放射線の副作用対策 放射線の副作用の特徴をよく知り、自己管理をしっかりと 放射線治療の副作用は日常生活の過ごし方次第で軽減可能

監修:末國千絵 国立がん研究センター中央病院看護部放射線治療科外来看護師
取材・文:伊波達也
発行:2011年9月
更新:2013年6月

皮膚炎の症状が強く出ると皮がむけるので要注意

[シルクスカーフ使用による刺激の回避]
シルクスカーフ使用による刺激の回避

ワイシャツの襟の刺激で皮がむけないように、襟元を緩めてシルクスカーフを着用する

[放射線治療中の乳がん患者さんへおすすめのブラジャー]
放射線治療中の乳がん患者さんへおすすめのブラジャー

放射線治療中の乳がん患者さんには、皮膚がこすれないよう写真のようなやわらかいストレッチレース素材や伸縮性のある素材、授乳用、着物用、スポーツブラなどが適している。縫い目がこすれる場合は、裏返して使用するとよい

日常生活の過ごし方によっても副作用の程度には違いが出ます。

皮膚炎が強い場合には皮がむけてヒリヒリします。たとえば、頭頸部がんで、首に照射するときは皮膚の線量も非常に高く、70グレイという強い線量をかけるため、日焼けが強く出ます。男性で仕事柄ワイシャツにネクタイを締める人は、ワイシャツの襟の刺激で皮がむけてしまう可能性があります。ワイシャツの襟元を緩めてスカーフを巻いたり、首と接触するTシャツよりもランニングを着用し、襟元を開けるなど照射部位の皮膚を刺激しない工夫が必要です。

乳がんの場合は、ワイヤーの入っていない緩めのブラジャーを選ぶことも重要です。乳房にボリュームのある患者さんは、ブラジャーをつけない状態だと、乳房の下部と胸壁部分の皮膚が接してこすれてしまい、炎症を起こしたり皮膚がむけることがあるので、スポーツブラなどソフトに乳房を持ち上げられるブラジャーを選んで、皮膚がこすれないようにしてください。

夏の暑い季節は、紫外線にあたり過ぎるのも良くないので、日傘の使用がお勧めです。また、放射線により汗腺機能もダメージを受け、あせもができやすくなるので注意が必要です。

「乳がんの場合、脇の下へ放射線がかかることもあるので、脇の下がこすれないように、なるべく腕を開き気味にして、脇の下に卵をはさんでいるような感じで意識して生活するよう指導しています。

皮膚炎については、患者さんご自身の自己管理による予防が大切です。治療が終了して10日後ぐらいが日焼けのピークになりますので、照射中だけではなく終了後も放射線があたった範囲を刺激しないようにすること。こすったり、ひっかいたり、湿布を貼ったり、クリームやローションを塗ったりしないでください。お風呂に入るときも、せっけんを十分泡立てて、こすらずに洗うよう心がけましょう」

ベビーパウダーは金属の粒子が入っているため、放射線に反応して皮膚の線量が高くなってしまいます。かゆみは体温が上昇したときに出やすいので、涼しい部屋で冷たいタオルや保冷剤をあてたり、風呂上がりにかゆくなる場合はぬるめのシャワーを浴びたり、からだのほてりを取るとかゆみが軽減できます。

「こすれたりして皮がむけ、汁が出てしまうと、患部を保護しようと、ガーゼをあてたくなると思います。しかし、ガーゼは傷口にくっついてしまうので、空気に触れた状態で乾かしたほうが、早くかさぶたになります。気になる症状が出た場合は、あわてず相談しましょう」

副作用は放射線があたった部位に現れる

治療開始直後の副作用としては、放射線宿酔という、放射線酔いが出ることもあります。

「胃もたれやだるさ、つわりのような症状が現れることがあります。慣れない治療による緊張感や治療に対する不安感、通院による疲れやストレスが影響している場合もあります。ただし、抗がん剤の副作用による吐き気ほど強くはなく、多くの場合、制吐剤は必要ありません。休息や気分転換で対処できることが多いです」

