がん体質を調べる遺伝子検査・診断の最前線
診断結果は本人より家族にこそ意味を持つ
では、遺伝子検査が陽性の場合、どうしたらいいのか。
「現在できることは検診をまめに受け、早期発見に努めることです。リンチ症候群の場合、大腸と胃の内視鏡検査、女性の方は子宮内膜の細胞診や超音波検査を1~2年に1回受診することを勧めています。大腸内視鏡検査による大腸がん予防の有効性は、はっきりしていますが、それ以外の検診については、まだエビデンス(科学的根拠)が不足していて、気休めにしかなっていない可能性もあります。
前述のように遺伝子検査が陰性でも、遺伝性のがんが否定されるわけではありませんから、定期的な検診を勧めています」
つまり、大腸がんの発症からリンチ症候群が疑われた方にとっては遺伝子診断が陽性でも陰性でも検診を受けることが勧められることには変わりない。
「実は、遺伝子診断のメリットはおもに家族の方が享受します。ご本人が陽性だったときに、家族の方がその体質を引き継いでいないか調べることができ、検診を受けることによりがんを早期発見する機会が増えます」
しかし、日本では家族が遺伝カウンセリング外来を受診することは必ずしも多くなく、遺伝子診断の意義があまり生かされていないのが現状だ。
がんの種類 | 一般集団 | リンチ症候群 | リンチ症候群 平均発症年齢 (才) |
---|---|---|---|
大腸 | 5.50% | 80% | 44 |
子宮内膜 | 2.70% | 20-60% | 46 |
胃 | <1% | 11-19% | 56 |
卵巣 | 1.60% | 9-12% | 42.5 |
胆管 | <1% | 2-7% | 報告例なし |
尿路系 | <1% | 4-5% | ~55 |
小腸 | <1% | 1-4% | 49 |
脳/中枢神経系 | <1% | 1-3% | ~50 |
今後は、効果を実感できる積極的予防策に期待
遺伝性乳がんも遺伝子診断が役立つものの1つである。
「BRCA1、BRCA2遺伝子に病的変異があると、若くして乳がんや卵巣がんを発症する可能性が高くなります。このような体質の方に対して、NCCN(米国包括がんセンターネットワーク)のガイドラインでは、35~40歳に、または出産終了時の卵管と卵巣の摘出(予防的摘出術)を推奨しています。卵巣がんは早期発見が難しく、命に関わることが多いからです。ただし、日本では予防的摘出術は保険診療ではなく、ほとんど行われていないのが現状です」
定期検診による早期発見だけでは、がん体質の遺伝子診断はあまり普及しないだろう。
「今後��積極的な予防法が確立すれば、変わると思います。私たちは、今がんに対する免疫を利用した予防を行う臨床試験を計画しているところです」
- 病気かもしれないという不確実な不安から解放される
- 陽性の場合、発症のリスクを予測し早期発見への対応ができる
- 保因者診断では、陰性の場合、遺伝性の病気かもしれないという心配や定期的な検査から解放される
- 陽性と判定された場合、精神的ショックを受けたり、将来に対する不安を感じるかもしれません
- 遺伝子の異常が検出されない場合でも、遺伝性腫瘍の疑いは残る
- 子どもに遺伝したこと、または遺伝しているかもしれないことに罪悪感や責任感のようなものを感じるかもしれません
- 家族の中に遺伝病のことを理解してくれない方がいて、悩むかもしれません
- 家族や親族に話すべきか迷ってしまうかもしれません
- 生命保険加入に支障があるかもしれません
- 就職や昇級、結婚のときに遺伝のことがもとで、うまくいかないかもしれません
- 遺伝子検査の結果を子どもに将来、どのように話すか
- 子どもを見る目がこれまでと変わるかもしれません
- 兄弟間で差別感を感じてしまうことがあるかもしれません
- 子どもの人権が十分に尊重されないかもしれません
- 秘密にしておいた親子関係が明らかになることがあります
- 陽性と言われたとき、あなたはどのような反応をすると思いますか
- これまでに、良い知らせを聞いたときにどのように反応しましたか。悪い知らせのときはどうですか。今回も同じように反応すると思いますか
- ご家族に、陽性であったことが言えますか
- まず最初に、どなたにお話しになりますか
- 気分が落ち込んだときに、相談したり支えてくれる方はいますか。それはどなたですか
- ご家族は、どのように反応すると思いますか
〈遺伝子検査を利用することのいい点〉
〈遺伝子検査を利用することに注意が必要な点〉
〈子どもの遺伝子検査を行う場合〉
〈次のような状況を思い浮かべてみましょう〉
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