単にがんを見つけるだけでなく、どの程度タチが悪いのかを見定めることが大事 肝がんはマーカー、超音波で確定診断。補完的にCTが主流

監修:森安史典 東京医科大学内科学第4講座(消化器内科)主任教授
取材・文:町口充
発行:2009年9月
更新:2013年4月

CTも有効だが、X線被曝、アレルギーなど合併症が課題

確定診断名に対する正診率
(造影超音波VS造影CT)
  造影CT 造影超音波
正診率 88.2% 91.3%
McNemar検定p<0.285(造影後超音波vs造影CT)

血管イメージ、血流の変化を見るにはCTも有効だ。よく行われるようになってきたのがダイナミックCTと呼ばれる検査法で、造影剤を血管から急速注入してタイミングを図って撮影する方法。最新のCT装置は、空間分解能、時間分解能がともに高く、血流のわずかな変化もキャッチする。

「肝臓は上下20~25センチぐらいの厚さがありますが、最新の高速化したCTだと数秒ほどで肝臓全体を撮ることができます。造影剤を注射すると、30秒ぐらいで動脈層にやってきて1分ぐらいで門脈層に至ります。そのタイミングを、何度でも撮れます。何度も撮ると被曝も大きいですが動脈相を2回、門脈相を2回から3回と、1度の検査で4~5回撮ると血流の変化を細かく見ることができ、正確な診断につながります」

欠点は、X線による被曝の問題だろう。また、造影剤として使用するヨード(ヨウ素)によるアレルギーも少なくない。造影超音波で用いるソナゾイドが0.5㏄ほどに対して、造影CTで使うヨードは100ミリリットル。軽いものも含めれば検査を受けた10パーセント近くに副作用がみられ、アナフィラキシーショック(急性のショック症状)で死に至る例も2万例に1例くらいある。こうした合併症の問題もあり、また、造影超音波の技術が飛躍的に進歩していることから、肝がんの検査に関してはCTを撮らなくても、造影超音波検査で確定診断が可能になってきている。ただし、超音波は、非常に太った人では見づらいという難点があり、肝がんの診断の場合、10~15パーセントの人は超音波検査が十分にできないといわれる。またソナゾイドは、卵黄を使っているため、卵アレルギーの人は検査を受けられない。このため検査の順番としては、腫瘍マーカーと併用して超音波検査で確定診断を行い、それでも十分でない場合、補完的にCT検査を行うという施設が増えているようだ。

[���売中・開発中の超音波造影剤]

名称 コード名 開発(製造)元 平均径 殻材質 気体
アルブネックス Mallinckrodt (米) 4.3μm 変成アルブミン 空気
レボビスト SHU-508 Schering (独) 2~4μm なし (パルミチン酸) 空気
オプティソン FS069 Amersham Health (米) 3.0~4.5μm ヒト血清アルブミン フッ化炭素(C3F8)+空気
ディフィニティ MRX115 Bristol-Myers (米) 1.1~3.3μm 燐脂質 フッ化炭素(C3F8)+空気
イマジェント AFO150 Imcor (米) 6μm 燐脂質 フッ化炭素(C6F14)+空気
ソノビュー BR-1 Bracco (伊) 2.5μm 脂質 フッ化硫黄 (SF6)
ソナゾイド NC100100 GE Healthcare (米) 3μm 脂質 フッ化炭素(C4F10)+空気
エコジェン QW3600 Abbott (米) 3~5μm (界面活性剤) フッ化炭素(C5F12)
PB127 PB127 Point Biomedical(米) 4μm ポリマー+アルブミン (2層) 窒素
AI-700 AI-700 Acusphere(米) ~2.2μm ポリマー(PLGA) フッ化炭素

造影MRIにより早期がんが見つかるようになった

造影超音波検査、CTに続いて、MRIも進歩が著しい。

ダイナミックCTと同様、造影剤を静脈から急速注入し、造影剤流入時の時間的変化を画像化してがんを見つける、ダイナミックMRIが普及している。

造影剤は何種類かあり、主にマグネビスト(一般名ガドペンテト酸メグルミン)というガドリニウム(常磁性の希土類元素)を用いた造影剤が使われているが、今年1月、EOB・プリモビスト(一般名ガドキセト酸ナトリウム)という新しい肝MRI用造影剤が発売開始となり、注目されている。

「EOB・プリモビストもガドリニウムでできていますが、ソナゾイドがクッパー細胞に取り込まれるのに対して、EOB・プリモビストは20分かけて肝細胞に取り込まれます。最初の3分ぐらいまではダイナミックCTと同じように血管造影ができるので、CTのかわりにダイナミックMRIで血管を見て、それから20分後に肝細胞相を見ることができます。当然のことながら肝細胞がんは肝細胞にできるので、がんになればEOB・プリモビストを取り込まなくなり、黒く抜けて画像診断が可能になります」

EOB・プリモビストを使った造影MRIにより、中分化とか低分化のタチの悪いがんはもちろん、非常に早期のがんも見つかるようになった。

「早期のがんといっても、2センチ以下とか1センチ以下という大きさだけではなくて、『動脈血流が増えて、門脈血流が減る』という血流の変化がまだ起きていないがんも、画像で識別できることがわかりました。つまり、ダイナミックCTとか造影超音波とか従来の造影MRIのように、血流の変化に頼って調べても見つからなかったがんが、どんどん見つかるようになってきたというわけです」

ただし、まだがんでないものも一部見つかるので、そのあたりの鑑別が難しいという。それでも、血流の変化が少ないものでも、実は細胞の機能は早くから変化して失われつつあり、それを見分けられるようになった意義は大きい。造影MRIで早期のがんが見つかるようになったことで今後、診断の流れが変わってくる可能性があるという。

現在のように血流に頼る造影診断では、早期のがんはなかなか見つからない。早期がんをいち早く見つけて治療しようとするなら、血流が変化する前の段階でのチェックが必要だ。まずはEOB・プリモビストを使った造影MRIを行い、次に造影超音波検査や造影CTで調べる、という方向に変わっていくべきではないか、との意見もある。

ただ、MRIは高価な機械なのでどの施設も備えているわけではなく、スクリーニング(ふるいわけ)の初期にMRI検査を行うといってもなかなか数をこなせないという問題点がある。

進歩する診断技術は分子標的薬の効果判定など治療も支援

写真:「HIFU」治療風景

マイクロバブルを用いた肝がん治療の強力集束超音波「HIFU」治療風景

今後は診断技術をいかに治療に応用し、治療をバックアップするかにも大きな期待が寄せられている。肝がんの治療に分子標的薬が有効とわかり、ネクサバール(一般名ソラフェニブ)やアバスチン(一般名ベバシズマブ)が注目されているがいずれも血管新生阻害剤。もしネクサバールが有効であるなら、がんが小さくなる前に血管が退縮していくから、それを造影超音波で調べれば薬が効くかどうかが早くからわかる。薬を投与してから1週間、2週間後にがんの血管を調べて、血流に変化がなければ効いていないということになる。分子標的薬は高価だけに、薬の効果が早期に判定できればムダに使い続けることもなく、また別の薬に切り替えることもできる。治療面でも、マイクロバブルを肝がんの局所治療の際のイメージングに用いる研究も進んでいる。すでに肝がんのラジオ波焼灼療法では、マイクロバブルを用いた超音波ガイド下での治療が行われているし、動脈塞栓療法でも、効果の判定に造影超音波が有効だ。まだ研究の段階だが、マイクロバブルは非侵襲治療として注目される強力集束超音波(HIFU)を用いた肝がん治療の増強剤としても有効で、よい成績をあげているという。

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