前立腺がん放射線治療後の副作用、尿道・直腸症状、勃起不全の対策

監修:萬 篤憲 東京医療センター放射線科医長
取材・文:池内加寿子
発行:2007年6月
更新:2013年8月

放射線治療の副作用対策は?
症状に合わせて、対処法もいろいろある

対策1 排尿困難にはアルファブロッカー

写真:ハルナール
ハルナール

「小線源療法後に尿が出にくくなる排尿抵抗感や排尿困難の症状があるときには、アルファブロッカーがよく効き、患者さんに喜ばれています」

アルファブロッカー(商品名ハルナール、アビショット、フリバスなど)とは、もともと前立腺肥大症状に使われる薬で、膀胱頸部の筋肉や尿道をゆるめて尿を出しやすくする効果があり、数カ月程度で改善することが多いようです。

対策2 尿閉ならカテーテルで導尿

写真:自己導尿カテーテル
自己導尿カテーテル

「尿が出なくなる尿閉が起きたら、一時的にカテーテルと呼ばれる細い管を尿道から膀胱に入れて、導尿します」

カテーテルには、医療者の手で留置する「バルーン(フォーリー)カテーテル」と、自分で必要な都度挿入する自己導尿という2つの方法があります。

「長引く場合や、残尿があるときは自己導尿がよいでしょう。バルーンカテーテルは抜けたときなどの緊急時に病院に駆けつけなければなりませんが、自己導尿ならいつでもどこでも自分で処置できるのがメリットです。自然排尿の量が少ないときも、1日何回かの自己導尿で残尿を減らすとラクになります。看護師さんに導尿法を習えば難しくありません」

多くの場合、尿閉は半年から1、2年で自然に改善してきますが、カテーテルが1年以上になる場合は、手術で前立腺を削る経尿道的前立腺切除術(TURP)を検討します。

「放射線治療後の手術は尿漏れの原因にもなるので、放射線治療に詳しい泌尿器科医に相談することをお勧めします」

対策3 頻尿・尿漏れには、薬剤、漢方薬などを

頻尿などの排尿トラブルは、年齢とともに増えてきます。放射線治療後、「夜間のトイレの回数が増えた」と訴える患者さんでも、年齢的なものや、もともと頻尿傾向のある方は、若いときのように改善するのは難しいことがあるそうです。

「頻尿には、バップフォー、ポラキス、ベシケアなど切迫性尿失禁に使われる薬を処方します。これらの薬剤は、排尿・排便を抑制する作用があるため、便秘などの副作用が出るときは、牛車腎気丸や八味地黄丸といった漢方薬や、��ーブを原料としたエピプロスタットなどの薬を出すこともありますが、効果はまちまちですね」

対策4 血尿にも驚かず、様子をみる

小線源療法後に尿道が炎症を起こすと、尿の刺激によって年に1~数回程度、血尿がみられることがあります。「便潜血、尿潜血などの検査でミクロの出血が指摘されることもままありますが、他の病気がなければまず心配はないでしょう。様子を見て、症状に変化があったら担当医に相談してください」

対策5 直腸出血には、緩下剤。ひどいときはアルゴンレーザーで焼却

主に外部照射の治療後、直腸の血流障害による直腸潰瘍からの出血で、便に血がついたり、便器が真っ赤になったりすることがあります(1~2割程度)。治療後1、2年で発症し、1~2年続き、その後改善することが多いようです。

「便が硬いと直腸の内部に摩擦が起こり、出血しやすいので、酸化マグネシウム(緩下剤)で便を軟らかくすることが大切です。外部照射により、痔が悪化して出血するようなときは、ポステリザン軟膏や、ステロイド坐剤を処方することもあります。直腸出血があるときは、消化器科で生検をすると腸に穴があくことがあるので避けてください。直腸出血がひどいときは、直腸内に内視鏡を入れて、太く破れやすくなった毛細血管をアルゴンレーザーで焼くという方法があります」。大学病院の消化器科などに相談してみましょう。

写真:外部照射の治療後に見られる直腸出血
外部照射の治療後に見られる直腸出血

対策6 便や尿の失禁には紙パンツで対処

下着に便がつく、ガスと一緒に便が漏れるといった便失禁の症状は、時とともに改善することがほとんどです。

「最近では、使いやすい下着感覚の紙パンツやパッドが出ています。便失禁や尿失禁があっても、これらのグッズを利用して、旅行や生活を楽しんでいる方も多いものです」

対策7 重篤な後遺症の救世主は高圧酸素療法

難治性の直腸・膀胱出血のほか、万一放射線治療による重篤な後遺症が起こった場合は、「高圧酸素療法」で改善が期待できることがあります。「ガラスの高圧タンクの中に入り、高濃度の酸素を吸入することで、全身や局所の酸素濃度を高めて循環障害などを改善します」

対策8 勃起不全にはバイアグラやレビトラが有効

小線源療法や外部照射では手術に比べてED(勃起不全)になりにくいとはいえ、年齢的な要因やホルモン療法の影響などもあって徐々に低下するもの。 「アメリカ人と日本人では意識が違うようですが、相手を喜ばせようとする本人の執着心が大切です。EDになった場合、ED治療薬のバイアグラ(一般名シルデナフィル)が7~8割の人に有効で、量が多いほうが効果的。レビトラ(一般名バルデナフィル)は、より早く、より長く効くといわれています」 肝障害、腎障害のある方は低用量から始めます。ED治療薬は保険適用外ですが、担当医に相談してみるとよいでしょう。

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