放射線治療による副作用とその対策 皮膚炎には軟膏を、膀胱炎や下痢なら十分に水分を補給しよう

監修・アドバイス:山下浩介 神奈川県立がんセンター放射線治療科医長
文:池内加寿子
発行:2005年10月
更新:2013年8月

体内ではどこに影響しやすい?
口や食道、胃腸などに粘膜炎が起こりやすくなります

口の中や食道、胃腸など消化器の粘膜は、皮膚よりも放射線の感受性が強く、低い線量で粘膜炎を起こすことがあります。

「胃腸のがんに放射線をあまりかけないのは、効果がないからではなく、粘膜が放射線に弱いからです」

●口、のど、食道の粘膜炎

食道がん、肺がんへの照射では、食道やのどに、咽頭がん、喉頭がんなど頭頸部がんへの照射では、のどや口の中に発赤、違和感、軽い痛みなどが生じ、線量が増えるにつれて、ただれや疼痛、口内炎、ドライマウス、味覚異常、嚥下痛、声がれなどの症状が現れやすくなります。

口内炎、ドライマウスなどの症状がみられたら、水分をたっぷり補給し、細菌感染を防ぐため、こまめにうがいや歯磨きをすることも大切です。緑茶やうがい用の薬剤でうがいをするのも除菌効果があり、口の中がさっぱりします。

唾液が減少したら、人工唾液を医師に処方してもらって試してみてもよいでしょう。

口の中やのど、食道に違和感があるときは、香辛料、酸味、かんきつ類などの刺激物や熱いもの、冷たいものを避け、粘膜に沁みないもの、飲み込みやすいものをとりましょう。

固形物が食べられない場合は、食事を柔らかめにして、スープやポタージュ、缶詰の白桃など刺激の少ない果物、ゼリータイプの栄養食、胃の手術をした人が飲む栄養ドリンクなどでカロリーと栄養補給をするのも1つの方法です。

「炎症と味覚異常があってもはちみつをつけたパンなら食べられた」という患者さんもいます。

●腹部の粘膜炎

一方、子宮頸がんや前立腺がんなどの下腹部照射では、腸や膀胱の粘膜が影響を受け、下痢や頻尿が現れることがあります。 照射部の刺激を避け、清潔に保ち、乾燥しないようベビーオイルなどを塗って工夫します。

下痢をすると、水分や栄養素が吸収されずに排泄されてしまうので、水分補給につとめ、前述のような刺激が少なく消化のよい食事をとります。ひどいときは、担当医に下痢止めを処方してもらいましょう。

全身症状は? 白血球の減少も心配
船酔いのような症状が出ることがあります。骨髄抑制は起こりにくいもの

●放射線宿酔

放射線治療開始後間もなく、食欲不振や胃の不快感、吐き気などの症状が現れることがあります。

「頻度は高くないのですが、放射線宿酔といって、船酔いか二日酔い、つわりに似た症状が出ることがあります。放射線治療の初日に1番強く現れて、2、3日続くことが多いですね。頭やおなか、骨盤などにかけたとき、3~4割の人に起こります。胸に照射する場合はもっと少なく、2割程度。ひどく吐くようなことはほとんどありませんが、吐き気止め(プリンペラン)や車酔いのときに使うマイナートランキライザーなどで改善します」

●骨髄抑制

白血球や血小板が減少する骨髄抑制も心配ですが、放射線単独で治療する場合は意外に起こることは少なく、あまり心配することはないそうです。

「ただ、最近増えてきている抗がん剤と放射線治療の同時併用では、予想以上に骨髄抑制が強く出ることがあるので、注意が必要です」

白血球減少が強くなると、抵抗力が弱まり、粘膜の炎症が起こりやすくなります。肺や食道に照射している場合は、食道に食物が沁みて2カ月くらい食事が食べられなくなったり、耳鼻科領域で頭頸部などに照射している場合は、のどが痛くなったり、声が出なくなったりすることがあります。

「白血球が2000以下になったら、細菌感染を防ぐために人ごみに出ないなどの注意が必要です。医師の診察時の説明や血液検査の結果をメモして、日常生活を送るときの参考にしましょう。症状によっては、白血球を増やす薬(G-CSF)や痛み止めなどを使い、場合によっては入院して対処します」

食事が食べられないことがあっても、治療終了後2、3カ月で炎症や痛みは改善してきます。口の中の唾液腺が影響を受けた場合、ピーク時には唾液の量が10パーセントほどに減り、治療後はだんだん改善してくるものの、100パーセント元通りにならないこともあるそうです。担当医に相談しながら食事の工夫や人工唾液を使うなどの方法で対処しましょう。

「唾液腺障害以外の急性期の症状は、治療終了後半年から1年ほどで徐々に改善し、いずれは治ります。私たち放射線科医は、患者さんに対してやさしい治療をめざしたいのですが、一時的な副作用に耐えていただくことが治療効果や将来の希望につながることもあるのです」

