過剰治療をなくせるか。薬物療法の有用性を実証する大規模臨床試験が進行中 遺伝子の活性度から予後を予測する乳がん遺伝子検査の最前線
すでにアメリカで広く普及 ステージ3への一部適応も

オンコタイプDXの検査標本
オンコタイプDXによって得られる結果は、基本的に再発スコアのみだが、検査結果報告には前述の試験に基づいた以下の数値も記され、術後補助療法選択の判断材料にできる。
リンパ節転移陰性の患者さんの場合は、(1)5年間タモキシフェンを投与した場合、10年以内に再発する確率、(2)CMFあるいはMF療法+タモキシフェン投与の場合の10年以内に再発する確率。
リンパ節転移陽性の患者さんの場合、転移が1~3個の場合と4個以上の場合はそれぞれ、(1)タモキシフェンのみ投与の場合の5年以内に再発、または死亡する確率、(2)CAF療法+タモキシフェンの5年以内に再発、または死亡する確率。
適応は徐々に拡大し、現時点では(1)ステージ(病期)1、2、3〔3はT3N1(がんの大きさが5センチ以上で、可動性のある同側腋のリンパ節転移)まで〕、(2)ER陽性(リンパ節転移陽性の場合はPRのみが陽性でも可)、(3)リンパ節転移陽性の場合は閉経後、が条件だ。手術で切除したがん組織を使って調べるのが一般的な利用法だが、マンモトーム(*)で採取した検体でも診断可能で、術前補助療法にも活用できる。
「米国食品医薬品局(FDA)の承認こそ得られていませんが、アメリカでは2008年1年間に4万件もの検査が実施されました」と開発元と日本での独占受託契約を結ぶ(株)エスアールエルの担当者は言う。
同社は2007年2月より受託を始めた。実施施設数は40ほど。施設名や診断実績は非公開。患者さんが同社に直接診断を申し込むことはできない。診断に要する期間は4週間程度。診断費用は、同社が医療機関に請求する額で45万円。
*マンモトーム=乳房内にできた病変に約3~4ミリほどの針を刺して組織を吸引し採取する針生検機器
マンマプリントは低リスク群の識別で優れる

マンマプリントは2004年からオランダのアジェンディア社が開始した検査。FDAの承認を2007年に得た。
オンコタイプDX同様、がん組織の遺伝子の活性を調べるのだが、用いられる技術は、DNAマクロアレイ(*)という技術。1度に2万5千の遺伝子発現を検出できる網羅的DNAマイクロアレイ技術を利用し、人間の持つ遺伝子を網羅的に調べて、その活性・不活性が乳がんの予後予測(具体的には、5年以内に遠隔転移を起こす確率)に最適な70種類の遺伝子セットを見出した。
マンマプリントはこの70遺伝子の活性パターンから高リスクか低リスクかを判定。高リスクなら5年以内に遠隔転移が起こりやすく、低リスクは起こりにくい。マンマプリントを申し込むと、このDNAマイクロアレイを使用して検査が行われる。
この判定法の有用性は、オランダ国立がん研究センターが保存する標本(1984~95年)を使って検証された。標本をマンマプリントで高リスク群と低リスク群に分類し、全生存期間を比較したところ、差は歴然としていた。例えば、リンパ節転移がない群のみを対象に、10年生存率を比べると、高リスク群50パーセントに対して、低リスク群は96パーセントであった。
また、マンマプリント、ザンクトガレン基準(2001年)、NIH合意基準(2000年)の3つでリスク評価を行ったところ、順に40パーセント、15パーセント、7パーセントが低リスク群と判定された。これら3種類の低リスク群について、遠隔転移無発症率で比較してみると、マンマプリントが最も成績が良かった。
逆に、他の2基準によって高リスクに分類された各群のうち、マンマプリントによって低リスクと判定された患者さんの遠隔転移の発症リスクは長期的に極めて低い。つまり、高リスクと判定されたばかりに不必要な薬物療法によって副作用に苦しんだ患者を、マンマプリントは救えたかもしれないのだ。
より新しい検証はベルギーに本部を持つ国際的な乳がん研究グループTRANSBIGによって行われた。61歳未満の患者の標本(1980~98年)を用いて、リスク評価の精度についてアジュバント・オンライン(従来から知られる予後因子をもとに再発リスクを計算するオンラインソフト)と比較。その結果、マンマプリントのほうが優れていることが分かった。とりわけ、特異度(本来低リスクと評価されるべき患者さんを低リスクに分類する精度)でまさっていた。ただし、この検証の検体提供者はリスクに関わらず、術後補助療法を受けていない。
*マイクロアレイ=ガラスやシリコン製の小基盤上にDNA分子を高密度に配置したもの。数千から数万種といった規模の遺伝子発現を同時に観察することができる
ER陰性でも受けられる 受診は手術前に決断
こちらの適応も拡大してきており、現在は(1)ステージ1、2、(2)リンパ節転移は3個まで、が条件。年齢制限はない。ER陰性でも構わない点がオンコタイプDXとの大きな違いだ。3ミリ角以上採取できれば針生検の検体でも検査可能という。
日本では(株)DNAチップ研究所が独占契約を結び、2008年3月より受託を始め、10施設ほどで実施。これまでの診断件数は100件程度という。患者さんが同社に直接診断を申し込むことはできない。診断に要する期間は3週間程度。診断費用は、同社が医療機関に請求する額で38万円。
遺伝子解析手法の違いから、マンマプリントの場合は、手術後1時間以内に試料(細胞などの検査材料)を採取して専用キットに保存する。このため、手術前にマンマプリントの利用を決めておく必要があるが、試料を凍結する必要はない。
同じカテゴリーの最新記事
- 正確な診断には遺伝子パネル検査が必須! 遺伝子情報による分類・診断で大きく変わった脳腫瘍
- 高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!
- がんゲノム医療をじょうずに受けるために 知っておきたいがん遺伝子パネル検査のこと
- AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す
- 「尾道方式」でアプローチ! 病診連携と超音波内視鏡を駆使して膵がん早期発見をめざす横浜
- 重要な認定遺伝カウンセラーの役割 がんゲノム医療がますます重要に
- 大腸のAI内視鏡画像診断が進化中! 大腸がん診断がより確実に
- 「遺伝子パネル検査」をいつ行うかも重要 NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに2剤目ヴァイトラックビ
- 血液検査で「前がん状態」のチェックが可能に<img draggable="false" class="emoji" alt="⁉" src="https://s.w.org/images/core/emoji/11/svg/2049.svg"> ――KK-LC-1ワクチン開発も視野に