの応援団ですから」

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