そのほかの副作用として、照射で各部位の組織がダメージを受けることによって現れるものがあります。

たとえば、頭に照射すれば脱毛が起こります。また、脳圧亢進症状といって、頭痛やめまい、吐き気などの症状が出ることもあります。脳のむくみを抑える薬で対処します。

[口腔内の乾燥を防ぎ、清潔に保つための製品の例]
口腔内の乾燥を防ぎ、清潔に保つための製品の例

①洗口液(マウスウォッシュ)、②低刺激性歯磨き剤、口内保湿・浸潤剤(③ジェルタイプ・④液体タイプ・⑤スプレータイプ)

目への照射では目やにやドライアイ、まつ毛の脱毛などが起こります。目の周りをこすらない、目やには目専用の清浄綿にて湿らせてやさしく拭う、まつ毛の脱毛で目にゴミが入りやすい場合や日焼け対策としてサングラスをかけるなどで対処します。メガネの留め金が照射部位に触れる場合は注意が必要です。

口のなかであれば、ドライマウスや口内炎などが起こります。口のなかを清潔にするなど、歯科的なフォローも重要です。口のなかが痛んだり、しみたり、唾液が粘っこくなったり、乾燥を感じることもあります。また、口が乾燥していると、虫歯になりやすくなります。洗口液(マウスウォッシュ)などで乾燥を緩和できますので、医療者に相談してください。

食べ物の通り道である食道では、照射によって食道の粘膜がただれたり、弾力を失って、ひび割れたような状態になることがあります。禁酒・禁煙を厳守し、食べ物を20~30回ぐらいよく噛んで少量ずつ飲み込むことで、食道の粘膜にダメージを与えないようにしましょう。

化学療法との併用治療では副作用が強く出ることも

乳がんや子宮がんなどの患者さんでは、リンパ浮腫(リンパ液が滞って手足がむくむ)を心配される人も多いようです。脇の下への照射や、足の付け根の鼠径リンパ節や骨盤への照射で出るケースがあります。リンパ浮腫が出現した場合には、リンパドレナージ(マッサージ)や、弾性ストッキング、弾性スリーブを使用する場合もあります。

肺は、治療の終了半年後ごろまでに、放射線肺臓炎という激しい咳と息苦しさ、高熱などを伴う症状に見舞われることがあります。自覚症状が出たら、重篤な状況に陥る前に医師に相談してください。

胃や大腸などの消化管は、あまり放射線治療が行われません。しかし、食道がんや肛門管がんでは、化学放射線療法が行われます。このように化学療法との併用治療になると、副作用が多少強めに出ることがあります。

前立腺がんや子宮がんでは、隣接する臓器である膀胱や腸への影響で、頻尿や下痢などが起こりやすくなります。

生活環境や習慣に合わせ副作用をコントロール

放射線治療の副作用は、どのような副作用が、いつごろから、どの程度出現するのかを把握し、照射部位に気を配り、予防に努めることが大切です。

「放射線治療は全部やり通すことで最大の治療効果が期待できますので、副作用で治療が中断することのないように、自己管理をしっかりしていただきたいと思います。ご家族の協力が必要な場合もあります。自分の困っている点などをメモにして、医師や看護師に相談してください。常に自分の治療部位に対する心配りは大切ですが、あまり気にしすぎて神経質になるのもよくないと思います」

副作用とうまく付き合っている患者さんは、自分の生活環境や生活習慣に合わせて、できることとできないことを把握して、副作用の出現を想定し、事前に準備をしているそうです。たとえば営業職で、首への放射線照射で声が出にくくなったある患者さんは、声のかすれに備え、あらかじめメールでのやりとりを増やしていたそうです。

「東日本大震災による原発事故以降、放射線の人体に対する影響が不安の種となっています。もし検査や治療について不安があれば、遠慮せずに医師や看護師に相談してください」

末國さんはそう結びました。


1 2

同じカテゴリーの最新記事