放射線治療は、がん細胞と正常細胞の修復の差を利用して、日々少しずつ積み重ねるのがポイントですから、副作用が強いからといって1週間以上間をあけるのは、体はラクでもがん細胞まで復活させることになり、得策ではないそうです。

後遺症(晩期障害)にはどんなものがある?
唾液腺障害、直腸炎、リンパ浮腫などが、ごくまれに起こることがあります

「治療後、数カ月以上たってから現れる後遺症(晩期障害)については、できる限り避けられるように治療計画をたてます。日常生活に影響を及ぼすような障害の頻度は5パーセント以下、重症なものは1パーセント以下。ただし、こうしたパーセンテージも便宜的なもので、現実にはごくまれにしか起こりません」

後遺症として起こりうるのは、頭頸部にかけたときは唾液腺障害、肺では肺腺腫症、子宮では放射線直腸炎、直腸膣ろう、腋の下のリンパ節ではリンパ浮腫など。症状と対策を下の表にまとめました。

「治療後に何らかの異常を感じたら、医師に気兼ねなどせずに、率直に症状を伝えて、対処法を聞いてください。適切なアドバイスを得られない場合は、放射線科専門医または放射線腫瘍学会認定医に相談するか、セカンドオピニオンを受けることをお勧めします」

[主な後遺症(晩期障害)の症状と対応策]
障害部位 症状 対応方法
唾液腺障害など
頭頸部(耳鼻科領域)の障害
口の渇き(ドライマウス)
味覚障害
虫歯 歯肉炎
声の嗄れ
のどの痛み
呼吸時の違和感
目の乾き
●水分を補給する
●やわらかく口あたりのよいものを食べる
●こまめにうがいをする
●丁寧な歯のブラッシングをする
●食事のときは、人工唾液を試してもよい。
 口内炎が悪化して食事がとれないときは、痛み止めや、麻酔入りのうがい薬などで痛みをとる
●声のかれ、痛み、飲み込み時、呼吸時の違和感には、蒸気吸入が有効
●目の乾きには点眼薬を
放射線肺炎(肺臓炎)
肺線維症
軽いせき 微熱 呼吸困難 ●せき止め、蒸気吸入などの対症療法
●進行を止めることは難しいが、ステロイドが有効なこともある
●呼吸困難症が強いときは、専門医へ
放射線直腸炎
放射性直腸潰瘍
下血 肛門周囲痛 ●止血剤、鎮痛剤の投与
●ときにステロイドの注腸が有効
 下血が強く、症状が持続するときは専門医へ
放射性膀胱炎
放射性膀胱潰瘍
頻尿 血尿 排尿時痛 下腹部痛 ●止血剤、鎮痛剤の投与
●血尿が持続する場合、尿閉になった場合は専門医へ
骨盤内の障害 卵巣機能低下による不妊
早期閉経 更年期症状
膣粘膜の乾燥 萎縮 性交痛 下肢のリンパ浮腫
●更年期症状には、ホルモン補充療法(子宮体がん、卵巣がんの1部などの場合は禁忌)、漢方療法が有効
●膣の乾燥や性交時痛には、リューブ・ゼリーが効果的。萎縮を伸ばす器具もある
●リンパ浮腫には、リンパドレナージ(マッサージ)、弾性包帯やストッキングによる圧迫などが有効。早期に発見し、専門家の指導を受け早期に対処することで、かなり改善する
『治療』Vol87, No.4特集「放射線治療と患者ケア」(山下浩介著)をベースに編集部で作成

山下浩介さんより一言

私たち放射線治療医は、急性の副作用を最小限にすると同時に、放射線の後遺症(晩期障害)が起こらないように細心の注意を払いながら、治療効果が最大になるように治療計画を立てています。日本放射線腫瘍学会(JASTRO)では、放射線による急性および慢性の副作用について、症状のほとんどない軽度なものから重篤なものまで、グレード0~4の5段階に分けたスコアで、判定の目安にしています。本文で述べた急性の副作用はほぼグレード0から2の「軽度~中等度」にあたります。上の表にある後遺症(晩期障害)では、グレード3、4の「重度」の反応にあたるものも記載されていますが、放射線治療医としてはこれらの重症の副作用は「起こってはいけない」というべきもので、ごくまれに、例外的にしか起こらないものです。放射線治療に伴う副作用をさまざまな工夫で軽減している現在でも、まったく皆無にするまではいたっていませんが、私たちはそれにまさるメリット、治療効果があると信じて治療を行っています。過剰に心配して自己判断だけで治療を中止、休止するのは避けましょう。万一、気になる症状が現れたら、放射線科専門医や日本放射線腫瘍学会認定医に相談してください。

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